抗がん剤、心臓病の遠因?
長期使用の影響、学会が問題視 社会復帰急増、新たな課題に
抗がん剤の進歩などで、治療後に社会に復帰する「がんサバイバー(がん経験者)」が増えたことで、抗がん剤の影響とみられる心臓や血管など循環器系の疾病に苦しむ患者が目立ち始めた。
治療中の抗がん剤の影響とみられる心臓病で亡くなる人も出ている。
問題視した専門学会などが対策に動き始めた。
東京都に住む70歳代の女性は、2年前に悪性リンパ腫を発症し、抗がん剤の治療で治った。
ところが、その直後から心臓の不調を訴え、東京大学病院(東京・文京)の腫瘍循環器外来を受診した。
抗がん剤の影響による重度の心不全という診断を受け、薬物治療を開始。
現在は改善傾向にあるが、定期的に通院して心臓の働きを調べる。
かつて、がんは「不治の病」とされ、余命の延長が最優先とされてきた。
だが、抗がん剤の技術開発の進展も大きく貢献し、生存率が著しく向上。
がんサバイバーとして完治したり、通院で治療したりしながら、日常生活に戻る人が増えた。
国立がん研究センターによると、2006~08年にがんと診断された患者の5年生存率は62%と、1993~96年の53%から9ポイント増えた。過去5年以内にがんと診断されて生存している人は、15~19年の平均で約310万人に達した。
長寿化が背景
長生きするようになったゆえに、浮き彫りになってきたのが、がんサバイバーが血管や心臓の病気で苦しむ姿だ。
もともと、抗がん剤は正常な細胞や組織も傷つけるものも多く、脱毛や嘔吐などのさまざまな副作用を伴う。
投与中に心臓の働きが弱まったり、血栓が肺の血管に詰まったりする可能性は知られていた。
だが、近年、種類の違う抗がん剤を使い分けて治療成績を上げているため、1人の患者の投薬期間も長くなりやすく、体への負担が増している。
新潟県立がんセンター新潟病院の推計によると、心臓や血管の病気で苦しむがん患者は15年時点で国内に25万人。
がん患者の8%に当たる。
高齢化などで30~34年には31万人に増える見込みだ。
心臓の細胞などでは、抗がん剤でできた傷が回復しにくいため、投与終了後にも影響が出やすいという。
抗がん剤による治療効果が比較的高い乳がんの場合、治療開始後1年以内に死亡する患者の3割が、がん以外の抗がん剤の影響とみられる心臓や血管の病気だ。
診断から10年後には心臓や血管の病気で亡くなる人の数ががんによる死亡者数を上回る。
抗がん剤が心臓や血管を傷つけ、その影響が重篤化している可能性がある。
まだ抗がん剤と循環器系の病気の因果関係は不明な点も多く、発生頻度などの実態把握はできていない。
そこで専門学会が本格的に動き始めた。
9月下旬に開かれた日本腫瘍循環器学会で、20年春から抗がん剤が心臓の機能を弱める作用の起こしやすさなどを調べる手続きを始めることを決めた。全国の大学病院やがん治療の拠点になる病院に広く参加を呼びかける。
来年にも手引書
さらに、抗がん剤の心臓への負担増加を防ぎながらがんの治療を続ける手引書を作り始め、早ければ20年内に完成させる。
抗がん剤治療の専門医の学会と共同で治療指針も作る。
循環器の医師が診る心臓にはがんができない。
がんを治療する腫瘍内科医との連携は弱かった。
循環器とがんを治療する医師の連携も今後の課題だ。
全国に先駆けて、抗がん剤によると思われる心臓や血管の病気を診る専門外来を設置した大阪国際がんセンターは、他の医療機関からも患者を受け入れている。
「全てのがんセンターに常勤の循環器医がいるわけではないため、工夫が必要となる。
増えるがんサバイバーを支えるためにも、がん治療とほかの疾患治療との連携は待ったなしだ。
参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2019.12.5
<関連サイト>
がん患者、循環器病もケア
https://osler.hatenadiary.org/entry/2019/11/01/060000