「先進医療」の治療費

= 「先進医療」も治療代安く =
がん治療の3つの柱は手術と薬物療法放射線療法だが、健康保険が適用されない「自由診療」まで含めると、さらに選択肢が広がる。
また、保険診療自由診療の中間に位置する「先進医療」という制度もある。
先進医療とは、健康保険法に基づいて定められた医療技術で、将来の保険診療の対象候補と言えるものだ。保険で認めるかどうかの判断が難しい高度な医療行為のうち、厚生労働相が例外的に保険医療との「混合医療」を認めたものを指す。
 
日本の医療制度では、保険医療と自由診療を組み合わせることは原則できない。
先進医療も治療効果に関する科学的根拠が十分とは言えないため、健康保険の対象外で、全額自己負担となる。
しかし、将来的に健康保険の対象になる可能性があるため、特例として保険診療との併用(混合診療)が認められているのだ。
がん治療に関しては「陽子線治療」「重粒子線治療」「ロボット手術」のほか、薬物療法や遺伝子検査などの一部がこれにあたる。
 
先進医療は現時点で92種類あり、保険診療に移行する可能性が高い「先進医療A」と、Aに比べて科学的根拠が乏しいとされる「先進医療B」に分類される。
 
先進医療Aに指定されているのは28種類で、科学的証拠がさらに得られれば保険診療に移行する可能性も高く、実際に保険診療に組み入れられた技術もたくさんある。
 
例えば、ロボット手術はこれまで前立腺がんと腎臓がんに対してのみ保険が認められてきたが、今年4月の改定では胃がん、直腸がん、肺がんなど、7種類のがんに対象が広がった。
陽子線、重粒子線についても、患者数が最も多い前立腺がんに対しても保険が使えるようになった。
 
保険診療では「高額療養費制度」が適用されるため、先進医療が保険診療に移ると、個人の支払額は大きく減る。
前立腺がんの重粒子線治療の場合、先進医療では自己負担が約300万円もかかったが、標準的な所得の患者は10万円程度で済む。
しかし、高額の医療費を国全体で負担していることに変わりはないから、国民的議論が必要となる。

執筆 東京大学病院准教授・中川 恵一 先生
参考・引用一部改変
日経新聞・夕刊 2018.8.8