「がん」は早期発見が最大のカギ

早期発見が最大のカギ

洋の東西を問わず、社会の成熟は少子化につながる。
移民などの形で若い労働力を導入しなければ、経済成長も社会保障制度の維持もままならない。
これまで移民をほとんど受け入れてこなかった日本では、高齢になっても働く必要がある。
実際、65歳以上の高齢者が全就労人口に占める割合はドイツが2%、フランスは1%程度にしかすぎないが、わが国では12%にも達する。
そして、がんは細胞の老化といえる病気だから、日本では働く人にがんが多発することになる。
まさに「がん社会」で、仕事とがん治療の両立は、働き方改革の大きなテーマだ。

「がんを働きながら治す」ためにもっとも大切なことは早期に発見することだ。
私自身がぼうこうがんを早期に発見して、2018年12月末に内視鏡治療を受けた。
自分で超音波検査を行い、無症状のぼうこうがんを早期に見つけたのは、正直「医者の役得」であり、一般化はできない。

しかし18年12月28目に手術を受け、大みそかに退院できたのは事実だ。
東京大学病院で治療を受けたから、手術翌日の29日から自分の部屋で雑務もこなした。
早期発見が功を奏し、「治療と仕事の両立」を文字通り実践したわけだ。
もちろん、正月明けからは普通に仕事をしてきた。
 
もし発見が遅れ、がんがぼうこうの筋肉の層にまで及んでいたとしたら、ぼうこうを全摘することになる。
そうなると入院期間は3~4週程度になり、退院後もすぐにフルタイムの勤務に戻れないケースも少なくない。
 
ぼうこうがんに限らず、早期の胃がんや大腸がんなどに対する内視鏡手術でも入院期間は数日で、薬物療法は不要だ。
早期がんに対する放射線治療は外来通院が原則で、東大病院の場合、肺がんは4回、前立腺がんの場合は5回の通院で済む。
一回の照射時間はたった90秒だから、もちろん仕事の合間に治療を受けることができる。
進行がんでも時短勤務などのフレキシブルな対応によって、治療と就労の両立は十分に可能だ。
とはいえ、両立を実現する最も大切なポイントは早期発見なのだ。

執筆 東京大学病院准教授・中川恵一先生

参考・引用一部改変
日経新聞・2019.3.27