放射線治療は新時代に

放射線治療は新時代に

理想的な放射線治療とは、がん細胞にだけ放射線を集中させることだ。

これが完全に実現できれば、正常組織に何ら悪影響を与えることなく、がん病巣に無限量の放射線を照射することができる。

副作用はゼロで、100%の確率でがんを消滅させることが可能となる。

 

放射線治療の歴史は、この理想に近づくための努力の積み重ねだった。

この面での技術開発は日本が世界をリードしてきた。

高精度の放射線治療を実現するためには、照射直前に病巣の位置を正確に計測し、位置の誤差なく照射する必要がある。

私は、コンピューター断層撮影装置(CT)を放射線治療室に設置して、高い精度の位置決めを可能とする世界初のシステムを開発し、1987年に国際会議で報告しました。

さらに、放射線治療装置(リニアック)の治療ビームを、用いたCTで位置決めするシステムを世界で初めて患者に使い、1996年に医学博士論文にまとめました。

こうした先端的なシステムは世界中の研究者の注目を集め、見学者が絶えませんでした。

 

CTが搭載されたリニアック製品が登場したのは数年後のことで、今やCTをもとにした「画像誘導放射線治療」は世界標準になっています。

 

「CT―リニアック」は放射線治療の精度向上に役立ったが、CTではうまく描出できないがんは少なくない。

その点、磁気を利用した磁気共鳴画像装置(MRI)検査は、CTでは把握が困難ながんの進展範囲を正確に把握することが可能だ。

 

そこで登場したのが、MRIとリニアックを一体化した装置だ。

腫瘍と正常な臓器の位置や形を照射直前にMRIで画像化し、超高精度な放射線治療を実現できる。

 

毎回の放射線を極限まで集中して照射することにより、副作用を大きく減らしながら、がん病巣に高い線量を投与できる。

また、治療中にMRIを撮影することも可能で、病巣の動きを追尾することも視野に入っている。

 

放射線治療の理想型である「MRI―リニアック」は日本でも薬事承認されており、膵臓がんにも有効とのデータが出ている。

放射線治療は新時代に入ろうとしているのだ。

 

執筆

 東京大学病院・中川恵一 准教授

参考・引用一部改変

 日経新聞・夕刊 2019.12.18