がん治療に遺伝子変異の抑制

遺伝子変異の抑制、効果的

日本人の肺がんの56%を占める腺がんでは、発がん原因の53%が上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子の変異だ。
これは東洋人、とくに非喫煙者の女性に特徴的にみられるもので、欧米では17%と日本人の3分の1以下にすぎない。
 
この変異があると、増殖のスイッチがオンのままになりますが、スイッチをオフにするEGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR―TKI)が開発され、非常に高い有効性が確認されている。
現状では第3世代まで4種類の薬剤が使用可能で、第4世代の開発も進んでいます。
 
がん細胞の遺伝子には時間とともに様々な変異が起こるため、薬剤に「耐性」を持つ細胞が出現する。
しかし、タイプの違う薬剤を順次使うことで転移のある肺がんでも5年以上の長期生存が珍しくなくなってきした。
 
ただ、EGFR遺伝子変異を原因とする肺がんでは、脳への転移のリスクが高くなる。
脳転移は転移のなかでも一番恐れられており、がん患者全体の10人に1人が発症している。
肺がんは脳転移の46%を占め、日本人の脳転移の原因の約14%がこの変異という計算になる。
 
EGFR遺伝子変異のある脳転移では、米粒ほどの小さな転移病巣が脳全体に多数見られるのが特徴だ。
磁気共鳴画像装置(MRI)画像を見るだけで、この変異の有無を予測することも難しくない。

私的コメント; 
変異は転移か?

こうした脳転移では脳全体に放射線を照射する「全脳照射」が行われてきた。
しかし、正常の神経組織も広く放射線あびるため、治療後3カ月もすると認知機能が下がるリスクが高まる。
EGFR―TKIの登場で脳転移があっても長期に生存できるようになった今、認知機能の低下は大きな問題だ。
日本肺癌学会のガイドラインでも、ピンポイント照射や手術に全脳照射の併用を行わないことを勧めるとしている。
 
ピンポイント照射とEGFR―TKIの組み合わせについては、過去のデータの分析から、最初に照射した後にEGFR―TKIを順次使うのがベストとされている。
脳転移の治療は今、大きく変わろうとしている。
東京大学・中川恵一准教授)

参考・引用
日経新聞・夕刊 2018.1.31


<関連サイト>
肺腺がん闘病中に体調急変
https://mdpr.jp/news/detail/1744007
(私的コメント;若い方のがんは特別不条理です)

肺腺がんとは? 「人間ドックで早期発見を」
http://www.huffingtonpost.jp/2017/05/18/lung-adenocarcinoma_n_16682478.html
喫煙による肺がんの発症リスクは、タバコを喫わない人と比較して男性で4~5倍、女性で3倍程度と説明。ところが、肺腺がんに限っては男性で2~2.5倍、女性で1.5倍程度。「タバコを吸わなくても肺腺がんになる」ケースが多い。

肺がん(原発性肺がん)
https://medley.life/diseases/54b52b12517cef641a0041c0/details/knowledge/adenocarcinoma-diagnosis/
肺腺がんは肺がんの中で最も多くで、日本の肺がんの半数前後が肺腺がんだ。
・胸部CT検査の検出感度(がんがあった場合、正しくがんがあると指摘できる割合)は93.3-94.4%と言われており、肺がんを見つける検査としては非常に優れている。
しかし、小さながんを診断することは簡単ではなく、6mm未満の結節に限ると検出感度は70%程度になってしまう。