「いきなり運動」でケガ

「いきなり運動」でケガ 防ぐための5つのルール

これまで全く運動していなかった人や、長年のブランクがあった人が急に運動したときに見舞われやすいトラブルと、その予防法にはなにがあるのだろうか。
いきなり運動したときに多い転倒や筋肉痛を防ぎ、安全に運動を始めるための対策は・・・。

1 まずは自分の体を知る
ほとんど運動経験のない、あるいはブランクがある中高年が運動を始めるときは、筋肉が衰え、神経-筋反応も鈍くなり、関節の柔軟性も落ちている状態であることをまずは自覚しよう。
準備運動もなしに急に動かすと転倒や筋肉痛などが起こりやすい。

さらに、中高年になると内臓疾患や運動器疾患が隠れている可能性も高くなるため、運動を始める前には基本的なメディカルチェックを受けて、自分の体の状態を把握しておくのが望ましい。

たとえば、動脈硬化によって心臓に血液を送り出す血管(冠動脈)がもろく・狭くなっている場合、虚血性心疾患(心筋梗塞狭心症など)を起こしやすい。
なかには、症状がないのに心筋の血流障害が生じている無症候性心筋虚血もある。一方で、体を動かしたときに起こりやすい労作性狭心症もあるので、普段の階段や坂道の上りで「胸が締め付けられるように感じる」などの自覚症状がないか、意識してみよう。

運動には血糖値を下げる効果があり、糖尿病患者にも推奨されているが、重度の合併症がある糖尿病の場合は、運動はかえって症状の悪化や突然死のリスクを高めてしまう。

変形性関節症の有無も確かめておきたい。
中高年にジョギングが愛好されているが、膝や股関節などの変形性関節症で痛みのある人が走り続けると、変形が進んでしまう。
無症状で痛みを自覚していなくても、変形性関節症が密かに生じている場合があるので、最初にメディカルチェックを受けたほうがいい。

◆運動を始めるときに注意したい持病の例
動脈硬化を起こしやすい生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)
・虚血性心疾患(労作性狭心症、無症候性心筋虚血など)
・合併症のある糖尿病
・変形性関節症

メディカルチェックを受ける場合は、スポーツ医学を専門とする医師にかかること。ただし、スポーツ医の中でも、運動器を専門とする医師(整形外科系)、循環器専門とする医師(循環器内科系)など、専門が異なる場合がある。

2 瞬発系よりも有酸素運動がベター
年齢を重ねると、筋肉の中でも、特に速筋(瞬発的に大きな力を発揮する白い筋肉)が衰えやすいため、短距離走やテニス、バレーボール、バドミントン、バスケットボールといった、瞬発系の動きを主とする競技、ジャンプを伴う競技は、運動不足の中高年が始める運動としてはあまり向かない。
ウォーキング、ジョギング、水泳に代表される有酸素運動の方が、体を傷めるリスクが少なく、安全に始められる。

これらの有酸素運動を行うときは、主に遅筋(長時間、力を維持する持久力にかかわる赤い筋肉)が使われ、体内の糖や脂肪を燃焼させ、エネルギーをつくり出す。

3 運動前後にストレッチ・日常生活に筋トレを取り入れる
いきなり運動して生じる転倒や筋肉痛などを予防・軽減する効果的な方法は、個人の体や日常生活の状況などにより違ってくる。
一般的には、運動前後のストレッチや筋力トレーニングなどが、ある程度有効だという。

ストレッチは運動前に筋肉の機能や柔軟性を高めて動かしやすくする。
運動後には、疲れて硬くなった筋肉をほぐし、疲労回復を助ける効果がある。
また、筋力が弱いと骨や関節にかかる負担が大きくなるので、日常生活で筋力トレーニングを行い、筋力を強化することは、ケガ予防の観点からも意味がある。

ストレッチには動的ストレッチと静的ストレッチがある。

ラジオ体操、ブラジル体操などに代表される動的ストレッチ
動的ストレッチは、多関節を使う、反動をつけた運動のこと。
例えば、サッカー選手がよく行っているブラジル体操(ジョギングやスキップをしながら手を大きく振ったり、肩や腰をひねったり、リズミカルに体を動かす体操)や、ラジオ体操などがこれに当たる。
「もも上げ」のほか、軽いジャンプも、動的ストレッチの一例だ(着地したとき腓腹筋が伸ばされる)。

脚の動的ストレッチの例
①立った状態からのもも上げ
立った状態で反動をつけてももを上げる(ハムストリングが伸ばされる)。
上げた脚の膝はなるべく伸ばそう(あまり無理はしないように)。

②仰向けの状態からのもも上げ
仰向けの状態で行う場合は、ももの裏に両手を当てて、おしりからももの上の方を伸ばすようにすると楽にできる。
上げる脚の膝は、なるべく伸ばす。

反動をつけずにゆっくり関節や筋肉を伸ばす静的ストレッチ
一方、静的ストレッチは、反動をつけずにゆっくり関節や筋肉を伸ばす運動だ。
座った状態で開脚して上体を前に倒したり、立った状態で頭の後ろで肘を曲げ、もう片方の手で肘を引き寄せるなど、なじみのあるストレッチが多いはずだ。

脚の静的ストレッチでは、大きな関節、具体的には、膝を中心にももの前(大腿四頭筋)、ももの後ろ(ハムストリング)、アキレス腱(下腿三頭筋)などを伸ばす。
アキレス腱は、後脚の膝を伸ばした状態で伸ばすと腓腹筋が伸び、曲げた状態で伸ばすとヒラメ筋が伸びる。
伸ばされている関節や筋肉を意識することと、無理しないことが大事だ。

脚の静的ストレッチの例
腓腹筋ストレッチ
両脚を広げ、かかとを地面に付けた状態で体重を前脚にかけていく。後脚の膝は曲げずに伸ばす。
②ヒラメ筋ストレッチ
後脚の膝を曲げ、体重を真下に落としていく。

これらのストレッチを運動前後にどう組み合わせればいいのだろうか。

運動前は、筋機能を高める“ならし”運動として、まずはジョギングやウォーキングで軽く体を動かした後に、動的ストレッチで関節をほぐし、次に静的ストレッチで関節や筋肉をゆっくり伸ばして柔軟性を高める。

一方、運動後は、筋疲労の軽減、筋肉の回復のために、静的ストレッチを行い、痛みや腫れが生じてしまった場合はさらにアイシングを行う。

◆運動前(筋機能を高め、柔軟性を高めるために)
軽いジョギングやウォーキング→動的ストレッチ→静的ストレッチ

◆運動後(筋疲労の軽減、筋肉の回復のために)
静的ストレッチ→必要に応じてアイシング


アイシングとは
アイシングとは文字通り冷やすこと。
冷やすことで血管を収縮させ、炎症を軽減する。筋肉を過度に使いすぎたときや、痛みや腫れなどの炎症があるときは、冷やすのが原則だ。
一方、筋肉が固まっているときは、入浴などで温めた方が楽になる。

温冷の交代浴も循環を促進する。
温めたらいいか、冷やしたらいいかわからないときは、気持ち良いと感じる方を選択してかまわない。

【アイシングの方法】
(1)ビニール袋や氷袋に氷を入れ、冷やしたい部位にフィットさせてバンデージなどで固定する
(2)しばらく冷やし、感覚がなくなったら終了(時間にはあまりこだわらなくてよい)

老化の象徴・大腿四頭筋を鍛える筋トレのススメ
特に中高年は、加齢とともに衰えやすいももの筋肉(大腿四頭筋・ハムストリング)を鍛える筋力トレーニングも積極的に取り入れたい。
 
関節を動かさないで筋力を強化する「等尺性筋力訓練」であれば、トレーニング中に膝や肘の関節を痛める心配がないので、筋力が落ちている人にもおすすめだ。
 
例えば、仰向けに寝て膝を伸ばしたまま床上20cmくらいに足を上げてキープする「下肢伸展拳上」は、大腿四頭筋が鍛えられる。
 
このほか、拳を10秒間ぐっと握るだけでも前腕が鍛えられる。
片手ずつでも両手でも構わない。
10~20回くらい、できれば2セットを目標にやってみよう。

「下肢伸展拳上」の具体的方法
等尺性筋力訓練の例。仰向けに寝て膝を伸ばしたまま床上20cmくらいに足を上げて5~10秒キープする。片脚20回ずつ。もの足りなくなったら足首に1~2kgの重り(アンクルウエイト)を装着してもよい。

4 無理をせず徐々に“ならし運転”を
いきなり運動をしてケガを招くのは、「自分は動けるはず」という過信と、実際の体とのギャップから無理をしてしまうことも大きく影響する。
レジャーなどで軽く体を動かすぶんには、むしろ積極的に勧められるが、“無理”は禁物だ。

全く動いていなかった車を、いきなりフルスピードで走らせようとは誰も思わない。
まずは全体をチェックして、ならし運転をしていくように、運動も無理せず徐々に行おう。

5 継続することが一番大事
久しぶりの運動によるトラブルを避けるためには、有酸素運動から少しずつ始めて、運動前後には必ず準備運動やストレッチを取り入れ、さらには簡単な筋力トレーニングで筋力をつけていくことが大事だ。

それらと同じくらい重要で、最も難しいと思われることがある。
それは、「継続すること」だ。

筋力トレーニングなども、ついつい、新しいもの、流行のものに飛びつきがちだが、ごくシンプルなものを、生活の中に無理なく組み込んだ方が継続しやすい。
一念発起して三日坊主で終わるより、テレビを見ながら、あるいは寝る前に布団の上で、など、1日のルーチンの中に取り入れて、細く長く続けていきたい。

無理をした結果、ケガやトラブルでつらい思いをしたり、運動を負担に感じてやめてしまっては本末転倒。まずは自分に合った種目やトレーニング方法を見つけ、楽しみながら、健康な体を手に入れよう。

参考
日経Gooday 2016.5.13