膝のけが

膝のけが、リハビリが肝心

スポーツで多いのが膝のけが。サッカーやバレーボールなど様々な競技の選手が靱帯や半月板などを傷める。
けがの程度や年齢により保存療法や手術など治療法は多様だ。
リハビリテーションと組み合わせて治療するのが重要と専門家は強調している。

着地で強い負担
20代の女性Aさんはバスケットボールの選手。
試合中、ジャンプして着地した際にブチッという音がして右膝を傷めた。
着地の瞬間は右膝が内側に入り右のつま先は外側を向いていた。
歩けたがダッシュはできず、翌日には痛みに加え腫れが増した。医療機関を受診すると「前十字靱帯損傷」と診断された。

前十字靱帯は大腿骨と脛(けい)骨の間にある靱帯の一つ。
足首や股関節では骨に別の骨がはまって安定性を保っているが、膝は大腿骨と脛骨が接しているだけで、靱帯がその間をつないでいる。

ジャンプして着地するときやダッシュして急に止まるときは膝にかなりの負担がかかる。
順天堂大学医学部整形外科の池田浩先任准教授によると、Aさんのように膝が体の内側に入ってつま先が体の外側に向く「ニー(膝)・イン・トー(つま先)・アウト」の姿勢になった状態で大きな負担が加わると、靱帯は切れたり伸びたりしてしまう。
女子のバスケットやバレーボールの選手に多い。

傷んだ靱帯は元の状態に戻らないが、リハビリをしておけば日常生活で困ることはまずないという。
だが膝の安定性は悪くなる。
以前と同様にプレーしたい場合は靱帯の再建手術をする。
膝が硬くなるのを防ぐ運動を十分にして準備を整えてから、大腿骨と脛骨にそれぞれ穴をあけて太ももから採取した半腱(けん)様筋腱を通してつなぐ。

Aさんはバスケットを続けたかったので、手術を受けた。
その後リハビリにも取り組み、けがをする前と同じレベルに回復。傷めてから8カ月後に試合にも復帰できた。

スポーツ選手では「半月板損傷」も多い。
半月板は大腿骨と脛骨の間にある軟骨組織。
膝に加わる重さの分散やクッションの役割を果たす。膝をひねるような動作で傷めやすい。

従来は痛みを感じた場合に半月板を切除していた。
これだと激しいスポーツの選手はプレーを続けるうちに軟骨がすり減る。
現在は「保存療法が基本。患部の位置や大きさなどに応じて縫合したり切除したりと、治療方針を決める」と池田先任准教授は説明する。通常、復帰までには縫合の場合が半年前後、切除では2カ月程度かかるという。

関節動かし回復
「離断性骨軟骨炎」は10~20歳の男性に多くみられるけがだ。
運動で慢性的な負担がかかり、膝を傷めると考えられている。大腿骨の内側の骨と軟骨が一緒に欠けるケースが患者の7割を占めるという。

軽症であれば保存療法だが、痛みなどがあれば手術する。
サッカー選手の高校生B君(17)は離断性骨軟骨炎のため患部が不安定で痛かった。
はがれた骨・軟骨の大きさは直径が約1.5センチで厚さが約4ミリ。
体内で吸収されるポリ乳酸製の小さなピン4本を使って固定する手術を受けた。
リハビリに努め、半年後に復帰した。

また、ラグビーやサッカーなど接触プレーの多い競技では、膝に外側から何らかの力が加わり、内側の靱帯を傷めやすい。
「内側側副靱帯損傷」と呼ばれる。
池田先任准教授によると、基本は保存療法でリハビリに努める。
競技に復帰したものの、膝が不安定で十分にプレーできない場合などは半腱様筋腱を使った靱帯の再建手術を実施する。

膝の治療ではリハビリも重要だ。
池田先任准教授は「膝の治療は100点中、手術が50点でリハビリが残りの50点を占める。手術が成功してもリハビリがうまくいかないと膝がきちんと伸びなかったり正座ができなかったりする」と話す。

順天堂大整形外科での主なリハビリのメニューは関節を動かす筋肉を回復させる運動や、関節の可動域を保つ運動、荷重を加える運動など。
手術後の筋力訓練としては「3方向訓練」がある。
これは(1)脚上げ(2)横上げ(3)ボールはさみ――の3つで構成する。

脚上げは、あおむけに寝て傷めた足の足首に重りをつけ、膝を伸ばしたまま約30度ゆっくり上下させる。横上げは同様に重りをつけて横向きに寝て、ゆっくり脚を上げ下げする。
ボールはさみは、あおむけに寝たりして両膝を立ててサッカーボールなどをももではさみ、力を強めたり弱めたりする。
その後はけがに応じたメニューを実践するという。

膝の損傷は競技人生を左右しかねない。
医療機関を受診し、治療法やリハビリを医師などと相談することが大切だ。
編集委員 鹿児島昌樹)
出典 日経新聞・夕刊 2011.12.16
版権 日経新聞

<私的コメント>
ちょっと前のこと。
当院に高血圧で通院中の方で顔がだんだん丸くなって来た方がみえました。
この方は足をひきずりながら歩くのがやっとでした。
ひょっとしてと思って「どこかで注射してもらっていませんか?」と訊きました。
「近くの整形外科で変形性膝関節症として定期的に膝に注射をしてもらっています。」という返事。
私「次回、注射の内容が書かれている明細書を持って来て見せて下さい。」
次回持参した明細書を見ると案の定、ステロイド注射を定期的に注射していたことが判明。
私「いつごろから痛いのですか?」
「歩行中転倒して膝を打ってから急に痛くなりました。」
私「それは変形性膝関節症でないかも知れませんよ。大きい病院へ紹介しますから一度診察を受けてみて下さい。」
この方の診断結果は「半月板損傷」でした。
関節腔鏡手術ですっかり良くなり現在は普通に歩いて通院されています。
顔の丸い(「満月様顔貌」)のもすっかり良くなりました。


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