脳脊髄液減少症

激しい頭痛…脳脊髄液減少症 適切な治療へ一歩 10月に初の統一診断基準

起きていられないほどひどい頭痛などに悩まされる脳脊髄液減少症
今年10月、厚生労働省の研究班が初の統一診断基準を作り、関連学会も承認した。
これまでは「謎の頭痛」として診断がつかないケースも少なくなかった。
患者が適切な治療を受けられるようになる第一歩と専門家は期待を寄せている。

立っているとどうしようもない頭痛がする。痛み止めも効かない。
ところが横になるとなぜか症状が和らぐ。これが脳脊髄液減少症の典型だ。ただ症状は様々で、吐き気やめまい、視力低下、全身のだるさなどを訴える人もいる。

低かった知名度
この病気は医師の間でも知名度が低く、原因不明とされたり、心の病など別の病気と診断されたりする例も少なくなかった。
一般にも知られるようになってきたのはここ数年だ。
この病気に絡んで交通事故などの補償を巡り裁判で争う例も多発している。
新基準作りにかかわった日本医科大学の喜多村孝幸・准教授は「今後は全国どこの病院にかかっても、典型的な症例については診断がつくようになる」と期待を込める。

脳や脊髄は硬膜という袋に包まれ、袋の中を満たしている脳脊髄液がクッションの役割をして守っている。
ところが何らかの原因で硬膜に穴が開いてしまうと、液が漏れ出す。水位が低下すると液の中に浮かんでいた脳の位置が下がり、脳とつながる周囲の神経や血管が引っ張られるなどして、頭痛などの症状を引き起こすと考えられている。

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硬膜に穴が開く原因となるのは、交通事故や運動時の衝撃、転んで尻もちをついた場合など。
ただし硬膜が傷ついた原因がまったく思い当たらない人もいる。
このため、硬膜が一般の人より弱いという体質差などの影響もあると考えられている。

脳脊髄液が漏れているかは、磁気共鳴画像装置(MRI)やコンピューター断層撮影装置(CT)などを利用する。
画像から漏れが分かれば病気と判定するが、漏れなのか画像の乱れなのか紛らわしい場合もある。
そこで診断基準では画像判定の基準を定めたほか、複数の検査結果を組み合わせて判定する仕組みなども取り入れた。

治療はまず安静にすることから始まる。
減ってしまった脳脊髄液の分を点滴で補いながら自然治癒を待つ治療法だ。
1週間~1カ月ほどで患者の約8割で穴がふさがり回復するという。
しかし、それでも症状が改善しない例もある。
この場合、患者自身から採取した血液を液漏れを起こしている穴の回りに注射し、血で固めてふさぐ。「ブラッドパッチと呼ぶ方法で、最終的な治療法と考えている」と防衛医科大学校の島克司教授は話す。

漏れがあれば止める。
一見分かりやすいが、この病気に対する医師の見方が異なるのは、なぜ漏れるのかはっきりしない部分も多く、判定も難しいからだ。
交通事故などによるむち打ち症の8~9割に漏れが見られるはずで患者数は10万人以上だという主張もある一方で、簡単に漏れることはないと病気の存在自体を否定する医師もいた。

そこで、日本脳神経外傷学会は2008年に脳脊髄液減少症が疑われる23人の患者を詳しく調べた。
確実に診断できたのは4例だった。
その後、厚労省の研究班(代表=嘉山孝正・国立がん研究センター理事長)が100人の患者を調査したところ、診断がついたのは16人。
いずれも20%以下にとどまった。

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むち打ち症の1割
現在ではむち打ち症の患者の約1割は漏れが起きうる、との見方が一般的になりつつあるという。
ただ診断基準ができても、判定の難しさは解消されていない。

ブラッドパッチ治療についても「これまで必要以上に実施されてきた」と防衛医大の島教授は指摘する。症状に苦しむ患者にとり、この治療は頼みの綱だが、どのケースで必要なのか見極めるのは困難。
過去には液漏れしておらず効果が期待できないむち打ち症の患者が治療を受けたケースもあった。

治療に伴うリスクもある。
脊髄に針を刺す前に実施する麻酔がとても痛い。
もともと血液がない場所に血を入れるため癒着が生じることも。
何度も処置を受け、片まひが起きた例も報告されている。

診断基準は治療の進歩の第一歩で、ブラッドパッチ治療が有効な患者が少なくないのも確か。
現在は保険適用されておらず、入院も含め1回当たり約30万円の治療費は患者の負担だ。
このため患者団体は、保険適用を求めて厚労省に署名を提出するなど活動を進めてきた。

診断基準の作成を受け、日本医大の喜多村准教授らは今年度中に「先進医療」として申請する考え。厚労省は「受け付けてから3カ月程度で結論を出したい」と話す。認められれば、特定の医療機関では患者負担が軽減される見通しだ。 (鴻知佳子)

出典 日経新聞・夕刊 2011.12.2
版権 日経新聞


<私的コメント>
脳脊髄液減少症」という概念を最初に提唱したのは篠永正道先生です。
この概念を広めるために今までに地道な努力をされて来ました。
国立がん研究センター理事長の嘉山孝正氏が厚労省の研究班の代表になったのか不思議です。
私にはこの嘉山氏は、「ただ声の大きい人」という印象です。



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