がん検診、何歳まで受ける?

がん検診、何歳まで受ける?

厚生労働省が指針を決めて市区町村が実施する「がん検診」の対象には年齢の上限がない。
しかし、検査には高齢者特有のリスクもあり、利益より不利益が上回るという指摘もある。
海外では上限を設ける国もある。

高齢ほどリスク高く
厚労省の指針による大腸がん検診は、便を調べる便潜血検査と、「要精検」と判定された人を対象にした大腸内視鏡検査の2段階。
大腸のX線検査をすることもある。
 
検診の対象は40歳以上で上限はない。
ただ、高齢になれば内視鏡で腸に穴が開くなどのリスクを考慮しなくてはならない。
「90歳で大丈夫な人もいるが、個人差は大きく、検査をしても大丈夫だろうかと思う人はいる」とある医師は話す。
CTで大腸を調べることも可能で、リスクを説明したうえで本人に決めてもらうという。

胃がん検診のうち、バリウムを飲んで受けるX線検査では、水分を十分取らない人や便秘が増える高齢者はリスクを考慮する必要がある。
 
参考
朝日新聞・朝刊 2016.6.1
日本消化器がん検診学会による2013年の調査報告では、X線による胃がん検診の受診者381万人余りのうち、腸閉塞)を起こした人が10人、腸管に穴があいた人が6人いた。
6人のうち5人は60歳以上。
バリウムが排泄されず、硬くなって腸の壁にとどまったためとみられる。
 
ある検診センターでは、高齢者から「検診はいつまで受けたらいいですか」と聞かれると「検査をつらいと感じない元気な間は、お越し下さい」と答える。
年齢や過去の病歴、歩き方、表情をみてリスクがありそうな人には「検診を受けて、かえって体調が悪くなっては検診の意味がないですよ」と説明する。
高齢者の場合、検査に不安を感じているようであれば、受診は勧めないという。

英国では年齢に上限
高齢者の場合、がんができても、症状が出る前に寿命をまっとうできることがある。
しかし検診でがんが見つかった場合、手術や治療を受けることになり、後遺症や副作用が出れば、結果として生活の質を損なうことがある。
 
がん検診にも利益と不利益があり、高齢者は不利益が利益を上回ることもしばしばある。
検診でがんが疑われても、精密検査でがんではないと判明することもある。
この場合、結果が出るまでの心理的なストレスや結果として必要なかった検査を受けることは「不利益」ともいえる。
70歳を超えたら、がん検診を受けないという選択もある。
 
海外では上限を設けている国もある。
「国民保健サービス(NHS)」のもと医療費の多くを税金でまかなう英国では、大腸がんは74歳まで、乳がんは70歳までが対象だ。
 
医療研究を評価して推奨度を決める「米予防医学専門委員会」では、がんによる死亡リスクを下げるという観点から、がん検診の有効性を検証している。
子宮頸がんは65歳以上、大腸がんは85歳以上では推奨せず、75歳以上の乳がん検診は「科学的根拠が不足」とする。
 
日本でも厚労省の「がん検診のあり方に関する検討会」で年齢の上限問題が議論されたことはあるが、具体的な結論は出ていない。
 
ただ、自治体レベルでは独自の試みもある。
大阪府では、はがきなどで個別に重点受診勧奨をする対象を、胃・大腸・肺がんは60~69歳、子宮頸(けい)がんは25~44歳、乳がんは50~69歳とした。
国の指針に基づくすべての対象者を網羅する検診の提供体制がないため、がんの罹患率などを考えて、受診勧奨の対象を決めたという。

まず体力・筋力維持を
がん検診以外に、生活習慣病の早期発見のために血圧や血糖、肝機能などをチェックする健診が実施されている。
40歳以上75歳未満の人は国民健康保険など公的医療保険による特定健診(いわゆるメタボ健診)を、75歳以上の人は後期高齢者医療制度による健診を年1回受けられる。
 
高齢者でも定期的に健診を受ける必要はあるが、栄養や食べる機能、身体機能、社会参加などを維持する工夫も必要だ。
高齢になるほど生活習慣病の予防以上に体力や筋肉を維持する必要があるという。
 
日本老年医学会は、筋力や活動性が低下して介護が必要になる前の虚弱状態を「フレイル」と呼び、生活機能を維持させることの重要性を訴える。
政府が5月にまとめた「一億総活躍社会」に向けた計画にもフレイルの予防や対策が盛り込まれた。