「見つかりにくい」大腸がん

「見つかりにくい」大腸がん・・・こんな症状には注意

治りやすいが、見つかりにくい・・・。
この30年で患者が5倍に増え、最も多いがんになりつつある大腸がん。「ステージ3」と呼ばれる段階でも80%は治る一方で、初期段階では特有の症状がない。
大腸がんの早期発見のためにも、毎年の検診が重要だ。

食生活の変化と高齢化で、30年で5倍増
大腸がん患者の数は、この30年でおよそ5倍に増え、2015年は肺がんや胃がんの患者数を超える予想となっている。
その理由として、一般的によく言われているのは、食生活の欧米化、ライフスタイルの欧米化だ。
ただ、そのように言われ始めてから、ずいぶんと時間がたっている。
食生活の変化によって大腸がんが増えてきたのは、だいたい1990年代後半までだと思われる。
それ以降の大腸がん増加の要因は、やはり高齢化社会になったことだ。
食生活の欧米化によって大腸がんが増えるというのは、肉をたくさん食べるようになったことによる変化だ。
とくに赤身の肉や加工肉をたくさん食べると、その消化のために、肝臓でできる胆汁酸が増える。
胆汁酸が腸の中に行くと、細菌によって二次胆汁酸になる。
この二次胆汁酸に、発がん性があると言われている。
肉食そのものが良くないということではなく、胆汁酸と腸内細菌の影響で、大腸がんが増えたと考えられる。
肉の種類としては、牛肉でも豚肉でも、一般的に赤肉が大腸がんに関連しているとされていて、魚や白身の鶏肉は関係がないと言われている。
高齢化による要因は、遺伝子変化の蓄積だ。
大腸がんは、遺伝子の変化の蓄積で発生すると考えられていて、だんだん年齢を重ねるごとに、遺伝子の変化が積み重なってくるわけだ。
このため、年齢が高くなるにつれて、大腸がんの罹患率が高くなるのだ。
高齢化が進行することで、大腸がんの患者はますます増えるようになると思われる。

ステージ3でも治る確率は8割
大腸がんは、他のがんと比べて進行が早いわけではない。
突然、大きながんや、進行したがんができるのではなく、最初は小さな「ポリープ」と言われるものが、だんだん大きくなり、がんになる。
がんも小さなものからだんだん大きくなる過程を経るから、例えば、小さなポリープができてから、手術が必要になるがんになるまでの期間は、少なくとも2年以上だと言われている。
がんの中では、大腸がんも胃がんと同様に、適切に治療すれば治りやすいものだ。
がんには進行度合いに応じて「ステージ」がある。
大腸がんの場合、「ステージ3」までに発見されれば、治る確率がかなり高い。
「ステージ0」は、粘膜の中にとどまっている状態です。
その後、「浸潤」と言って、少しずつ大きくなって壁の中に入り込んでいくのだが、腸の中にとどまっている「ステージ1」や「ステージ2」であれば、かなりの確率で治る。
リンパ節転移があるものを「ステージ3」と言うが、今の日本では、「ステージ3」の大腸がんでも、80%近くは治ると言われている。
これが「ステージ4」になると、なかなか治すのは難しい。

症状がない怖さ
ただ、大腸がんには、特有の症状がないという特徴がある。
つまり、症状が出た時には、ある程度進んだ状態のがんだということなので、ここが怖い点だ。
そのためにも、症状のないうちに見つけることが大事だ。

検診を受けることが不可欠だが、検診以前に気付く初期症状をまとめると
(1)便に粘液や血が混じる
(2)下痢や便秘が続く
(3)お腹のなかにしこりがある
(4)“残便感”がある
(5)便意はあるが出ない

痔でも出血はあるが、痔の出血は便の周りに付着する。
便を出した後も、血液がぽたぽたと落ちる。
血の色も、鮮血と呼ばれる赤い血がまじる。
また、便をする際に痛みもある。
これらが痔の出血の典型的な症状だ。

これに対し、大腸がんの場合の出血は、便に血がまじっても排便の時に痛みがなかったり、便と血液がまじって黒っぽく見えたりという特徴がある。
黒っぽい血がまじっていたら、痔だと思っていても、検査を受けた方がよい。
下痢や便秘が続くという意味は、それまで1日1回便が出ていたのに、下痢をしやすくなったとか、便秘になりやすくなったという便通の変化が起きた状態のことだ。
お腹のしこりは、がんがある程度大きくなると、触って分かるほどのしこりを感じるということだ。

大腸がんの種類には、肛門に近い左の方にできる直腸がんやS状結腸がん、右の方にできる上行結腸がんや盲腸がんがある。
上行結腸がんや盲腸がんは、なかなか症状が出ない。
便の中に血がまじっても、攪拌されてしまって血液が分かりにくい。
肛門に近い左の方のがんは、しこりができるほど大きくなる前に、便に血がまじるとか、便通異常といった、他の症状が出るようになる。
つまり、しこりを感じるのは、右の方にできるがんが多い。

(4)の“残便感”は、直腸がんの一つの特徴だ。
便がすっきり出ないため、便が残っているような感じがすることだ。
(5)の便意があるのに便が出ないというのも、直腸がんの症状だ。

◆毎年の検診が大切
大腸がん検診は、自治体だと40歳以上になると受けられる。
具体的には、便の中に血が混じっているかどうかを調べる便潜血検査という方法を使っている。
検診の日およびその前日に出た便の表面をこすり、容器の中に入れて病院に持っていく「2回法」が主流だ。
病院ではこれを調べて、便の中に血液があるかどうかを判断する。
便の中に血が混じっていて陽性の結果が出れば、精密検査を受けることになる。
大腸がんができているのに、便潜血が陽性にならない人も14%~15%ほどいる。
ただ、その時に見つからなくても、1年に1回、大腸がん検診を繰り返して受けていれば、次には見つかる。
がんが見落とされていたとしても、1年ではそれほど急速に悪くはならないから、定期的に検診を受けることが大事だ。
便潜血検査で陽性だった場合は、大腸の内視鏡検査、いわゆる大腸カメラか、おしりからバリウムを入れて検査する注腸検査の2種類の精密検査から選択をすることになる。
内視鏡検査の場合は、下剤を飲んで腸をきれいにしてから、肛門からカメラを入れて、腸の中を全部見ていく検査だ。
この検査が便利な点は、その場である程度、ポリープやがんが見えますし、そういう病変があれば、細胞をとってきて、良性か悪性か、つまりがんかどうかを判断できることだ。
バリウム注腸検査は、同じように下剤を飲んで腸をきれいにした後、お尻からバリウムを入れて腸全体を映し出す。
内視鏡検査の場合は、多少、技術が必要で、慣れた先生が行った方がいいのに対し、バリウムの場合は、もう少し簡単にできる。
また、病変が非常に小さく、平らだと、注腸検査では見つけにくいので、内視鏡検査の方がよい。
病変がある程度の大きさであれば、注腸検査でも十分に発見できる。
残念ながら、血液検査では早期に大腸がんを見つけられないから、肛門からカメラやバリウムを入れるのに抵抗を感じるという方も、ご自分の健康のためと思って、検査を受けて欲しい。
費用は病院によって多少異なるが、大腸内視鏡検査だと6000円から2万円程度、注腸検査だと4000円か5000円ぐらいだ。
いずれも、保険が効く。
かつては大腸内視鏡検査で違和感を強く感じた人もいたが、現在は検査機器も、医師の技術も向上しているので、不快感は相当に減っている。
便潜血検査で陽性ということであれば、ぜひ、大腸内視鏡検査を受けた方がよい。
大腸カメラによる検査の頻度は、以前にポリープがあって内視鏡で切除したり、大腸がんの手術をしたりした人で、病気がなにもない場合には、2年に1回ぐらいでよい。
ポリープや大腸がんの経験がなく、異常もない人は、毎年の便潜血検査をしっかり続けて欲しい。

内視鏡治療、手術治療、抗がん剤治療、放射線治療
検診で大腸がんと診断されたら、どの程度のステージにあるのかを診断したうえで、治療法を決定する。
治療法には、内視鏡治療、手術治療、抗がん剤治療、放射線治療の4種類がある。
まず、内視鏡でがんを見て、粘膜だけにとどまっているがんや、多少は粘膜下層にまで入って行ってはいるものの早期がんであれば、内視鏡で切除します。それだけで治る場合もあります。精密検査の段階で発見して、そのまま切ってしまうこともあります。
ただ、内視鏡治療は腸の中にある病変やがんは取れるが、リンパ節に転移している可能性がある場合、リンパ節は切り取れない。
その場合は、手術治療になる。
手術治療の基本は、ある程度リンパ節に転移している進行がんが相手なので、しっかりリンパ節を取ってくることになる。
従来は、大きく30センチくらいお腹を切って手術をしていたが、最近では腹腔鏡をお腹の中に入れて、お腹の中を見ながら細い鉗子を入れ、リンパ節郭清をすることができるようになった。
この方法だと、体の傷が小さいので、痛みも少なく、回復も早いので、手術して1週間前後で家に帰れるという利点がある。
病院によってはステージに関係なく、腹腔鏡手術を行っている施設もあるが、やはり、腹腔鏡手術のデメリットもあって、大きながんや、がんが腸の壁を破ってしまっているような場合は、腹腔鏡手術は控えた方がよい。
腹腔鏡手術とそうでない手術との治癒率の違いは、まだしっかりしたデータが出ていない。
がんが腸の壁を破っている場合は、お腹の中にがん細胞がまき散らされる「腹膜播種」が起こる可能性もある。

人工肛門
直腸がんが肛門近くにある場合、人工肛門になることがある。
がんは、その部位だけを取ってくるのではなくて、周囲のリンパ節も取る。
安全域を見て直腸がんの場合はがんから離れた2、3センチ肛門近くの腸まで切るが、それが肛門に引っかかってしまうようだと、人工肛門の手術になる。

人工肛門は、腸の一部をお腹の壁に出したものだ。
そこにパウチという袋を張って、便を受ける。
便が肛門から出ずに、お腹の壁から出るのが人工肛門ということになる。
普通の肛門の場合は、肛門を広げて便を出したり、閉じて出ないようにしたりできるが、人工肛門の場合はその働きをする括約筋がないので、便をぐっと我慢するといった排便調節ができない。
違いはそれだけで、あとは同じだ。
なぜ、人工肛門を嫌がる人が多いかといえば、それまで排便をコントロールできていたのに、お腹の壁から便を出すために、見た目も悪いし、匂いも出るんじゃないか、便で汚れるのではないかという不安、そういうことによって日常生活に障害があると考えるからだ。
実は、人工肛門にならなかったとしても、直腸を大部分切り取って肛門の近くに腸をつないだ場合でも、直腸がなくなるので、便を十分にためて一気に押し出すという直腸の作用がなくなってしまう。
便を十分にためられず、また、押し出せないために、便の回数が増えるということと、便を催してもじっと我慢できず、すぐにトイレに行かなければいけないので、なかなか、長時間の外出ができない。

最近は人工肛門に張るパウチが非常に良くなり、はがれるとか、臭うとか、外に漏れるということがない。やはり、手術をする前に、人工肛門にならない方がいいのか、人工肛門にした方がいいのかを、ご自分のライフスタイルを考えて、医師とよく相談して決めた方がよい。

抗がん剤治療や放射線治療は、それによってがんが完全に消えてしまうということは、まず、考えられない。
手術で取り切れない場合の補完的な治療ということになる。
大腸がんになりやすい人は、大腸ポリープの経験者、血縁者に大腸がんの患者がいる人、偏食や不規則な生活をしている人、そして加齢(老化)の影響を受けている人だ。
大腸ポリープには悪性と良性がある。
悪性はがんだが、良性でも放置しておくと、だんだんがんになるポリープがある。
一度、そういうポリープを作った腸は、あちらこちらにポリープを作るから、定期的に大腸内視鏡検査をした方がいいということになる。
赤肉とか加工肉をどれだけ食べたら大腸がんになりやすいのか、あるいは、どれだけ避けたらなりにくいのかという基準はない。
適度な運動をしていた方が大腸がんにならないとも言われるが、との程度の運動をしたらならないのか、目安はない。
やはり検診、検査をきちんと受ける、いわゆる2次予防が大切ということになる。