健診を受ける際に心がけること

全世代が受診 項目増えると安心? 健診、目的・年齢に合わせて

死亡率減らすか不明確な検査も
企業や医療機関などで受ける健康診断は、生活習慣病やがんなどの早期発見や治療につながるとされる。
長生きするために受けると考えている人も多いだろう。
実は、死亡率を減らすかどうかわかっていない項目も含まれている。
健診を過信せずに、目的や年齢に合わせて、種類や受け止め方を考えることが大切だ。

日本の健診受診率は一般的に高い。
例えば、厚生労働省の2012年発表の最新の労働者健康状況調査では、労働者の定期健診の受診率は平均で91.9%だ。

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世界有数の長寿国家を支えてきたともいわれる健診。
健診は有益だが、死亡率の減少に役に立つかどうかまだわからない検査項目も実はある。
 
健診は、健康か否かをおおまかに把握する。
特定の病気を見つけるために受けるわけではない。
結果から悪そうな臓器などを絞り込めるため、精密検査を促し、早期の治療につながる。
 
健診は法律に基づいて受けるタイプと人間ドックなど個人の意思で受けるタイプに大別できる。
 
前者は、労働安全衛生法という法律で、企業などが実施を義務付けられている健診や、40~74歳の自営業者や主婦などが受ける特定健康診査などが入る。
職場健診は、日本人の死因の中で上位を占める生活習慣病を早期に見つけて治療し、健康で生産性が高い労働力を維持するのが目的。
特定健診はメタボリック症候群の予防など、中高年の健康維持を目指している。
受診の意味は、知らない間に深刻化する高血圧や高血糖を早期に見つけること。
私的コメント;
実は、特定健診には問題点もあります。
メタボリック症候群の発見、予防、治療や対策に重点を置くあまり、貧血・心電図や腎機能検査が(原則的に)欠落したきわめて簡単な検査項目で成り立っています。
もっとも、5歳きざみの「詳細な健診項目実施判断基準」で医師が必要と認める場合には、これらの検査や眼底検査を追加することが出来ます。
胸部エックス線検査は「肺がん検診」、胃エックス線検査は「胃がん検診」、便潜血は「大腸がん検診」で実施となります。
詳しいことは各自治体や実施医療機関に確認する必要があります。

検査項目の基本は、自覚症状の有無や身長、体重、血圧などの測定、採血による血中脂質や血糖の検査、尿検査や胸部エックス線検査などだ。

健診でもっとも重要な項目は喫煙と飲酒の量、血圧、血糖値、血中脂質の5項目。
1960年代からの調査で、5項目の異常の有無を調べて体質改善をすすめると、心臓病など循環器に関わる病気の死亡率が減るという研究結果が出ているからだ。
60歳ごろまでの健康な人は、原則この5項目を調べればいい。 
 
一方、任意の健診である人間ドックなどは検査項目も多く、メニューは実施医療機関によって違う。
CTや内視鏡など最新の医療機器を使う検査も含まれる。
一般の健診より患者数が少ない病気の発見につながる利点があるが、検査によっては副作用が出る可能性もある。
私的コメント;
ある日、会社経営をしている患者さんが人間ドックの結果を持参されました。
入会金が◯◯◯万円必要で、なおかつ1回の検査が◯◯万円もする、大手リゾート会社の健診です。
持参された紹介状には「しばらく、胃の検査をされていないようですので、貴医療機関で検査をお願いします」と書かれていました。
バリウム検査も胃カメラもしていないことに驚きました。
はっきり言ってこれは「詐欺行為」です。

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健診の中には現段階では、死亡率を抑えると確認されていない項目も多い。
痛風の検査に使う尿酸値や腎機能を調べる尿素窒素、膵機能を調べるアミラーゼなどが代表例だ。
健診が定着したのは戦後、当時国民病だった結核患者の発見に成功し、普及したのがきっかけだ。治療薬や栄養状態の改善もあって死亡者が減り、健診は有効との認識が広がった。
 
結核の死亡数が減ると、代わりに血圧測定や尿検査、問診が項目に加わった。
80年代には生活習慣病の診断が広がり、項目が増えた。
当時は死亡者が減ると確認されていなくても積極的に取り入れる傾向があった。
現在の項目はその名残だ。
項目が増えすぎると不安をあおり、精密検査を受ける人が増え医療費がかさむ欠点もある。
今後は科学的な根拠を持つ項目だけに絞る可能性がある。
 
一方、海外の研究では健診を受けることで、寿命を延ばす効果を疑う結果も出ている。
70年代の米英の研究では、定期健診を受けるよう勧めた群とそれ以外で死亡数に大きな差が無かった。
最近ではフィンランドや米国で住人に健診を勧める地域をそれ以外と比べる研究が実施されたが、両者で心臓病の死亡率が下がったとの結論は出なかった。
 
加齢に伴い、検査結果の受け止め方や受ける項目も検討し直してみるのも手だ。
例えば、高齢者は血圧が上がるため、高血圧が示す生活習慣病のリスクは他の要因に隠れて見えにくくなる。
老化が顕著になる65歳前後からは基本項目に加えて、網膜の血管を撮影する眼底検査や心電図検査で動脈硬化の程度を調べ、脳梗塞などの予防に努めるとよい。
 
健診は何のために受けるのかを理解して受診するのが鉄則だ。


がんなど発見する「検診」 メリットは世代で差
もうひとつの「検診」は一般に特定の病気を早期に発見し、早期治療するのが目的。
がん検診が代表例だ。
肺がんや胃がんのエックス線検査や大腸がんの便潜血検査、乳がんマンモグラフィー検査などは、受診で死亡率を減らせる。
日本では健診に比べて受診率が低めだが、欧米では逆にがん検診の受診率は高い。
 
注意したいのが利益と不利益のバランスだ。
検診で生じる不安や、エックス線検査などの被曝などの不利益もある。
 
年齢によって利益と不利益のバランスも変わる。
例えば、胃のエックス線検査のため粘性が高い新しいバリウムを高齢者が飲むと腸閉塞を起こしやすい。
がんの成長には一定の時間がかかる。
有益性と不利益を考えれば、がんの成長が遅くなる70歳以上はがん検診を受けない選択肢
もある。


健(検)診のメリットとデメリット
メリット
生活習慣病やがんを早期に発見し、生活改善や治療につなげられる。
患者の健康寿命が延び医療費を抑制できる。
検査結果に異常が無ければ受診者が安心できる。

デメリット
数値が改善すれば死亡者が減ると証明されていないものも多い。(尿酸値、尿素窒素、アミラーゼなど)
検査に手間がかかる。
項目が増えるほど検査費がかさみ、受診者の不安も増す。
成長が遅く治療の必要が無い小さながんなどを見つけ、不要な治療につながる過剰診療の可能性も
採血や内視鏡検査、医療被曝などで別のリスクが生じる。

出典
日経新聞・朝刊 2015.7.19