大腸がん 肛門残す手術法

大腸がん 肛門残す手術法

2年後の排便「とても良い」3割
大腸がんの手術で、新しい方法が広がりつつある。
肛門の近くのがんは、これまで人工肛門が選択されてきたが、筋肉の一部を切り取って肛門を残す試みだ。
ただ、排便機能が落ちる場合もあり、手術後の生活への影響を用を考えて選ぶ必要がある。

自分で排泄 満足感
がんが肛門から5センチ以内にあった場合、手術で肛門を一緒に切り取るのが一般的。
術後は腸の一部を脇腹から出して人工肛門をつくり、小さな袋を常時つけてそこに排泄する。

肛門には便がもれないようにしている括約筋がある。
腸に近い内側にある「内肛門括約筋」は自分の意思でコントロールできないが、外側の「外肛門括約筋」はできる。

新しい手術法では、内外の二つの括約筋を残してがんを切り取る。
腸の状態が落ち着くまで手術から数ヶ月ほど人工肛門にする必要があるが、再手術で閉じれば、残った括約筋を使って自分の肛門から排出できる。
内肛門括約筋を切り取る範囲はがん位置や深さなどによって違い、この手術法ができないことがある。

この括約筋間直腸切除術(ISR)という手術法は、日本では2000年ごろから実施され始めた。
直腸や肛門は骨盤の奥にあり、手術の際に見えづらい。
神経を傷つけずに外肛門括約筋を残しながらがんを取り切るには高い技術が求められる。

がんの再発率が肛門ごと摘出した場合とほとんど変わらなという実績を持つ医療機関もある。
自分の肛門から排泄を望む患者の満足感にもつながる。
 
便漏れ起きる場合も
肛門を残す手術法でも、排便機能は術前とまったく同じとはいかない。
筋肉や直腸が減った分、便漏れは起きやすくなってしまう。
便をためておけずに排便の回数が極端に増えることがある。
排便障害に困って、再び人工肛門をつくる人もいる。

全国7施設では、2005年~08年にこの手術を受けた110人を対象に経過を調べた。
便漏れの頻度や便漏れ用のパッドの使用頻度などから排便機能を評価する指標でみると、「とても良い」と判定された患者の割合は、人工肛門を閉じる手術の3ヶ月後では14%だったが、2年後には30%に増えていた。
一方、「とても悪い」とされた患者は3ヶ月後の時点で24%おり、2年後でも7%いたという。

術後の機能訓練に力を入れている医療機関もある。
肛門から訓練用のバルーン(風船)を入れて、肛門を締める感覚を覚えてもらう。
ただ、もともと排便機能が落ちていた人など、機能が十分に回復しないこともあるという。

がんの状態とともに、どれだけの排便機能があるのかを手術前にきちんと評価し、その後の生活をよく考えて選択すべきだ。
人工肛門のほうが適しているもある。

専門医らでつくる大腸癌研究会は、4年ぶりに改訂した14年版のガイドラインで、この手術法を初めて紹介した。
技術的に難しいうえ、根治や機能回復についてのデータがまだ十分ではないとして、患者の状態や医師の経験・技量もふまえて実施するかどうか判断することを求めている。

希望する患者は、病院のホームページなどで専門医の有無や実施件数を確かめ、医師とよく相談して決めるとよい。 

出典
日経新聞・朝刊 2014.11.11(一部改変)