がんPET検診 ~ がん早期発見への近道 その6(6/6)

「活動性」という新しいアプローチで早期がんを見つける

肺がんは、ごく早期のⅠ期であれば手術でがんを取りきることが可能であり、5年生存率も70%以上にのぼります。
しかし比較的早く症状が現われる中心型肺がん(肺門部にできるがん)でさえ、咳や血痰に気づいて受診したときにはもう早期ではないという場合が少なくありません。
症状のない段階で早期発見するためには、定期的な検診が不可欠です。
肺がん検診の現状について、昭和大学横浜市北部病院の中島宏昭副院長にうかがいました。

従来の肺がん検診では不十分
肺の検診というとエックス線の単純撮影がもっとも一般的であり、毎年会社の検診で受けている方も多いのではないでしょうか。
エックス線単純撮影は、肺炎や結核病変、骨の異常まで幅広く写し出してくれるすばらしい検査法です。しかし、がんの場合は最低でも5ミリ程度の大きさになるまで画像上に写ることはありません。
エックス線だけで早期発見するのはむずかしい、ということです。
 
そこで15年ほど前に老人保健法が改正され、ヘビースモーカーなどのハイリスク者には、エックス線に加えて喀痰細胞診も行われるようになりました。
喀痰細胞診は痰を採取するだけの簡便な検査ですが、3回連続して行えば約90%の確率で中心型肺がんを発見できることがわかっています。
中心型肺がんには強力な武器となりましたが、実は肺がんの半分以上を占める腺がんは肺野部にできる末梢型です。
そのため、末梢型肺がんも含めた対策が模索されてきました。

近年早期がんの発見率が向上したのは、広く普及してきたCT検査(コンピュータ断層撮影)によるところが大きいでしょう。
CTは体内を輪切りにした画像で観察する検査法です。
一般的なCT装置では臓器を7ミリごとに断層撮影していくので、かなり小さながんも発見できるようになりました。
 
しかしこのことは、撮影から次の撮影の間の7ミリは「死角」となることを意味し、がんが死角にあれば見落としてしまうことになります。
また7ミリを超えても10ミリ程度の大きさのものは、形だけでは良性か悪性かの鑑別は難しいのが現状です。

PETは「活動性」を映し出す検査
最近がんの新しい診断法として、PET(Positron Emission Tomography)が注目されています。
PETは、放射性物質ブドウ糖の類似物質を含んだ薬剤(FDG)を静脈注射し、これが発する放射線を特殊なカメラで映像化する検査です。
がん細胞は正常細胞よりも分裂が盛んですから、そのためのエネルギー源として数倍から数十倍のブドウ糖を取り込んでいます。
したがってFDGも盛んにがんに取り込まれ、その様子からがんをとらえることができるのです。
 
つまりPETでは形や大きさではなく「腫瘍細胞の活動性」でがんを見つけるので、「悪性度」の見当がつけられます。
CTの画像ではがんなのか良性腫瘍なのかわからなかった小さな影を、PETならある程度鑑別することもできるのです。
 
また、「肺気腫などで肺機能が落ち、気管支ファイバーが入れられない」「病変部が大血管のそばで生検ができない」というケースでも、PETなら対応できます。
PETでは、標識薬剤のFDGを静脈注射し、薬剤が全身に分布するまで1時間、その後検査で20~30分間かかりますが、ただ寝ているだけで何の苦痛もなく終了します。
高血糖など糖の代謝に異常のある人以外はどなたでも、問題なく受けてもらうことができるわけです。

予後の悪い肺がん、早期発見がカギ
もちろんPETで肺がんを100%発見できるわけではありません。
現在のところ1センチ未満のがんや、活動性(悪性度)が低いがんを見つけるのは難しいとされています。
しかし、近年はPETとCTを組み合わせたPET/CTが登場し、一度にPET画像とCT画像を撮影することができるようになりました。
PET/CTは、細胞を形状と活動性の2側面から診断することができますので、肺がんの診断には特に威力を発揮し、正診率を上げていくことができるでしょう。
 
また、現在がんのPETではフッ素が標識薬剤(トレーサー)として使用されていますが、最近ではさまざまなトレーサーの開発が進んでいます。
今後、より精度の高い検査に発展していくことも期待できます。
 
肺がんは早期発見が何よりも大切です。
PETはそのためのアプローチとして有用な方法であることは間違いありません。
CTなど他の検査法と上手に組み合わせることで、確実に早期発見・治療の可能性を広げてくれるはずです。

出典 日経いきいき健康 http://ps.nikkei.co.jp/hlthpet/pet_06.html
版権 日経新聞


<関連サイト>
がんPET検診 ~ がん早期発見への近道 その1(1/6)
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/archive/2011/06/10

がんPET検診 ~ がん早期発見への近道 その2(2/6)
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/archive/2011/06/20

がんPET検診 ~ がん早期発見への近道 その3(3/6)
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/archive/2011/06/24

がんPET検診 ~ がん早期発見への近道 その4(4/6)
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/archive/2011/07/07

がんPET検診 ~ がん早期発見への近道 その5(5/6)
http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy/archive/2011/08/03


<PET豆知識>
■PET検査は、がん細胞が正常細胞に比べて3~8倍のブドウ糖を取り込む、という性質を利用します。
■一般的ながん検診としてPETを受ける場合、自由診療の扱いとなり、健康保険は適用されません。
全額自己負担となります。
医療機関によって費用は異なりますが、一人一回、一通り全身を調べるスタンダードなコースで
10万円前後となる場合が多いようです。(保険適用でも3割負担で3万円ほどと、安くはありません。)
■すべてのがんを見つけられるわけではありません。
(胃や膀胱がん)など、「空洞構造の臓器」のがんの発見率は低いのです。
■読売新聞 2006.3.3 記事より
国立がんセンター(東京)の内部調査で、画像検査PET(ペット、陽電子放射断層撮影)によるがん検診では85%のがんが見落とされていたことが分かった。
同センター内に設置された「がん予防・検診研究センター」では、2004年2月から1年間に、約3000人が超音波、CT、血液などの検査に加えPET検査を受け、150人にがんが見つかった。
ところが、この150人のうち、PETでがんがあると判定された人は23人(15%)しかいなかった。
残りの85%は超音波、CT、内視鏡など他の方法でがんが発見されており、PETでは検出できなかった。
がんの種類別では、大腸がんが見つかった32人のうち、PETでもがんと判定された人は4人(13%)。胃がんでは22人中1人(4%)だった。
PETによる発見率が比較的高いとされる肺がんでも28人中6人(21%)、甲状腺がんで11人中4人(36%)にとどまった。
国立がんセンター村松幸男検診部長は「PETでは『小さながんを見つけやすい』と言われてきたが、早期がんでは他の検査に比べ検出率が低かった。PET検診の意義は小さいのではないか」と話している。
民間医療機関のがん検診では、がんのうちPETで検出されたのは64%、48%などのデータがある。国立がんセンターの超音波、CTなどを併用した検診では、がん発見率は一般の医療機関に比べ高いため、相対的にPETでの発見率が低下した可能性がある。


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