風邪、薬に頼りすぎず

風邪、薬に頼りすぎず 抗菌薬もウイルスには効果なく

うがいや手洗いなどで気をつけていても風邪をひくことはある。
風邪をひいたら無理せずゆっくり休養をとるのが基本。
とはいえ、受験生や社会人はそうもいかない。
そんなときに市販の風邪薬を飲むことは多いが、あくまで症状緩和が目的と心得よう。
 
一般に風邪というが、医学的には「かぜ症候群」と呼ばれる。
原因の80~90%はウイルスと呼ばれる病原体。
風邪を起こすウイルスには、ライノウイルス、アデノウイルスコロナウイルスなどがある。
 
気温が低く乾燥するこの時期は、風邪の原因ウイルスが飛散しやすいため、風邪をひく人が多くなる。
風邪を予防するには原因となるウイルスを寄せ付けないのが一番。
外出時のマスクや、帰宅時の手洗いやうがいといった基本的な対策が欠かせない。
 
とはいうものの、年に何回かは風邪をひいてしまうという人も多いだろう。
気象情報提供会社の調査では、1年間に風邪をひいた回数は平均2.3回との報告もある。

まず休養が基本
風邪をひいたら、まずはゆっくり休養を取り、水分や栄養を補給することだ。
そもそも、風邪の主な症状である鼻水やせきは、ウイルスを外に排出しようとする体の働き。
熱が出るのも体の免疫機能を働かせてウイルスに対抗するためだ。
私たちの体には本来、風邪を治す力があり、一般的には数日~1週間もすれば自然に治る。
つまり、風邪に対して通常、薬は必要ない。
 
ところが、抗菌薬(抗生物質)を飲めば風邪が治ると誤解している人がいまだにいる。

私的コメント
「風邪には抗生剤は効かない」ということは今や常識です。
しかし、風邪を引いた翌日にでも抗生剤が効く状態になっていることがあります。
それは風邪によって傷んだ気道粘膜に細菌感染を起こすことがあるからです。
これを専門用語では二次感染といいます。
このように「風邪には抗生剤は効かない」ということは、ある意味では正しいのですが、正しくないともいえます。
こまめに症状の変化をチェックして、抗生剤の使用を躊躇(ためら)わない柔軟な考えも必要です。

抗菌薬は、細菌には作用するがウイルスには作用しない。
だから、ウイルスが原因である風邪には無効。
それどころか有害なこともある。
なぜなら、胃炎など抗菌薬の副作用が生じるリスクがあるのに加え、抗菌薬が効かなくなる細菌(耐性菌)を生み出す可能性があるからだ。

私的コメント
風邪の際の抗生剤使用の「負の面」ばかりが強調されていますが、抗生剤の「乱用」により溶連菌感染が原因のリウマチ熱が見られなくなり、この病気の結果起こるリウマチ性弁膜症がほとんど見られなくなりました。
長い間医師をしていると40年以上前にはよく見かけたリウマチ性弁膜症がほとんど影を潜めていることに驚きを禁じ得ません。
(現在みられる弁膜症のほとんどは非リウマチ性弁膜症です)

市販の風邪薬を使う人も多いが過信は禁物だ。
ある製薬会社が20~30代の会社員などを対象(回答数620)に調べたところ、約6割が医療機関を受診せずに市販の風邪薬で治そうと考え、実際によく購入すると答えた。
 
市販の風邪薬、いわゆる総合感冒薬は、風邪を「治す」のではなく、あくまで症状を「和らげる」のが目的。
ほとんどの総合感冒薬で、鼻水や鼻づまりを抑える成分、解熱・鎮痛作用のある成分、たんを出しやすくする成分、せきをしずめる成分など、複数の成分が組み合わされている。

使い慣れた薬を
総合感冒薬の効能を知るには、どんな成分が含まれているかを確認すればよい。
薬の外箱や中の添付文書に書かれている。
製薬会社や医薬品医療機器総合機構のウェブサイトで調べることもできる。
他の病気で薬を飲んでいる人は、成分の重複や他の成分との相互作用が生じないか、薬剤師に確認してもらおう。
 
なお、鼻水や鼻づまりを抑える抗ヒスタミン作用のある成分は眠気を催しやすいので、服用中の車の運転や機械操作は避ける。
また、解熱鎮痛薬には十分気をつけたい。
小児の発熱にはアセトアミノフェン入りの薬を選ぶ。
ブランド名が同じでも「小児用」と書かれている薬には鎮痛成分としてアセトアミノフェンが含まれる。
まれだが、成人でもスティーブンス・ジョンソン症候群という重い皮膚の副作用の報告もあるので注意が必要だ。

総合感冒薬は種類がとても多いので、店頭で何を選べばよいか迷いがち。
人によって薬との“相性”が違う。
使い慣れた薬があればそれが良い。
以前に飲んだ経験があれば、副作用の回避にも役立つ。
風邪は自然に治ることから考えても、効能に細かくこだわるより合う物を優先する。

  ◇     ◇

インフルエンザは感染力強く
インフルエンザも広い意味でかぜ症候群に含まれる。
以前はインフルエンザウイルスによる風邪を「流行性感冒」、それ以外を「普通感冒」と呼んでいた。
流行性感冒の名の通り、インフルエンザは感染力が高く、症状も強いのが特徴だ。
 
インフルエンザウイルスを調べる検査キットや、インフルエンザウイルスに効く薬が開発され、インフルエンザの診断と治療は大きく変わった。
予防の面では、インフルエンザにはワクチンがあるが、風邪の原因となるライノウイルスやアデノウイルスに対するワクチンはない。
そのため現在では「風邪」と「インフルエンザ」を分けることが一般的だ。

私的コメント
「インフルエンザウイルスに効く薬」「インフルエンザにはワクチンがあるが、風邪に対するワクチンはない」・・・
この書き方では、恰(あたか)もインフルエンザには予防も治療ま可能であるといった誤解を招きかねません。
これらの効果の過信は禁物です。

参考
日経新聞 2017.1.26