大人の食物アレルギー、突然発症

大人の食物アレルギー増加 突然発症、治療手探り 乳幼児と異なる原因

特定の食べ物が原因で皮膚や呼吸器などにアレルギー反応が出る「食物アレルギー」を成人になってから発症する人が増えている。

原因となる食品の傾向は乳幼児と異なり、野菜や果物が多い。

発症の詳しいメカニズムは解明されておらず、治療法は確立していないが、患者の体質に応じて症状を改善する動きが大規模病院を中心に始まっている。

東京都在住の会社員の女性(33)は27歳の時に突然、食物アレルギーを発症した。

リンゴや桃、ナッツ類を少しでも食べると呼吸が苦しくなる。

「洋菓子などはアーモンドパウダーを使っていることが多く、控えざるを得ない」と

いう。

 

■ 花粉の季節要注意

専門医を受診し、症状を引き起こす食品は特定できたものの、発症の詳しい原因は分からないまま。

「今後、別の食べ物にも反応してしまうのではないかと考えると怖い」。

スギ花粉の飛散が多くなる2~3月はアレルギー反応が激しくなることが多く、2~3週間に1回通院し、症状を抑えるための薬を処方してもらっている。

 

食物アレルギーは、身体が食べ物に含まれるたんぱく質を異物と認識し、防御のために過剰な反応を示すことで起きる。

 

厚生労働省は「表れる症状によって、皮膚疾患や呼吸器障害などに分類されており、患者数の統計は取りにくい」としているが、専門医の多くは「生活環境の変化に伴い、乳幼児とともに、大人の患者が増えているのは間違いない」とみる。

 

10年ほど前から成人の患者が急増し、20代では1%程度の人が症状をもっているいう。

また。成人患者の10人に1人は原因となる食べ物を口にすると、ショック症状などの重篤な症状を引き起こしている。

 

乳幼児と成人の食物アレルギーは原因となる食べ物の傾向が大きく異なる。

厚労省研究班が2011年にまとめた「診療の手引き」によると、乳幼児を中心とした2478人に対する調査では、鶏卵が38.7%で最も多く、牛乳(20.9%)、小麦(12.1%)などが上位を占めた。

 

■ 果物・野菜が最多

これに対し、国立病院機構相模原病院相模原市)が実施した09~11年の患者調査(対象153人)によると、成人はリンゴや桃、梨などの果物・野菜が48.4%で最多。

以下は小麦(15.7%)、エビやカニなどの甲殻類(7.2%)と続いた。

ただ、発症の詳しいメカニズムが解明されておらず、なぜ果物や野菜が成人に多いのかは分かっていない。

 

幼児の場合、消化機能の発達とともにアレルギー反応が減ることが多い。

また、原因となる食べ物を少しずつ摂取することで体の免疫を慣らす「経口減感作療法」は牛乳などには有効だが、ナッツ類や魚介類には効果が小さい。

成人患者の治療は難しいとされる。

原因や症状、治療後の反応は一人ひとり異なる。

体質や特徴を把握したうえで治療を進め、生活上のアドバイスをする必要がある。

大規模病院ではこうした対応が始まりつつある。

 

重篤な食物アレルギーに悩む患者を受け入れている相模原病院はまず細かなアレルギー分類試験を実施。

その後、問診や血液検査に加え、原因物質を皮下細胞に触れさせる皮膚検査などで詳細に調べる。

例えば、リンゴでアレルギー反応が出る人でも、加熱したアップルパイなら反応が弱まることもある。

原因となる食べ物を特定するだけでなく、どの程度の量で、どんなアレルギー反応が出るのかを見極める。

 

原因となる食べ物をしっかりと突き止め、それを避け続けるのが最も有効な対処法となる。

医療側は、間違って口にする「誤食」を防ぐための指導を徹底する必要がある。

成人のアレルギーを巡っては、原因物質がまず皮膚から吸収されて抗体がつくられ、その物質を含んだ食品を食べて反応が出るケースもある。

10年ごろから全国的に問題となった洗顔せっけん「茶のしずく」が代表例で、せっけんに含まれる小麦由来のたんぱく質が原因となった。

 

食物アレルギーを完治させる方法はまだ確立していない。

日本はアレルギーの専門医が少ないといわれており、患者の増加とともに、研究や診療体制の裾野が広がることが期待されている。

 

    ◇  ◇

 

食品会社、対策進める 原料表示を強調/工場に専用施設

食物アレルギーをもつ人が原因となる食品を知らずに食べることがなくなるよう、国は2002年、食品衛生法に基づき、加工食品のアレルギー表示制度をスタートさせた。

食品メーカー各社は表示方法を工夫するとともに、製造過程での混入防止を図るなど安全対策を取っている。

 

消費者庁によると、発症件数が多く、症状が重くなりやすいとして省令で特定原材料等に規定し、表示を義務付けているのは、エビ、カニ、小麦、ソバ、卵、乳、落花生の7品目。

オレンジ、サケ、大豆、鶏肉など18品目は表示を推奨している。

 

加工食品製造の石井食品は06年、特定原材料等とアレルギー物質の一覧表の位置を包装材の裏面から表面に変更し、消費者が商品を手にしたときに見えるようにした。

09年にイラスト表示を採用して分かりやすさを改善した。

昨年7月には京都府の工場で、特定原材料等が混入しない専用施設を稼働させた。

7品目のいずれかを使う商品と全く使わない商品はキッチンや保管場所を分け、製造ラインごとに作業着や機材の色を区別。空調の吸排気や排水も独立させた。

 

ハウス食品は09年から、商品に含まれる原材料の一覧表の中で、特定原材料等を赤い文字で表記。

さらに特定原材料等だけを抜き出し、別枠で記載している。

サントリーホールディングスは表示の対象になっていないアルコール飲料の一部でも、オレンジなど特定原材料等を含む場合は自主的に表示している。

 

参考・引用一部改変

日経新聞・夕刊 2013.2.14

 

<関連サイト>

突然発症する大人の食物アレルギー

https://wordpress.com/post/aobazuku.wordpress.com/752