新型インフルエンザ 2009.9.2

まずは国内発生当初、大阪府内での疫学調査などに当たった国立感染症研究所感染症情報センター の安井良則主任研究官に、実態や、秋以降に予想される大流行への備えを聞いたインンタビュー記事からです。

医療の提供継続が課題

― 現状をどうみるか。
新型インフルエンザの感染性は通常のインフルエンザと遜色がなく、感染してからの発病率は季節性に比べて高いとみられる。これは新型にはみな免疫がないとみられるためだ。現在の流行の中心は中高生。季節性では、中高生は繰り返しウイルスの感染を受けているためある程度の免疫を持つ人が多く、流行の中心とはならないが、今回は異なっている」
 
「中高生は活動範囲が幼児や小学生より広く、地域の流行が大きくなる可能性あるが、国内に新型インフルエンザが入ってきたのは通常の流行シーズンが終わった後だったため大きな流行にはならなかった。また国内で初めて神戸、大阪で患者が確認された際、感染が広がりかけたところで大規模な休校措置を取ったことで一気に流行を抑えることができた。賛否はあるが、これによって日本は他の国に比べ1カ月か2カ月、時間稼ぎができただろう」
 
― 暖かい時期にも感染が広がっているが。
「過去のインフルエンザのパンデミック(世界的大流行)でも、夏に増えていたケースはある。原因の特定は難しい。あらゆる年齢層で発病率が高いことが影響しているのではないか。夏休みに入っても、大阪などでは新型インフルエンザの患者発生が収まらないとの声が現場から聞こえてくる。このまま学校が始まれば、早々に流行が拡大していく可能性がある。北半球の他の国で流行し、そこからウイルスが入ってきてさらに拡大することも考えられる」
 
― 日本では重症者がほとんど出ていないが。
「日本ではもともと、インフルエンザにかかった人はすぐに医療機関を受診している。ほかの国に比べて発病者が早期に発見され治療を受けることができている。タミフルなどの治療薬も発病後早期に処方され、これが重症者がほとんどいないことにつながっている可能性がある」
 
「だが、本格的に流行し患者が大量発生すれば医療機関へのアクセスが悪くなり、早期に受診、治療を受けることができなくなることが心配される。大流行時に医療サービスの提供が継続できるかは大きな課題だ」
http://www.47news.jp/feature/medical/2009/08/post-140.html
出典 共同通信 2009.8.18
版権 共同通社


タミフル耐性の監視を

新型インフルエンザの症状は季節性と同じと考えてよいか。
「新型の主な症状は発熱のほか、せきやくしゃみ、のどが痛くなるなどの急性呼吸器症状、悪寒や全身倦怠感、関節痛。季節性とほぼ同じと考えていいだろう。国内の患者で下痢の症状も確認されたが、米国での報告ほど頻度は高くないようだ」
 
罹患率をどうみているか。
「はっきり分かっていないことが多いが、新型は『しっかりかかる』と言える。季節性では感染しても気付かない人が多くいる。特に過去に感染の経験がある人たちだ。症状が軽く済み、ただの風邪と思ってしまう場合も多いだろう。新型はほとんどの人が免疫がないため感染した場合に発病する人が多く、しっかりとインフルエンザの症状を呈すると思われる」
 
― 治療は。
「早期のインフルエンザ治療薬の投与が有効だろう。われわれのチームが大阪府で行った疫学調査では、治療薬タミフルリレンザを早期投与した場合、発熱期間が短かったとの結果が出た」
「発症して24時間以内に治療薬を投与した場合、38度以上の熱があった期間の平均は1・9日間。発症1日後では2・5日間、発症2~5日後では3・4日間と、投与が早いほど発熱期間が短かった。タミフルでもリレンザでも発熱した期間に違いは見られなかった」

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新型インフルエンザには普段接種しているインフルエンザワクチンは効くのか。
「効かないだろう。季節性インフルエンザのワクチンにはAソ連型(H1N1型)、A香港型(H3N2型)、B型の3種類の抗原が入っている。新型はH1N1型で、Aソ連型と同じ型に分類されるが、抗原性が大きく異なるため従来の季節性インフルエンザのワクチンは効果が期待できない」
 
―国内の新型の患者で、タミフルに耐性を持つウイルスが検出されたとの報告があるが。
タミフルの使用で発生したと考えられるが、今のところこのウイルスによる周囲への感染拡大は見られていない。現在、Aソ連型ウイルスのほとんどがタミフル耐性で、このウイルスと新型が混じり合う交雑が起きて耐性を獲得することが心配だ。注意深く監視する必要がある」





新型インフルエンザ 重症化しやすい人は

新型インフルエンザで重症化しやすい人は。
「大半の健常者にとっては、通常のインフルエンザとほぼ同じだと考えられる。
高齢者や乳幼児、肝障害や心疾患、呼吸不全、糖尿病、腎不全などの慢性疾患がある人、免疫が低下している人のほか、がん患者らで重症化のリスクが高いとされている」
 
「米国では肥満の人で重症化のリスクが高いとの報告があり、注目されている。米疾病対策センターCDC)の報告によると、ミシガン州の医療施設で治療を受けた21~53歳の重症患者10人のうち、9人は体格指数(BMI)が30を超え肥満だった。さらに、9人のうち7人は40を超える極度の肥満だった。ただ、日本には米国より肥満の人は少ないので、そのまま当てはまるかどうかは分からない」
 
― 妊婦はどうか。
「全妊娠期間で注意が必要だ。特に妊娠後期では死産や流産のリスクも高まる。流行時にはなるべく外に出ないようにして、人からの感染の機会を極力減らすことが重要になるだろう」
 
― 腎不全の患者は血液透析を受けている人が多い。
 「患者は透析施設で、隣と近接したベッドに数時間いなければならず、インフルエンザの患者がいた場合は容易に感染が広がりやすい。感染者とほかの透析患者が接触しないような措置を取る必要がある」
 
― 国内では脳症の報告が相次いでいる。
 「インフルエンザ脳症は、インフルエンザに感染した乳幼児が突然、けいれんや意識障害を起こし、状態が急速に進行する重篤な疾患だ。国内では年間100人程度が発病しているとの厚生労働省研究班の報告がある。近年、治療法が確立されつつあり、以前に比べ死亡率は下がってきたが、それでも10~15%と高い。新型インフルエンザでも脳症は起きるため、意識障害などがみられた場合は早い段階から脳症を疑って治療するべきだ」

― 肺炎への注意は。
「通常のインフルエンザで肺炎になる場合は、細菌による二次感染が大半だが、新型の場合はウイルスそのものが肺炎を引き起こすウイルス性肺炎が海外で報告されている。急速に進行し、重症化する『急性呼吸窮迫症候群(ARDS)』の報告もある」




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出典 朝日新聞 2009.9.1
版権 朝日新聞社

<コメント>
この記事の中にPCR検査と簡易検査の話が出ていました。
一部の人のみにPCR検査を行うという内容です。
問題は大病院も含めた医療機関ではPCR検査ができないことです。
つまり、この検査が医療機関ではなく保健所を通じて公立の衛生研究所で検査を行うと決められているのです。
このことはご存知ない方が大半ではないでしょうか。

一般医療機関が保健所に連絡して、その話が「本庁」に伝えられて、検査が必要かどうかが「本庁」から保健所に連絡され一般医療機関に結果が電話されます。
お願いして、やっと検査がやってもらえるかどうかなのです。

急激に悪化して重症化しやすい新型インフルエンザ。
こんな悠長な方法では短期決戦の新型インフルエンザには対応できません。
なによりも一般診療を行っているわれわれ開業医はそんな手間隙(てまひま)のかかることにかかわってはおれません。

先日、公的衛生機関に携わる公務員の患者さんから驚くべき事実を聞きました。
PCR検査を行っている彼らは時間外手当が増えていいお小遣い稼ぎになっているんですよ」

これが実態です。
公務員の既得権益ということなんでしょうか。


週刊文春2009.9.3に「徹底検証 新型インフルエンザ 厚労省は何をしていたのか」という特集記事が出ていました。
サブタイトルは「宙に浮いたワクチン対策費、民間病院に遺伝子断片を渡さない」です。

以下、記事から一部引用します。
九州医療センター名誉院長の柏木征三郎氏は疑問を呈する『なぜ新型インフルエンザのPCR検査を民間の医療機関でも行うようにしなかったのでしょうか。PCRの機械を持っている医療機関は多いのに、厚労省は検査に必要な新型インフルエンザの遺伝子断片を民間に配布していないので、勝手には検査できないのが実情です。PCR検査ができないと、ハイリスクの患者が新型インフルエンザに感染しているかどうかも分からず、治療が滞ってしまうのです』」


これからの季節は、季節性と新型が混在してきます。
本来、治療というものは診断がついてから行うのが原則です。
「季節型インフルエンザと治療が変わらない」と厚労省は決めつけていますが、死亡例の経過などをみると同じとは思えません。
急変例が多いのです。
早急に診断を確定することができないのは全くもって隔靴掻痒です。




<きょうの一曲>
かつおぶしだよ人生は
http://www.youtube.com/watch?v=Lq6l7FV6nzo&hl=ja


読んでいただいて有難うございます。
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