網膜静脈閉塞症

視力低下・視野欠ける… 目の動脈硬化かも  早期治療で症状緩和

http://www.nikkei.com/article/DGXDZO76948530R10C14A9EL1P01/
動脈硬化は心臓や脳の病気をもたらす。
実は、目でも動脈硬化は起きており、網膜にある静脈で血液が流れにくくなってしまう。その結果、目がかすむ、視野の一部が欠ける、急激に視力が落ちるといった症状が現れる。放置すると、目から出血したり目の奥が腫れたりし、失明することもある。
異変を感じたら早めに眼科を訪れることが大切だ。
 
「網膜静脈閉塞症」は高血圧などの生活習慣病を持っている人に多いことが知られている。糖尿病や血管の炎症などがある場合も発症しやすくなる。
中高年に多く、男性では40代以降、女性では50代以降で患者が増える。
まれに20代でも発症するケースもある。
40歳以上の日本人の約50人に1人が、この病気を発症しているという。

血液や水分漏れる
網膜静脈閉塞症は動脈と静脈が交差していたり並行していたりする部分で、動脈硬化が起こり、静脈の血液の流れが滞ってしまう。
この結果、視力の低下などにつながる。
大きく分けて2タイプがあり、網膜内で起こるのを「網膜静脈分枝閉塞症」、脳からつながる視神経で起こるのを「網膜中心静脈閉塞症」と呼んでいる。
 
網膜内で起こるタイプは、静脈の流れが悪くなった場所の上流で血液や水分が漏れる。
この結果、眼底出血や網膜のむくみ(浮腫)などが起こる。
こうした現象が、ものの形や大きさ、色、距離感などの視覚情報の識別にかかわる黄斑(おうはん)と呼ぶ部分に及ぶと、視力が低下したり、ものがゆがんで見えたりする。
視力が落ちないケースも含めて症状はさまざまだ。
3か月以内に自然に改善する場合もある。

これに対し、視神経で起こるタイプは黄斑の浮腫や眼底出血が起きやすくなる点は同じだが、急激な視力低下を伴うのが特徴だ。
静脈の根元部分の流れが滞り、網膜全体に血液などが漏れるためだ。
出血の範囲も広くなりやすく、その影響で見ているところが黒っぽくなるなど視界が遮られるケースもある。

いずれのタイプでも、目の異変を感じたら早めに眼科を受診することが重要だ。
医師は患者の状態を尋ねるとともに、視力やゆがみなどの測定、眼底の検査などを通じて、どんな病気を発症しているか判断する。
網膜静脈閉塞症でなくても、高齢者に多い加齢黄斑変性や糖尿病の合併症である網膜症などの可能性もある。

むくみを改善
網膜静脈閉塞症の治療では、閉塞そのものを取り除くのは難しいため、黄斑部の浮腫などの改善を目指す。
治療法はいくつかあり、症状に応じて医師が選択する。
薬物治療では、血液の流れをよくする薬を飲んだり、静脈からの血液や水分の漏れを抑える薬を目の中や周囲に注射したりする。
レーザーで網膜を焼き固めて水分をためないようにして進行を抑える方法もある。
 
こうした治療で改善しない場合は、ゼリー状の球である硝子体の一部を手術で切除し、浮腫の軽減などを目指す。
ただ、どの治療法を選んでも、効果には個人差がある。
 
昨年、「抗VEGF(血管内皮増殖因子)治療薬」が国の保険適用となり、治療の選択の幅が広がった。
目に麻酔薬を差した後、抗VEGF薬を硝子体に注射する。
眼球内のVEGFは黄斑浮腫を悪化させるので、その働きを妨げて浮腫を軽減して症状の改善を目指す。
視力が大きく低下する前に治療を始めると効果が出やすいという。
投薬後、1カ月以上たって再発したら、再度注射する。
 
網膜静脈閉塞症の発症リスクを高める高血圧や糖尿病にならないよう、日ごろから注意することも大切だ。
血圧をコントロールするには、塩分を控えるとともに、適量でバランスのよい食事、適度な運動などを実践するのが望ましい。
酒を飲みすぎないようにし、たばこもやめる。
こうした心がけは他の生活習慣病対策にもなる。
 
中高年になると、老化現象の一種で近いところが見えにくくなる「老眼」も現れてくる。40歳を過ぎたら、目のトラブルや病気が出てくる可能性が高まると頭に入れ、定期的にチェックするとよい。

出典
日経新聞・夕刊 2014.9.12