認知機能 アロマで刺激

認知機能 アロマで刺激

脳の病気リスク減らす試み 多彩な香り いつも身近に
認知症パーキンソン病といった脳の病気と、匂いの感覚である嗅覚の関係が注目されている。
香りによって認知機能を刺激したり、40~50代から特定のアロマオイルを使ったりすることで病気のリスクを減らす試みが始まっている。
認知機能が衰えるリスクのある人たちに嗅覚訓練をして効果を確認する研究も動き出す。

40代半ばの女性。
昼に香りのする「アロマペンダント」を首にかけて過ごしている。
ペンダント内のマットにはアロマオイルの一種である「ローズマリー・カンファー」と「レモン」の精油が染み込ませてある。
「カンファー」は通常のローズマリーと比べ香りがシャープで神経への作用が強いことが知られている。
 
夜、自宅では別の種類のアロマオイルを使う。
鎮静作用があるという「真正ラベンダー」に「スイートオレンジ」を混ぜたものを芳香器に入れて、部屋に香りを満たして眠りにつく。
 
アルツハイマー認知症の症状が表れるのは多くは65歳以上だが、原因たんぱく質アミロイドβが脳にたまり始めるのはその20~30年前から。
40代からアロマオイルを使うことを勧めている専門家もいる。

介護老人保健施設の入所者にアロマオイルの香りをかいでもらい、その前後で知的機能を測るGBSスコア(老年期痴呆行動評価尺度)という指数を検査した研究がある。
比較的軽いアルツハイマー認知症の患者が対象で、4週間のアロマテラピーの後に同スコアの改善を確認した。
 
アルツハイマー認知症では最初に嗅覚機能が低下し、異臭に気づかなくなる人が多い。
症状が進むと、脳で記憶を蓄える働きをする海馬が萎縮する。
鼻腔上部の粘膜にある嗅細胞が減り始め、嗅覚の信号が伝わりにくくなり、その後に海馬の細胞が障害されるというプロセスが確認できるという。
 
一方で「嗅細胞は死滅した後にも再生しやすいことが特徴。
新生した嗅細胞は適切な時期に匂い刺激を受けることで成熟するとされる。
アロマの香りの刺激が海馬などに伝わり、機能が衰えてきた部分の活性化につながる。
 
症状を直接改善するわけではないが、アルツハイマー認知症の早期診断に香りを利用する試みも注目されている。

嗅覚試験によって認知症かどうかを早期に判断する研究もある。
 
既存の認知機能検査では分からない段階で、嗅覚試験によっていち早く判定できないかということを検討した結果では、より早期の発見ができれば、生活習慣の見直しで進行を遅らせるなどの手が打てるという研究成果もある。
 
認知症と並ぶ代表的な脳の病気であるパーキンソン病も「匂いが分からなくなる病気」といわれる。
「手足が震える」「筋肉がこわばる」といった4つの主要な運動症状が出現する数年前から、嗅覚障害が表れるケースが多いことが最近分かってきた。
 
認知症の場合と同じように、嗅覚を担う神経部位に最初に障害が表れるという。
また、パーキンソン病の患者は症状が進んだ後に、認知症を発症するリスクが高いことも知られている。
 
ある大学では、パーキンソン病患者に嗅覚の訓練をして認知症に移行するリスクを減らすことを目的にした研究がスタートする。

パーキンソン病の患者約100人を2グループに分け、一方は通常のアロマテラピーを3カ月続ける。
他方のグループでは「納豆のような匂い」など12種類の香りをかぎ分けるなど訓練の要素を取り入れる。
試験後に認知機能や脳画像の検査をして効果を比較する。
 
人間は動物と比べて嗅覚に頼らないですむ分、機能が衰えがち。
嗅覚を鍛えることで脳機能を改善する方法を探りたい、というのがこの研究の目的だ。

匂いの信号は直接脳へ
脳には感情や記憶をコントロールしている大脳辺縁系という領域があり、海馬や扁桃体などが含まれる。
嗅覚の信号は、視覚や聴覚などと異なり、この大脳辺縁系に直接入るのが特徴だ。
鼻腔上部の粘膜にある嗅細胞が嗅神経につながり、嗅球という組織を経て大脳辺縁系に信号が送られる。

嗅細胞は古くなったものが毎日死んでいき、新しい細胞が生まれている。
この嗅細胞に適切な時期に匂い刺激の入力がないと、神経回路に組み込まれず死滅することが分かってきた。

マウスを用いた実験で、細胞が生まれて1~2週間の間に匂いの入力を受けないと、細胞が成熟せずに死んでしまった。
適切な時期に嗅覚障害の患者に匂い刺激を与える匂いリハビリテーションの臨床応用につながる可能性が期待される。

参考
日経新聞・朝刊 2016.6.30