鳥アレルギー

羽毛布団出したらコホッ 鳥アレルギーの肺炎かも

羽毛布団やダウンジャケットが欲しくなるこの季節に増える肺の病気がある。
鳥の羽毛や排せつ物が原因となる「鳥関連過敏性肺炎」だ。
風邪と症状が似ていて間違われやすいが、乾いたせきや息切れが長引く場合、この病気にかかっている可能性がある。
早いうちに原因をつきとめ、しっかり治療しないと悪化する。

通常の肺炎は、細菌やカビが肺で増殖することで発症する感染症だ。
一方、鳥関連過敏性肺炎は、全く異なる仕組みで発症する。
 
鳥の皮膚からはがれ落ちるフケのような「ブルーム」というたんぱく質は、大きさが5マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル程度と小さいため、肺の奥まで入り込みやすい。
このブルームや鳥のフンが抗原となって体内に抗体ができて過剰な炎症を起こす。
いわゆるアレルギー性疾患だ。
 
主な症状は、痰を伴わない「コホッコホッ」という乾いたせきと息苦しさだ。
急性の肺炎が起きると、38度を超える高熱が出ることもある。
風邪と症状が似ているため、間違える人も多いという。

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かつて「鳥飼病」とも呼ばれていた。
インコやオウムなどを飼っている人や、過去に飼っていた人がしばしば発症する。
生きている鳥に限らず、部屋に鳥の剥製があるだけで発症することもある。
 
ハトが多くいる社寺や公園、鶏ふん肥料を使っている畑、養鶏場などが自宅近くにあると、日常的にブルームなどを吸い込み抗体を作っている可能性がある。
 
羽毛布団やダウンジャケットのような羽毛を使った製品も要注意だ。
病名に鳥がついていると鳥を飼う人の病気だと誤解されやすいので、「羽毛布団肺」と呼ぶ専門家もいる。
 
羽毛布団を長年の間使っていると羽毛から出た抗原に対する抗体が体内につくられ、羽毛布団の買い替えをきっかけに急性の肺炎が起きると考えられている。
したがって羽毛布団を新しく買う場合にはこのことを知っておく必要がある。

いったん発症すると、わずかな抗原も引き金になる。
満員電車でダウンジャケットを着た人と同乗するだけで症状が出る人もいる。
患者は30代後半以上の中高年に多い。羽毛布団やダウンジャケットの出番が増える秋から冬にかけて症状が悪化する例が目立つ。
 
発熱などを伴う急性期なら、CTや問診で鳥関連過敏性肺炎とわかりやすい。
しかし慢性期に移行すると、抗原に触れたとき以外は症状がないため、診断に難渋することが多い。
 
呼吸器内科医でも間質性肺炎が専門でないと診断は難しい。
慢性患者の約4割が、前の病院で原因不明の特発性間質性肺炎と診断されていたという報告もある。

鳥関連過敏性肺炎が疑われたら、血液検査や抗原の吸入試験などが必要になる。
血液検査では、鳥のブルームやフンに反応する抗体があるかどうかを調べる。
現在はほぼ全国で抗体検査ができる。
ただし抗体を持っていても、アレルギー反応を起こす段階には至っていないこともある。
少量の抗原を吸って反応を見る吸入試験も実施されている。
 
治療ではステロイド薬も使うが、抗原を徹底的に回避することが重要だ。
羽毛布団やダウンジャケットなどは全て廃棄し、自宅は念入りに掃除する。
満員電車はなるべく避け、乗るときには目の細かい特殊なマスクを使用する。
 
少量でも抗原が残っていれば、少しずつ症状は進む。
適切に対処することで、悪化を防ぐことができる。
正確な抗原を突き止めて回避するため、患者の自宅を訪問し、周辺も歩き回って確認する医師もいる。
せきや息切れが長引いて気になるようだったら、医療機関を受診したい。

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カビやキノコ原因のタイプも
国内で鳥関連過敏性肺炎の潜在的な患者は6千人程度と推定されている。
病気の認知度が高まり、血液検査が普及したことで、これまで原因不明と診断されていた患者が鳥関連過敏性肺炎と明らかになる例も増えている。
 
アレルギーのために発症する過敏性肺炎は、鳥関連以外にも様々なタイプがある。
トリコスポロンというカビの一種が原因になるのは「夏型過敏性肺炎」だ。
日当たりが悪く湿った住宅などでカビが発生、夏に飛散する胞子で発症する。
夏から秋に患者が多く、冬になると治まることが多い。
 
このほか化学物質が原因の「塗装工肺」、シイタケなどの胞子が引き金となる「きのこ栽培者肺」などが知られる。
過敏性肺炎は何年も放置すると慢性化し、肺が線維化する恐れがある。
急性の過敏性肺炎患者の7割以上は夏型だが、慢性では鳥関連が5割程度を占める。
線維化した肺の治療は難しいが、進行を食い止めることはできる。
早い段階で専門医に診断を受け、対策を始めることが重要だ。

 
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日経新聞・朝刊 2016.12.11