スギ花粉に舌下免疫療法

花粉に慣れて、かゆみサラバ 「スギ」に舌下免疫療法 7~8割効果、薬不要の人も

今年もスギ花粉症のシーズン本番が近づいてきた。
日本人の4人に1人は鼻水や目のかゆみに悩まされているともいわれる。
その根本的な治療になりうると期待されるのが「舌下免疫療法」だ。
花粉のエキスを毎日少量ずつ摂取し、体が花粉に慣れるようにしてアレルギー反応を抑える。
実用化から3年目を迎え、効果を実感する人も増えてきた。

東京に住む20代の会社員の男性は、中学生のころから毎年、花粉症による鼻水や鼻づまりに苦しめられてきた。
だが2015年の夏に舌下免疫療法を始めたところ、翌16年の春にはほとんど薬を併用せずに過ごせたという。「花粉症がないと春はこんなに楽なのか」と少し驚いた様子だ。
 
花粉症は本来は体に害のない花粉によって起きる。
空気中を大量に飛ぶ花粉が鼻や目の粘膜から体内に入り込むと、体はこれを異物として認識し、排除しようとする免疫が働く。
花粉にくっつく抗体ができ、抗体はマスト細胞(肥満細胞)という免疫の細胞に結合する。
するとマスト細胞はヒスタミンなどの化学物質を放出し、鼻水や鼻づまり、くしゃみ、目のかゆみなどの症状を引き起こす。
 
本来は体を守るためにある免疫が過剰に働き、こうした炎症をもたらすことをアレルギー反応という。
花粉症薬はヒスタミンの働きを抑える作用があり、症状は和らぐが、花粉症を起こさないようにはできない。
 
花粉を少しずつ摂取して体を慣らしていけば、アレルギーを抑え、花粉症を治すことができるのではないか。
こうした発想から生まれたのが免疫療法だ。

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欧州では1980年代後半から、花粉のエキスを舌の下に垂らし、口の粘膜から吸収する舌下免疫療法が始まった。
日本に多いスギ花粉症にも効果があるのかを調べる臨床試験が実施され、結果は良好。2014年に日本でも承認され、健康保険の適用になった。
 
免疫療法自体は新しいものではない。
1970年代には花粉のエキスを皮下注射する手法があった。
ただ2~3年間通院して注射を受けねばならず、負担が大きい。
まれにぜんそくの発作や命にもかかわるアナフィラキシーショックなどの副作用が起きるとされ、次第に行われなくなった。
 
より負担の少ない手法として実用化されたのが舌下免疫療法だ。
まず血液検査でスギ花粉症であることを確かめる。
スギ花粉から作ったエキスを1日1回舌の裏側に垂らし、2分間なじませてから飲み込む。
 
口の粘膜を通じてエキスが体内に入る。
エキスの量や濃度を段階的に上げることで体がスギ花粉に慣れ、つらい症状が起きにくくなるとみられる。副作用として、口の中の腫れやかゆみなどが出ることもある。
 
大事なのは毎日続けることだ。
しっかりとした効果を得るために最低でも2年間、できれば3年間続けたい。
 
3割負担の保険診療で、料金は1カ月1000円程度。
2~3年続けるとなると数万円かかり、このほか検査費用なども必要だ。
現在全国で約6万人が治療を受けているという。
 
千葉大日本医科大学多摩永山病院、埼玉医科大学などと共同で、治療を始めた患者に15年と16年にアンケート調査を実施した。
 
7~8割の患者は例年より症状が軽くなり、おおむね期待通りの効果が得られたと回答。
治療を始めて1回目のシーズンより2回目の方が症状は軽くなり、効果を感じる人も増えた。
16年は薬を併用せずに済んだ患者が2割程度いた。

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主観的な感想はとかく良い方に振れがちなので注意が必要だが、患者からの評価は高い。
 
ただし今年の花粉に備えて舌下免疫療法を始めることはできない。効果が出るのに2~3カ月かかるうえ、花粉の飛散期に始めると予期せぬ副作用が起きる恐れもあるからだ。
 
現在、治療対象は12歳以上に限定されているが、12歳未満の子どもについても臨床試験(治験)が進められている。
 
免疫療法が効く詳しいメカニズムは分かっていない。
東北大学の菅原俊二教授らはマウスに舌下免疫療法を行い、免疫のブレーキ役となる制御性T細胞が増えることを見つけた。
アレルギー反応を抑えるブレーキの働きが効果をもたらしている可能性がある。
人で直接調べるのは難しいが、メカニズムが分かればより効果的な治療法につながる。

 
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予防効果検証へ臨床試験
花粉症は、いったん発症するとほとんど自然治癒はしない。
発症する前に免疫療法を受け、花粉に体を慣らしておけば、発症を防げるかもしれないと期待されている。
千葉大学山形大学などは共同で、2014年から舌下免疫療法による花粉症の予防効果を検証する臨床試験(治験)を始めた。
   
まだ花粉症を発症していない人に12~4月に舌下免疫療法を受けてもらい、受けていない人と発症する割合が違うかどうかを調べる。
14年12月に始めた人は今年で3回目の花粉シーズンを迎え、16年12月の人は今春が初めての飛散期だ。
予防効果が何年ぐらい続くのかも調べる。
結果は今年夏ごろにはまとまる見通しだ。
先行して千葉大学が単独で実施した試験では予防効果が見られたという。
 
免疫療法は発症する前の方が効果が出やすいとの見方もある。
特に子どもには予防が重要だ。

参考
日経新聞・朝刊 2017.2.19