統合失調症の早期治療

病気知り対人訓練 統合失調症の早期治療

100人に1人がなると言われる統合失調症
薬物治療と同時に、施設に通いながら病気への対処方法を学んだり、対人関係の技能を訓練したりする試みが注目されている。
発症から治療開始までの期間が治療効果を左右することも分かってきた。
        
薬と同時にディケア
Aさん(50代、女性)は6年前の夏の日が忘れられない。
当時19歳の息子が何も言わず予備校のスケジュール表を破って捨てた後、寝てしまった。
翌日も息子は起きてこない。起こすと、ぼっとした状態で食事をとり、再び寝てしまう。
そんな状態が2カ月以上も続き、精神科の診療所を受診した。 
うつ病の疑いで薬が処方されたが、効果はなかった。
他人から見られていると感じて、人ごみが怖いという。
その後、統合失調症と診断された。
統合失調症の多くは10代から20代に発症する。
幻覚や幻聴、意欲低下などの症状のほか「忘れやすい」などの認知機能などにも影響がでている。
初期にはうつ病と判別が難かしいこともある。
これまでの治療は薬に偏りがちであった。

男性は2年後、東邦大医療センタ-大森病院を紹介された。
ここには、30歳代以下の統合失調症の患者の早期治療に特化したディケア「イルボスコ」がある。
イタリア語で「森」を意味する。
認知機能の訓練や病気とのつきあい方、ストレス対処法といった心理教育を受け、料理やイベント準備などを通してコミュニケーション力をつける。
   
関係者は「対人関係の技能は、実際に人と関わり合う中で練習してこそ上達する」と話す。
施設の運営に関わる東邦大精神神経医学の教授は「薬物だけでなく早期の包括的な治療が重要」と話す。
この男性も抗精神病薬の服用を続けながら、週一回ディケアに通い始め、次第に毎日行けるようになった。当初は電車に乗れず、車で送ってもらっていたが「ヘッドホ-ンで音楽を聴くと他人の視線が気にならない」と仲間に教えられ、電車に乗れるようになった。
毎朝起きられるようにもなり、アルバイトも経験した。
「病気とつきあいながら社会生活の幅を広げてくれれば」と母親は話す。
   
こうしたディケアは、奈良県立医科大精神医療センタ-(橿原市)にもある。
ただ運営には多くの人手が必要で、全国的にはまだ少ない。

「発症後5年」がカギ
統合失調症で行動の変化が急激に起こる「急性発症型」と、社会との関わりを次第に避けていく潜行発症型」がある。
厚労省研究班が昨年発表した論文によると、潜行発症型は治療開始が遅れがちなことがわかった。
発病開始から治療開始までの「未治療期間」は急性発症型の79人では、
9カ月。
潜行発症型の77人は平均2年10カ月に及んだ。
潜行発症型では、未治療期間が短いほど、認知機能の改善や社会生活への対応が良く、生活の質の満足度も高かった。
    
研究をまとめた水野教授は、「発症から最初の年間に集中的に治療することが重要で未治療期間をどれだけ短くできるかが課題」と話す。
ただ、心の不調や行動に変化がみられても試験の失敗や失恋などによる一時的なものと思われがちだ。
    
周囲の人が病気かも知れないと疑えば適切な診療に繋がる率が高まる。
    
一方、治療の中断も課題だ。
初期には、薬の効果も高いが、副作用も大きいことが多い。
自己判断で薬を中断して再発というバタ-ン繰り返してしまう人もいる。
医療提供側は、初期の患者に時間をかけて説明を行い治療を続ける重要性を認識してもらう必要がある。

 
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参考・引用
朝日新聞・朝刊 2016.2.9