インフル薬 「ゾフルーザ」

インフル薬 変わる勢力図

塩野義「ゾフルーザ」、タミフルに肉薄 自社開発で利益確保
流行期が近づくインフルエンザの治療薬の勢力図が一変しそうだ。
1回の服用で治療できる塩野義製薬の新薬「ゾフルーザ」が本格投入され、中外製薬の「タミフル」を抜く可能性が高まる。
ゾフルーザは今秋には米国でも承認される見通しで、年間売上高1000億円以上の「ブロックバスター(大型新薬)」入りも見えてきた。
新薬の種を社外に求める動きが潮流となるなか、自社開発を貫く「逆張り」戦略が実を結びつつある。

塩野義が3月に発売したゾフルーザは細胞内でウイルスの増殖を防ぐ仕組み。
効果が早く表れて長く続くため、1回の服用で治療できる。
5日間服用が必要なタミフルなど競合薬に比べ患者の負担が軽く、飲み忘れも防ぎやすい。
初めて本格的に市場に出回る今シーズンは、国内だけで130億円の売上高を見込む。
大人1回分の薬価は2錠で4789円と高めだが、「使い勝手や効果を考えれば問題にならない」とみて攻勢をかける。
競合薬への影響は大きい。
抗インフル薬で国内首位の第一三共の「イナビル」は17年度に過去最高の253億円を売り上げた。
しかし18年度は25%減の190億円に落ち込む見通しだ。
2位の中外製薬タミフル」の17年の売上高は169億円。
18年1~6月期はインフルエンザの流行もあって前年同期比2.4%増の84億円を売り上げたが、通期では17年実績を大きく下回りそうだ。
沢井製薬が9月に国内初のタミフルの後発薬を発売したことも影響し、ゾフルーザがタミフルを抜く可能性が高まっている。

海外展開も視野
ゾフルーザは米国でも今秋にも承認を得て、近く流通が始まる見通しだ。
当初は年末の承認予定だったが、重症化のリスクが低い患者に高い効果が見られたため、全ての治験の最終結果を待たずに審査へ進んだ。
塩野義はゾフルーザについて、日本と台湾以外の市場では中外の親会社でスイス製薬大手のロシュと提携する。
ロシュはタミフルを世界で展開するが、ゾフルーザの効果を認め塩野義と組んだ。
塩野義はゾフルーザの世界売上高を年間1000億円以上に引き上げる計画だ。
今や製薬会社の開発品は、多くがスタートアップ企業や海外の製薬会社からライセンス契約で入手している。
それに対しゾフルーザは、塩野義が約10年かけて自社開発した。
既に治療薬が確立されているインフルエンザ薬の市場規模はがんなどと比べ小さいが、画期的な効果が生み出せると判断。
一時は年間の研究開発費が100億~200億円膨れあがったが、開発を最優先した。
塩野義の18年3月期の連結売上高は3446億円。
国内製薬大手の中でも規模は小さい。
研究開発費は年間600億円程度と、国内最大手の武田薬品工業の5分の1にすぎない。
それでも大型新薬を生み出せる背景には、自社開発を重視する戦略がある。
塩野義の場合、開発品の74%が自社開発か他の大学や企業と共同開発したものだ。
ほとんどの製薬会社はこの比率を開示していないが、一般的には2~3割程度といわれる。
売上高営業利益率が約3割と2割弱にとどまる他社を大きく上回るのもロイヤルティーなどを他社に支払う必要がないためだ。

開発領域絞る
インフルエンザやHIVなどの感染症に領域を絞り込み、「ファースト・イン・クラス(FIC、画期的医薬品)」の開発に注力するのも塩野義独自の戦略だ。
一般的な製薬ビジネスは、巨額の売り上げが見込める新薬が登場すると、効果を高めた「第2世代」の製品を投入するのが定石だ。
代表的なFICとされる小野薬品工業のがん免疫薬「オプジーボ」も、米メルクやロシュが「テセントリク」といった競合品を投入し、シェア獲得競争が激しくなっている。
画期的な新薬を他社に先駆けて販売できれば先行者利得も多い。
世界で薬価引き下げの圧力が強まる中、いかに収益力を維持しながら新薬を生み出すか。
巨額のM&A(合併・買収)で規模拡大を狙うだけが道ではなく、「創薬特化型」という処方箋があることを示している。

日経新聞・朝刊 2018.10.17

<私的コメント>
この記事には、われわれにとって初耳の薬業界の専門用語が散りばめられています。
当院でも、今シーズンのインフルエンザ患者さん第一号が一昨日来院されました。
ゾフルーザについては、第二号の患者さんに昨日初めて処方しました。