ヘルスリテラシー低い日本人

ヘルスリテラシー低い日本人

がんで命を落とさないための秘訣は「がんを知る」ことだ。
がん治療も一種の情報戦といえるが、がんに限らず、日本人は健康や医療についてのリテラシーに欠けると指摘されている。

ヘルスリテラシーの国際比較調査では「医師から言われたことを理解するのは難しい」と答えた日本人は44%に上った。
これに対し、欧州連合EU)8カ国の平均値は15%、ヘルスリテラシー先進国のオランダは9%にすぎなかった。
「病気の治療に関する情報を見つけるのは難しい」と答えた割合も日本が53%、EU27%、オランダ12%と差がついた。
国・地域別のヘルスリテラシーの平均点(50点満点)では、オランダが37.1点で調査対象中でトップだった。
アジアでは保健教育が充実している台湾が34.4点と最も高かったのに対して、日本はミャンマーベトナムよりはるかに低い25.3点にとどまり、最下位に甘んじている。
ヘルスリテラシーが低い人ほど病気や治療の知識も少なく、がん検診や予防接種などを利用せず、病気の症状に気づきにくいので死亡率も高いことが分かっている。
この調査結果は見過ごせない。
ヘルスリテラシーについての日本人の遅れは、学校での保健教育のあり方にも一因があるのではないかと思われる。
例えば米国では、国の疾病予防管理センターが定めた保健教育の学習目標「全国保健教育基準」がある。
高校卒業までに、病気の予防や健康リスクの管理などを体系的に学ぶ。
しかし、今の日本では性教育などは断片的に行われているものの、身体や健康について系統的に理解する機会がほとんどない。
そもそも、これまでの日本では体育ばかりが行われ、保健の授業は軽視されてきた。
2年ほど前、東京都東村山市の公立中学校で10年間も保健の授業がほとんど行われてこなかったことが発覚し、大問題となった。
保健の時間は体育の実技に充てていたというから、「保健体育」ではなく「体育体育」だ。
中学校、高校の学習指導要領にも書き込まれた「がん教育」を突破口として、日本人のヘルスリテラシーを高めていく必要がある。

執筆 東京大学病院准教授 中川恵一先生

参考・引用一部改変
日経新聞・夕刊 2018.6.13