現代医療としての漢方

西洋医学の「苦手」も改善

「漢方」は、日常的に頼りにしている人もいれば、効果を疑問視する人もいる。
受け止め方は千差万別なのが現状だ。
病気の原因を特定し、取り除くという西洋医学とは考え方が異なることが背景にあるが、両者は対立するものではなく、補完する関係。
漢方薬は医療現場や薬の開発現場でも存在感を示している。
 
漢方のルーツは中国にあり、6、7世紀に朝鮮半島を経由して日本に伝わったとされる。
宗教や芸術などの文化と同様に、伝来してから独自の発展をとげていく。
江戸時代には、オランダから解剖学などに基づいた西洋医学がもたらされたのを受け、混同を避けるため、「漢方」と呼ぶようになった。
 
現在の漢方は日本の伝統医療として、中国の「中医学」、韓国の「韓方」とは区別して位置づけられている。
日本の大学の医学部では、西洋医学の各診療科を学ぶだけでなく、漢方が必修授業として組み込まれている。
 
西洋医学は耳鼻科、泌尿器科などのように、ターゲットを明確にして、薬や手術などピンポイントに作用する治療が特徴だ。
一方、漢方では、体内の神経系やホルモンなどの内分泌系のネットワークを介して、病気が全身のバランスを崩していると解釈する。

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診察方法は症状などを聞き取る問診に加え、舌の状態やおなかの弾力を確かめる。
これらを総合的に判断して、バランスを正常にするため、生薬を調合した漢方薬を処方する。
バランスの崩れは一人ひとり異なるため、訴える症状が同じであっても、異なる漢方薬が処方されることもある。
 
漢方薬の原料となる生薬は、天然由来の植物や動物、鉱物など多岐にわたる。
北里大東洋医学総合研究所によると、国内では二百数十種類が使われている。
 
生薬の種類と量の組み合わせによって、漢方薬の種類は無数に及ぶ。
そのうち調合済みの製品化された約150種類は保険適用されている。
一般的な医療機関で処方されるのは、この中に含まれているものがほとんどだ。
 
漢方薬の名称で、語尾は形状を表す。
「…湯」は煎じ薬、「…散」は粉薬、「…丸」は粉を固めたものだ。
煎じ薬は飲む人の手間がかかるため、今ではインスタントコーヒーのように乾燥、粉末化させたエキス剤が主流となっている。
 
漢方薬は医療現場に浸透しており、日本漢方生薬製剤協会の調査によると、医師の9割が漢方薬を処方した経験があるとされる。
特に原因が見当たらないのに体調が悪い「不定愁訴」という状態は、西洋医学的には対処が難しく、漢方薬で改善をはかる。
ただ、漢方独特の診察をせずに漫然と処方するケースもみられ、ある漢方専門医は「深い知識をもち漢方に通じた医師を育成しなければならない」と指摘する。

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一方、明確な治療効果を狙って使われる漢方薬もある。
胃腸などを治療する開腹手術後、腸が閉塞し腹痛などを伴う「術後イレウス」という合併症が起きることがある。
「大建中湯」という漢方薬にはこれを予防、治療できるとの報告があり、消化器外科では広く使われている。
 
また、インフルエンザ治療薬「タミフル」の原料成分のシキミ酸は、生薬やスパイスとして知られる「八角」に含まれている。
こうした生薬の有用成分を分析して治療薬の開発につなげる研究は広く行われている。
このように、西洋医学と漢方は互いに補い合いながら発展を続けている。

これから
世界保健機関(WHO)で5月に採択された最新の国際疾病分類に、漢方を含む東洋医学の項目が初めて加わった。
これまでは各医師の経験の共有といった段階にとどまりがちだったが、今後は症例や治療の表記の統一が進むことで、科学的な根拠や信頼性を高めた漢方治療が可能になると期待される。

参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2019.7.13