万能細胞丹念な研究結実

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1月1日の朝日新聞朝刊に朝日賞発表の記事があり受賞者の紹介がありました。
この朝日賞は、学術、芸術などの分野で傑出した業績をあげ、日本の文化や社会
の発展、向上に貢献した個人・団体に送られる賞とのこと。
1925年に朝日新聞創刊50周年(つまり1875年発刊。これ自体もすごいこと
ですが)を記念して創設された賞だそうです。

その中でやはり京大 山中教授の記事が印象的でっしたので再掲させていただきました。


万能細胞丹念な研究結実

幹細胞生物学者 山中 伸弥さん(45)
皮膚や肝臓、胃など、いったん組織の細胞に分化した体細胞は、もうそれ以上分化
しないと考えられてきた。
そんな発生生物学の常識を覆したのが、人工多能性幹細胞(iPS細胞)と名付けた
万能細胞だ。
マウスとヒトの体細胞に、もともと細胞内にある四つの遺伝子を細胞内で過剰に
発現させると、未分化な状態に戻り(初期化)、万能細胞ができることを実証した。
これまで万能細胞の代表格だった胚性幹細胞(ES細胞)と違って受精卵を壊さなく
てもすむ。

京都大の研究で、ES細胞と体細胞を融合させれば
ESに似た細胞ができることが分かった。体細胞にも可能性があると感じた。
「すでに研究が進んでいる分野より、体細胞の初期化実現で勝負しようと思った」

初期化の因子は何なのか。
まず、ES細胞の多能性を維持する因子と同じだろうと推測して、コンピューターで
ゲノム解析から始めた。
関連していると思われる遺伝子は、データベースだけでも、1万以上。
この遺伝子をパソコン上で並べ替えたり、複数組み合わせたりして、初期化や多能性を
誘導していると思われる遺伝子を集めた。
4年がかりで、やっと24に絞ったた。

最初に絞りこんだこの24の候補の遺伝子に、初期化にとって重要な因子が含まれていた。
「幸運だった」と山中さん。

これ以降は早かった。学生が以前に開発した特定の遺伝子の機能を失わせたノックアウト
マウスを使い、細胞に導入する遺伝子の数を一つずつ減らしながら機能を調べ、数カ月で
四つの因子を絞りこむことができた。
一つずつでなく四つ同時に発現させると、うまく機能することが分かった。

「こんなに簡単に作製できるとは」と感じたという。
当時、韓国のヒトクロ-ン胚の捏造が明らかになったころだった。
念には念を入れ、複数の検証実験をし、論文発表まで緘口令も敷いた。

昨年12月には、導入する遺伝子の数を三つに減らすことにも成功した。
研究チ-ムで対照実験中に見つかったが、最初は再現できなかった。
わずかに薬剤を使うタイミングが違うためだった。

延べ50人以上の積み重ねで、こうした成果を築き上げた。
大好きなスポーツにたとえ「この研究は駅伝のようなもの。今回の受賞は監督賞」と学生の
健闘をたたえる。

今回の成果は、受精卵を使うなどの倫理的な問題を
回避することができ、将来的な再生医療への応用に期待がかかる。
だが、「過剰な期待も、過剰な失望もしてほしくない」と山中さん。
将来、iPS細胞が再生医療で役立つために、「僕のような基礎医学の研究者から、臨床に
近い分野の研究者まで、幅広い連携が必要」と訴えた。

朝日新聞・朝刊 2008.1.1
版権 朝日新聞社

<コメント>
この記事を読むと学生を含めた研究チームのチームプレイであったことがわかります。
学生が関係した研究といえばバンティング博士のインスリン発見にまつわるエピソード
を思い出します。
インスリン発見を1ドルで売った
http://wellfrog.exblog.jp/7143672

山中研究室
http://www.frontier.kyoto-u.ac.jp/rc02/index-j.html
(このサイトをのぞくと、多くのスタッフにささえられた研究であることがわかります)


<参考記事1>
iPS細胞 京大に研究センター 文科相が支援表明
2007年12月18日15時01分
http://www.asahi.com/science/update/1218/TKY200712180192.html

京都大の山中伸弥教授らが人の体細胞から作った万能細胞(iPS細胞)の研究支援
について、渡海文部科学相は18日の会見で、京都大にセンターを設置して臨床研究
も含めた研究を促進する体制が必要との考えを示した。
20日の科学技術・学術審議会のライフサイエンス委員会で専門家の意見を聞き、
支援策をまとめる。
iPS細胞は、さまざまな組織の細胞に分化する能力を持つとされる。将来的に再生医療
などの臨床に生かすためには、各種の細胞への分化誘導法や安全性の確認など各分野の研究者
の協力が必要とされている。
渡海文科相は、新しいセンターについて「iPS細胞を滞りなく各分野の研究者に提供
していくイメージ」と述べた。iPS細胞の大学外の提供には知的所有権の問題があるが、
「いろんな課題を解決してスピーディーに研究が進む体制を作りたい」と話した。
iPS細胞の研究は、昨年夏にマウスでの成果で京大が先行した。だが、先月21日に発表
した人の細胞からの作製では、米国と同着となるなど海外の研究者が激しく追い上げており、
山中教授が渡海文科相に危機感を訴えていた。
渡海文科相は、今年度の予算で、これからも配分が可能な競争的な資金を利用して、支援を
急ぐ考えも示した。
山中教授は、これまで文科省以外にも、内閣府総合科学技術会議などで、共同研究の核
となるセンターの必要性を繰り返し訴えてきた
<コメント>
政府としては素晴らしい研究にはバックアップする。
当たり前といえば当たり前ですが、英断ともいえる決断です。
問題はスピードです。
早急に予算配分されることを願います。
そして税金を投入するわけですから、研究成果が日本の知的財産となるような方策も
考えていただきたいものです。

<参考記事2>
万能細胞作った山中教授、NYタイムズが大きく掲載
2007年12月13日09時17分
米紙ニューヨーク・タイムズは、山中伸弥京都大学再生医科学研究所教授の人物像を
紹介する記事を11日付で掲載した。万能細胞(iPS細胞)を人の体細胞から作った
「時の人」は、米国でも注目を集めている。
記事は、科学別刷りの1面から4面に続く長文で、「冒険する性格は、彼の遺伝子に
組み込まれている」という見出し。
成人の皮膚などの細胞を万能細胞に変えるため、遺伝子を導入するアイデアを考え
ついたものの、遺伝子の選び方には無限に近い可能性がある。記事によると、山中教授は
24の候補を「とても科学的とはいえない経験に基づく勘」で選んだが、結果的には必要
な四つの遺伝子がすべて含まれていたと伝えている。
また、記事で「遺伝子選びは宝くじを買うようなものでしたが、私はラッキーでした。
当たりくじを買ったわけですから」という山中教授のコメントを引用している
http://www.asahi.com/science/update/1213/TKY200712130040.html

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