見えぬ治療情報 現場で生かせず
新型コロナウイルスの感染者が増え続け、国内で死者も出ている。
中国の情報に比べ、日本の患者については病状の推移や治療法などの正確なデータが蓄積されているはずで、海外も注目する。
しかし中身はほとんど公にならず、それが不安のもとにもなっている。
感染症の情報は差別や人権侵害につながる恐れもあり、取り扱いに注意が必要だ。
だが、一部の関係者で情報を囲い込んでしまっては緊急時の診断や治療に生かせない。
政府は17日、国民向けに新型コロナウイルス感染症の受診目安を公表。
「風邪の症状や37.5度以上の体温が4日以上続く」などの場合、相談セ
ンターに連絡を勧める。
国際医療研究センターの症例をまとめたというが、検討過程はブラックボックスに近い。
厚生労働省が18日に開催した感染症部会では某大学の特任教授が「重症例を含め解析結果をぜひ示してほしい」と求めた。
「それに基づき目安も微調整の必要が出てくる」からだ。
情報開示が遅れる背景の一つに、米国のような緊急対応と情報収集・発信を統括する機関がない点があげられる。
国立感染症研究所がウイルス検査に追われつつ政府に対策を助言し、情報発信も担う無理な体制になっている。
国際医療研究センターは対策立案などの中核にはなく、首相直轄の専門家会議の委員も出していない。
医師がヤフーニュースに投稿しているが、記者会見は一度もない。
医学誌などへの論文を重視する傾向にある。
その論文もなかなか出ない。
米国の論文データベース「パブメド」には新型コロナウイルス関連がすでに200本近くあるが、日本からは数本のみだ。
国際医療研究センターの国際感染症センター長は「現場が患者対応で疲弊し、論文や報告の作成を頼める状況にない」と話す。
だとしたら政府が全国から支援要員を集め、てこ入れする必要がある。
「正しく怖がれ」「パニックに陥るな」と言うのは易しいが、それには科学的根拠があり、信頼できる情報がわかりやすく迅速に発信されなければならない。
今が、まさにそのタイミングだ。
参考・引用一部改変
日経新聞・朝刊 2020.2.23