ステロイド、新型コロナで光

ステロイド、コロナで光

「万能」抗炎症薬、高い治療効果 大量投与が普及に壁

病気と縁がなく医学に疎い人でも、ステロイドという薬の名を聞いたことがあるだろう。

発見から70年ほどたつ抗炎症薬が今、新型コロナウイルス感染症の救命につながると注目が集まる。

国内流行「第3波」で急変する患者を前に臨床現場の医師たちが期待を寄せるのは、何もバイオ技術を駆使した医薬品や最新の救命装置とは限らない。

 

ステロイドは副腎皮質ホルモンの一種。

米国などの研究者が関節リウマチの研究を進めるなかで発見、1950年にノーベル生理学・医学賞に輝いた。

長年、体のあらゆる炎症に効く万能薬として重宝されてきたが、その作用の仕組みが詳しくはわかっていない。

 

切れ味が鋭い半面、副作用もある。

その治療は「ボヤの状態でバケツいっぱいの水をかけて消火する」と例えられるほどだ。

医学領域に分子生物学遺伝子工学が幅をきかせるようになるなか、最近は使用を敬遠されるきらいもあった。

 

世界的にコロナのステロイド療法に注目が集まるようになったのは昨年7月、英オックスフォード大が著名な臨床医学誌に重症者の致死率が軽減するとの論文を発表したのがきっかけだった。

同9月には世界保健機関(WHO)が複数の研究を解析し、重症患者に対する治療法として指針に示した。

トランプ大統領の治療にも使われ、回復につながったとされる。

 

実は国内では昨年春の流行「第1波」の時から、一部の医療機関で呼吸器内科を中心に、ステロイド療法を試みる動きがあった。

しかも、WHO指針とは違い、「サイトカインストーム」と呼ぶ症状が急激に悪化する段階を捉え、集中的に大量投与する。

これまでにも肺炎が重症化したときによく適用されてきた、いわば定石の治療法である。

 

その先陣の一つとなったのが国立国際医療研究センターだ。

昨年2月のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」での感染爆発以降、おもに症状の重い患者を受け入れてきた。

12月末までのおよそ435人の入院患者のうち、治療が確立した4月以降は状況が改善、死亡者数は4人で、体外式膜型人工肺(ECMO=エクモ)装着のケースも1症例しかなかった。

 

虎の門病院聖路加国際病院なども積極的に採用しており、高い治療効果を確認しているという。

都道府県ごとに違う致命率の差を生む一因ともいわれている。

 

ただ、このステロイド集中療法が重症コロナ患者を対象に全国の医療機関で普及しているかというと、ことはそう単純にはいかない。

「医療の壁」が立ちはだかるからだ。

 

国内でコロナの治療は主に感染症医と救急医、そして呼吸器内科医があたる。感染症医はウイルスの制御に重きを置くため、一時的に免疫を抑えてしまうステロイドの大量投与には慎重だ。

救急医にとっては気管挿管や人工呼吸器が必要になってからが腕の見せどころとなる。

 

秋以降は、患者の容体にかかわらず低容量で対処するWHOの指針が医療現場に浸透する。

コロナは一気に症状が進む。

このとき大量投与しないとステロイドの効果をいかせない。

場数を踏んだ専門医の「暗黙知」に基づく治療法はなかなかエビデンス(科学的証拠)にするのも難しい。

 

医学系学会が加盟する日本医学会連合が策定したコロナへのステロイド治療に関するルールも基本的にはWHOに準拠したものだ。

このため、日本呼吸器学会は高容量の集中療法を救命の選択肢にすべく議論を始めている。

 

参考・引用一部改変

日経新聞・朝刊 2021.1.18

 

 

<関連サイト>

デキサメタゾン」とは?

https://www.38-8931.com/pharma-labo/column/dexamethasone.php

厚生労働省は2020年7月17日付けで、「新型コロナウイルス感染症診療の手引き(第2.2版)」を改訂し、デキサメタゾン新型コロナウイルス感染症に対する治療薬として記載しました。手引きでは、英国の非盲検ランダム化比較試験「RECOVERY」の結果で、デキサメタゾンが重症例の死亡を減少させたという結果が紹介されています。

 

「新型コロナウイルス感染症診療の手引き(第4版

https://www.mhlw.go.jp/content/000702064.pdf