新型コロナによる肺炎 ②
ウイルス性肺炎はそもそも診断が難しい
新型コロナウイルスによる肺炎は、当たり前だが、「ウイルス性肺炎」だ。
ところが、健康な人がなる肺炎は、多くの場合、細菌性肺炎だ。
細菌性のほうが、ウイルス性に比べると、診断や治療がしやすい。
細菌性とウイルス性では、肺の中で炎症が起きる場所が異なる。
細菌性肺炎の場合は、肺炎球菌や黄色ブドウ球菌などの細菌が、気道の末端にある「肺胞」という小さな袋の中で増殖し、炎症を起こす。
高熱が出て、咳とともに、膿ともいえる黄色や緑色の痰がたくさん出てくる。
このように、肺胞の中で炎症が起きる肺炎を、「肺胞性肺炎」という。
一方、ウイルス性肺炎は、今回の新型コロナウイルスのほか、インフルエンザウイルスや、RSウイルス、麻疹ウイルスなどによって、肺胞壁やその周辺の「間質」で炎症が起きるもので、悪化すると、肺胞の組織が線維化して硬くなっていく。
このように間質で炎症が起きる肺炎を「間質性肺炎」といい、ウイルス以外には、カビなどのアレルギーが原因でも起きる。
細菌が原因の肺胞性肺炎は、レントゲンなどの画像診断で、濃い影が写る。
これは、肺胞の中に炎症物質が充満しているからで、このような影を「湿潤影」という。
一方、ウイルスが原因の間質性肺炎は、薄いすりガラス状の影しか出ず、軽症の場合はCTでなければ分からないほど薄い影になることもある。
細菌性肺炎では、画像診断で濃い影が出るうえに、黄色や緑色の痰が出るので分かりやすく、また聴診器をあてると、特徴的な音が聞こえる。
一方、ウイルス性肺炎は、画像診断ではぼんやりとした影になり、そもそもケースとして数が少ない。
細菌性とウイルス性の両方を併発する混合型の場合もある。
高齢者は、インフルエンザになったときに肺炎を併発する率が高いが、その場合でも、ウイルス性ではなく細菌性であることが多い。
つまり、インフルエンザで免疫力が落ちたときに、肺炎球菌などが原因となって、肺炎が起きるわけだ。
一方、ウイルスが原因の肺炎は、数としてはずっと少ない。
細菌性肺炎が疑われる場合、抗菌薬(抗生物質)を投与すれば、症状が良くなることが多い。
複数の菌に対して効く抗菌薬もある。
一方で、ウイルス性肺炎の場合、その原因となっているウイルスを退治する抗ウイルス薬があればいいのだが、そもそもインフルエンザウイルスなど一部のウイルスしか治療薬がないのが現実だ。
ご存じのように、新型コロナウイルスもまだ治療薬が作られていない。
感染力が高く、治療薬がないことが不安のもとに
今までのことからウイルス性肺炎は、細菌性肺炎に比べて、診断や治療が難しいことが理解出来た。
それに加え、新型コロナウイルスが未知のウイルスであるがゆえの難しさもある。
その1つとして、新型コロナウイルスが当初、考えられていたよりも感染力が強いことが挙げられる。
1人の感染者から何人に感染するかを示す「基本再生産数」は、新型コロナウイルスの場合、WHO(世界保健機関)が暫定的に出した値は1.4~2.5だが、ほかの機関はそれよりも大きく見積もっているところが多い。
なお、基本再生産数は、季節性インフルエンザが1.3程度、SARS(重症急性呼吸器症候群)で2~4だ。
感染力が強いのは、無症状の感染者からもウイルスが排出されていることと関係しているかも知れない。
また、ウイルスの生存期間が比較的長いことを示唆する報告もある。
ドイツの研究チームが、新型コロナウイルスに近いSARSやMERS(中東呼吸器症候群)のコロナウイルスに関する研究文献22本をレビューしたところ、SARSやMERSのウイルスを付着させた物体の表面で、最長9日間、感染力が保たれていたという。
そして、新型コロナウイルスには、インフルエンザウイルスにあるような治療薬やワクチンはまだない(治療は基本的に対処療法のみ)。
また、連日報道されているように、検査体制が整っておらず、簡易検査キットもまだできていない。これが多くの人を不安にさせている大きな要因になっている。
だが、検査や治療薬については、明るい話題もある。ウイルスを特定するための「PCR検査」が、これまでは1日に限られた件数しかできず、医師が保健所に要請しても断られるケースがあったが、3月6日より保険適用されるようになり、この問題は解消される可能性が出てきたのだ。
また、治療薬については、新しい薬を開発するのには1年以上の時間がかかるものの、一方で既存の薬を適応外使用することが検討されている。
WHOでは、ロピナビルやリトナビルといった抗HIV薬や、抗ウイルス薬のレムデシビルの試験を始めており、3月半ばには結果が出るとしている。
日本でも、新型インフルエンザ薬「アビガン」(一般名ファビピラビル)などの試験を始めた。
これらが新型コロナウイルス感染症の治療薬として使えるようになるかもしれないのだ。
参考・引用一部改変
日経Gooday 2020.3.3