大腸憩室出血

中高年襲う突然の大量下血 「大腸憩室出血」に備える

便器が真っ赤になるほどの大量の下血が突然起きる大腸憩室出血。

痛みなど前兆がなく、中高年に多く発生する疾病だ。

大腸の粘膜が袋状に飛び出した憩室が、年齢を重ねるにつれて数が増えていき、出血につながる。

残念ながら根治法はなく、再発する可能性も高い。

ただ食生活の改善で発病のリスクを抑えられるほか、排便に注意を払うことで重症化を防げる。

 

Aさん(男性、63歳)は約7年前、自宅のトイレで大量下血し貧血で倒れて、救急車で病院に運ばれた。

搬送先で医師から大腸憩室出血と診断された。

内視鏡を使った止血で対処しようとしたが出血が止まらず、開腹手術で大腸を約20センチ切り、17日間入院した。

 

大量出血の約1週間前に血便が出たため「痔と思い肛門科で診察を受けた」(Aさん)。

医師からは腸の病気を指摘されたが放置していた。

Aさんは「健康には注意し、人間ドックを毎年欠かさず受診、異常もなかった。早めに消化器科に行けばよかった」と振り返る。

 

普段は症状なし

ある専門医は「バリウムを大腸に注入してX線撮影すると、憩室は55~65歳で40~50%の人に見つかる」という。

<コメント>

バリウムによる胃透視検査の数日後に、腹部単純写真を撮るときれいに憩室が映っています。

これは、腸のバリウムが排泄されているのに憩室にバリウムがたまって残っているためです。

これが一番簡単な発見法で部位と数まで特定出来ます。

当院では、この方法を患者さんにはお勧めしています。

 

便秘でガスが腸内にたまったり、下痢になったりすると、大腸で不規則で強い収縮が繰り返される。

その結果、腸内の圧力が高まると腸壁の弱い部分が袋状に外側に飛び出す。

これが憩室だ。

風船に空気を入れると膨らむイメージだ。

ほとんどの憩室の大きさは直径2~3ミリから1センチ程度。

1人にできる数は10~30個程度、さらに多い場合もある。

普段は無症状だが、憩室ができた粘膜は薄くなり、傷が生じやすくなる。

便の詰まりなどがきっかけで粘膜の下の血管まで傷が付くと、憩室出血が起きることが多い。

 

治療ではまず内視鏡で検査し、出血している場所を探し、血管を小さなクリップではさんで止血する方法が一般的。

実は場所がわかるのは患者の2割程度。

それ以外の約8割は場所が特定できないため、自然に止血するのを待つ

ことが多い。

<コメント>

憩室が出来ている部位が最初からわかっている場合には、特定は比較的容易です。

 

どうしても止血できない場合は開腹して腸を切除する必要があるが、ただ、発症は予測できない。

やっかいなことに止血しても再出血する割合も高い。

入院中は点滴で栄養補給しながら絶食し、腸に刺激や負担をかけないようにしながら、腸の機能回復を待つ。

 

加齢のほかに、ひざの痛みなどから処方される非ステロイド性消炎鎮痛薬、心筋梗塞脳梗塞などの治療に使う血液をサラサラにする抗血栓薬の一部なども憩室出血の引き金となる可能性があることが指摘されている。

腸の粘膜の傷や血管の状態と関連して出血が起こると考えられているが、いまのところ確実な予防法はない。

 

がん検査を活用

ただ備える方法はある。

40歳を超えると受ける機会が増える内視鏡による大腸がん検査の活用だ。

内視鏡検査の後に医師に「私は憩室はありますか」と聞くことで有無がわかる。

大事なことは憩室があるかどうかを自覚することだ。

 <コメント>

患者さんが聞かなくても、説明してあげるのが医師の本来の「務め」です。

 

その上で、日常生活で便秘にならないよう注意することが大切だ。

野菜や果物など食物繊維を多く食べ、水分もたくさん飲むよう心がける。

逆に下痢症の人は油モノや刺激の強い食品を食べ過ぎないようにする。

 

さらに早期発見も重要だ。

出血の初期は患部が発見しやすく止血しやすいためだ。

用を足した後に便に鮮血がついていないか確かめる習慣をつけるとよい。

もし血を確認できたら、痔などと自己判断せず、その後に食事をせずにできるだけ早く病院で専門の検査を受けよう。

 

単身赴任中などで、大量出血による貧血でトイレで気を失ったままで止血しないでいると命に関わる可能性がある。

中高年の血便を安易に見過ごすのは危険だ。

 

 ◇   ◇

 

大腸憩室症の患者急増

高齢化が進み、大腸憩室出血などの「大腸憩室症」の患者数は急増している。

厚生労働省の患者調査によると、2005年は7千人だったが、17年には1万6千人に増えた。

ただ、大腸がんとの関連性など不明な点も多い。

 

消化器の医師らが参加する日本消化管学会(東京・文京)は17年に、大腸憩室症について医師向けのガイドラインを初めて作成した。

それまで統一されていなかった診断基準や治療法までを示し、治療現場で発生する疑問をQ&A式で記載した。

「医師と患者とのコミュニケーションを通じて、ガイドラインを診断や治療方針に役立ててほしい」と、ガイドライン作成に当たった医師は語る。

ガイドラインは、消化管学会のウェブページから患者も閲覧できる。

 

大腸憩室症には憩室出血のほかに「憩室炎」が含まれる。

憩室の炎症で腹部に強い痛みや熱が出るのが特徴で、出血は主症状ではない。

点滴などで対処することが多い。

ただ、大腸憩室炎は腸に穴があいたり、膿が発生したりすると腹膜炎や腸閉塞が起きることがある。

重篤化すると患部の腸を切除し縫い合わせる大がかりな手術が必要になる。

 

参考・引用一部改変

日経新聞・朝刊 2019.9.16