AIが担う専門医の「目」

AIが担う専門医の「目」 深層学習で画像診断進歩 病気の「芽」見逃さず

経験豊富な医師でも見逃してしまうような小さな異常を人工知能(AI)が見つけ出す・・・。
そんなAIを使った「画像診断」の技術が近い将来に実現するかもしれない。
専門医の学会や半導体大手、ベンチャー企業などが相次ぎ開発に取り組んでいる。
専門医不足の解消につながる可能性があると期待されている。
 
「ベテラン医師と同等のAIができる可能性がある」
胃や大腸などを診る医師が集まる日本消化器内視鏡学会では、内視鏡で撮影した画像からAIが病気を見つける研究を2017年に始めた。

自ら精度高める
まず進めているのが、画像のデータベースを作ることだ。
国立がん研究センター中央病院など全国の32の病院から合計で約32万件の画像情報を集める。
病院では1回の診療で40~150枚程度の画像を撮影する。
それらに加え、医師の診断結果や患者本人や家族の病歴といった情報も集める。
このデータベースを使い、AIは「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる方法で自ら診断の精度を高めていく。

AIを使った画像の解析は、デジタルカメラで人の顔を検出する機能などにも採用されている。
医療分野でもAIを活用した画像診断に期待が集まっている。
例えば富士フイルムは撮影した画像と似ている過去の症例を提示するシステムを実用化している。
 
最近では自動運転や感情の理解にも使える高度なAIの開発が進んでいる。
それを可能にしたのが深層学習だ。
従来はデータをAIが分析する方法を人が定義していた。
人の脳の仕組みをまねたアルゴリズムが開発されたことで、AI自らがデータの特徴を見つけ出せるようになった。
 
消化器内視鏡学会の研究では、AIを育てる際に医師の生の声も盛り込み、専門医の「目」を正しく再現できるようにしている。
異常を疑われる患者とそうでない患者を振り分ける機能について、田中さんは「3年程度で実現できるのではないか」と話す。
 
東京大学ベンチャーのエルピクセル(東京・文京、)は脳の血管にできる「動脈瘤」と呼ばれるコブを発見するソフトウエアの開発を進めている。
このコブはくも膜下出血の原因となり、早期発見が発症を防ぐカギになる。
エルピクセルは約10の医療機関から磁気共鳴画像装置(MRI)による輪切り状の撮影画像と、医師の診断情報を集め、画像からAIに診断の特徴を深層学習させている。

ソフト上では血管を3次元で表示し、コブができている可能性が高い部分を赤く示す。
既に精度は90%以上で、年内にも医療機器の認証を得て臨床試験に入り、19年の発売をめざしている。
 
このほか複数の学会がAIによる画像診断支援の研究を始めている。
米画像処理半導体大手のエヌビディアも日本でAIでがんの可能性を見つける技術の実用化を検討するなど、産学でAIによる画像診断の支援が活発になっている。

早期発見に期待
調査会社の富士経済によると、国内の医療用AIの市場規模は20年に98億円と16年の37億円の2倍超に伸びる。
背景には画像診断を担う医師の不足が見込まれることがある。
医療費を抑えるため、国は病気の早期発見・治療を促している。
国民の意識も高まっており、例えば40歳~69歳男性の胃がん検診の受診率は16年に46.4%と6年で約10ポイント上昇した。
 
一方で専門的な技術を持った医師は限られる。
消化器内視鏡学会は約3万3000人が所属するが、検診が増えれば対応できないのは明らかだ。
放射線撮影画像を見る専門医も全国で約5300人、画像診断後に細胞を調べる専門医も約2300人しかいない。
 
AIによる診断支援や自動診断が実現すれば、医師1人あたりの負担が軽くなり診察もはやくなる。
人の目では発見が難しい疾病の兆候に気づいたり、どの病院でも高いレベルの診断が受けられたりといった効果も期待される。
 
ただ実現には難しさもある。
AIを人のように賢く育てるのは簡単ではない。
例えばAIに大量の家の画像を読み込ませて家の特徴を学ばせた結果、植え込みがある建物まで家と間違えて判断してしまうといった恐れがある。
 
画像診断装置が広く普及する日本には豊富な画像データがある。
うまく活用すれば、世界的にも高度な医療用のAIが開発できる可能性もある。

<画像診断>
体の内部の画像から、がんや動脈瘤など外から見るだけでは分からない病気がないか診断する方法。
エックス線診断装置やコンピューター断層撮影装置(CT)、磁気共鳴画像装置(MRI)などを対象の部位や目的によって使い分ける。
 
専門の医師が肉眼で画像を見て異常を発見する。
わずかな兆候を見分ける専門医の育成には時間がかかるため、人工知能(AI)の活用も期待されている。
医師不足に悩む病院から画像診断を受託する企業も増えている。

 
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参考・引用
日経新聞・朝刊 2017.7.7



<関連サイト>

がん検診の「見落とし」を数えるのは難しい

http://blogos.com/article/232230/
胃がん・大腸がん 検診で“4割見落とされた可能性” 青森県 | NHKニュース
がんによる死亡率が12年連続で全国最悪の青森県は、がんの早期発見につなげようと胃がん、大腸がん、子宮頸がん、肺がん、乳がんの5つのがんについて、平成23年度に自治体によるがん検診を受けた県内10の町と村の住民延べ2万5000人を対象にその後の経過を調べました。
検診を受けて異常なしと判定されたのに1年以内にがんと診断された人を見落としの可能性があると定義し、その割合を調べたところ、検診の段階でがんを見落とされた可能性がある人はバリウムによるX線検査を行った胃がんで40%、便に含まれる血を調べる「便潜血検査」を行った大腸がんで42.9%、子宮の入り口の細胞を調べた子宮頸がんで28.6%に上ることを示す分析結果がまとまりました。
(私的コメント; 偽陰性についても詳述されています)


= 内視鏡で見逃しやすい大腸がん、AIなら発見率98%(国立がんセンター) = 
大腸内視鏡検査で見逃しやすい早期がんやポリープを、人工知能(AI)を使って検査中に自動で見つけ、診断を補助するシステムを国立がん研究センターとNECが開発した。
 
より精度を高め、2年後に臨床研究を始めたい考え。
部位別で2番目に多い大腸がんによる死亡数を減らすことが期待されている。
 
同センター中央病院の研究グループは、早期がんや、がんになる可能性があるポリープが写った画像約5000枚を含む約14万枚の大腸内視鏡画像をAIに読み込ませ、先端技術の「ディープ・ラーニング(深層学習)」で病変の位置と大きさを推定できるようにした。
別の約5000枚の画像を使って検証したところ、98%の確率で早期がんとポリープを見つけることができた。
 
早期がんやポリープは、小さかったり、形状が平らだったりすると、慣れない医師は見逃しやすい。
同グループは「医師の技術格差による見逃しを防げるシステムで実用化して全国どこでも使えるようにしたい」と話している。

参考・引用
読売新聞 2017.7.11