ワクチン、「かかった人」は受けるべきか
ワクチン、「かかった人」は受けるべきか
新型コロナウイルスのワクチン接種が、医療従事者を皮切りにいよいよ国内でも始まる。気になるのは、いまだ大都市圏で緊急事態宣言が続くなか、自分が気付かずに感染していた場合に、接種していいのかどうかだ。
そもそも、コロナにすでにかかった人は接種する必要があるのか。
以下は、感染した人の追跡調査を行っている横浜市立大学医学部の山中竹春教授(医療データサイエンス)の解説です。
世界で行われているファイザー社やモデルナのワクチンの治験は、「感染したことのない人」を対象に行われているため、「1度感染した人は打たなくてもよいのか」ということについて、世界でもまだ定まった見解はない。
国内最大規模の追跡調査
現状は、専門家の間でも二つの立場が存在している。
「回復者はすでに免疫を獲得しており、ワクチン接種は必要ではない」という立場と、「再感染の例もあり、免疫が落ちる人もいるので、すべての人にワクチンが必要だ」という立場だ。
ほかの感染症に目を向けてみても、ウイルスの種類によってさまざまな対応が考えられる。たとえば、水ぼうそうでは、感染して回復した人には免疫がつくので、ワクチンを接種する必要はない。
一方インフルエンザでは、毎年接種する必要がある。
新型コロナの場合、そのどちらなのかまだ分かっていないのが実態だ。
私たちは昨年夏から、新型コロナに感染したことのある回復者を対象に、PCR検査で陽性判定された日から最大1年後までの期間、血液中の抗体価や中和抗体の有無を調べる観察研究を始めた。
これまで、600人を超える方から参加希望があり、国内最大規模の調査だ。
現段階では、新型コロナ感染から回復して6カ月後のほとんどの人の体内には、ウイルス感染を防ぐ効果のある抗体があることもわかっている。
現状では「すべての人が打つ」必要
これは、回復者の再感染率がきわめて低い事実を説明するデータだ。
そうした意味では、感染した人の再感染はほぼないと考えていいだろう。
ただ、中和抗体を持っていても、大量のウイルスに曝露すれば感染する可能性も高くなるし、かかってから長い期間が経過した場合、人によっては抗体がなくなる可能性もあるかもしれない。
そのため、現状では「感染していても、すべての人が打つ」ということが必要だと思われる。
一方、これだけ新型コロナが流行し、無症状で感染に気付いていない人もいると考えられる。
感染者がワクチンを接種したら、副反応が強く起こるのでは、と心配される方もいるだろう。
回復者は「1回接種で十分」のデータも
対象者のうち、5%~10%は「無症状、もしくはかなり軽症」の既感染者だったことが分かっている。
治験参加時に「すでに感染歴がある」と気づかずに参加していたが、この人たちの接種にも、強い副反応の問題は報告されていない。
また、アメリカで今年2月に発表された研究結果に、興味深いデータがある。
33人の「すでに感染したことがある人」と26人の「感染したことがない人」を対象にワクチンを接種した場合、すでに感染している人は、「1回の接種で中和抗体が十分なレベルに達した」というものだ。
これは、ウイルス感染から回復した人は、「1回のワクチン接種でも十分かもしれない」ことを示唆している。
回復者の方の接種が1回でも十分だということになれば、ワクチン不足の解消に貢献しうるデータだ。
今後の研究結果の蓄積が待たれるところではあるが、さまざまなデータを見ながら、回復者の接種についての方針作りを進めていく必要がある。
参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2021.2.28