新型コロナワクチン接種後の中和活性

新型コロナワクチン接種後の中和活性は意外と早く低下する?

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t344/202106/570792.html

国内の医療者を対象とした新型コロナワクチン接種が進み、大学病院などから接種後の抗体価の変化などの報告が相次いでいる国内の医療者に接種されたワクチンは米Pfizer社/ドイツBioNTech社のmRNAワクチンであるBNT162b2。

接種後の中和活性の変動や抗体価が上がりやすい因子の検討結果などが発表された。

 

*ワクチン接種後の血清の中和活性を検討

国立国際医療研究センターは6月15日、メディア向けの勉強会で、新型コロナウイルスワクチンであるBNT162b2の接種を受けた医療者における中和抗体の産生と抗体価の減衰について紹介した。同センター研究所研究所長の満屋裕明氏が発表したもので、熊本総合病院(熊本県八代市)病院長の島田信也氏との共同研究の結果だ。

 

 

・先行研究の結果として2021年3月に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染し、回復した43人の血漿を対象とした解析(発症から100日後まで)の結果を報告している。

 

・この報告では、国立国際医療研究センターに入院した43人のうち、

(1)16人(37.2%)は中和活性が認められず、

(2)16人は入院後20~30日までに中和活性の上昇が認められ、入院から92日後まで中和活性の50%が維持されていた。

(3)11人(25.6%)は中和活性は上昇したものの、全員平均24日で中和活性が60%以上減少し、11人中6人は検出限界以下まで低下していた。

 

・(1)の中和活性が上昇しなかったケースの8割は軽症/中等症例であったが、(2)の中和活性が上昇し、高く維持されていたケースの8割弱は重症/重篤例だった。

(3)の中和活性が上昇するものの24日程度で減少してしまったケースは軽症/中等症と重症/重篤例が半数ずつだった。

 

・今回、BNT162b2の接種を受けた医療者223人(男性68人、女性155人)を対象とした研究結果の解析の結果、接種で得られる中和抗体価は女性の方が有意に高いことが分かった。

 

・さらにBNT162b2の1回目接種から7日後の中和活性と比べて2回目接種から7日後の中和活性はおよそ8倍(中和活性の平均値として)上昇していたが、2回目接種から30日後では多くのケースで中和活性は低下しており、2回目接種から7日後に比べて中和活性がおよそ40%減少していた(平均値として)。

 

・満屋氏は、「追跡結果を待ちたいが、1年後の中和活性は感染防御に必要なレベルにない可能性もあり得る」と語る。

また、BNT162b2によって誘導された中和活性は、従来株(いわゆる武漢株)に対する中和活性を1としたとき、アルファ株(英国株)、デルタ株(インド株)に対する中和活性はおよそ半分ほど誘導されるが、ベータ株(南ア株)に対する中和活性は低いケースも少なくないことも示された。

 

*抗体価が上がりやすい/上がりにくい背景因子は?

千葉大学病院でも医療者を対象としたワクチン接種に関連し、効果に関する検討結果を6月3日に発表している。

 

・同院でBNT162b2を接種した職員1774人(2回目の接種後に採血・唾液採取できた人数で、1回目の接種前に採血・唾液採取したのは2015人)の抗体価を検討したところ、1773人で抗体価の上昇が確認された。

1774人のうち、医師は494人、看護師が559人、薬剤師57人、歯科医11人、その他653人だった。

 

・詳細な検討の結果、ワクチン接種前の段階で抗体が陽性だったのは21人(1.1%)、2回目の接種後に抗体が陽性だったのは1773人(99.9%)だった。

接種前の抗体価の中央値が0.4 U.mLに対し、接種後の抗体価の中央値は2060 U/mLと大幅に上昇した。

なお、この報告では、SARS-CoV-2のS蛋白質に結合する抗体を測定しているが、中和活性を検討したデータではない。

 

・また、抗体価が上がりやすい因子を解析したところ、

(1)COVID-19感染歴あり、

(2)女性、

(3)1回目と2回目の接種間隔が長い(18日~25日)、

(4)抗アレルギー薬の内服あり(花粉症薬など)

、が見いだされた。

 

・一方、抗体価が上がりにくい因子は、

(a)免疫抑制薬の内服あり、

(b)高齢、

(c)副腎皮質ステロイド薬の内服あり、

(d)飲酒の頻度が高い

、などが見いだされた。

 

*2回接種後に無症状感染例はCOVID-19診断例の4割

国立感染症研究所は、ワクチン接種円滑化システム(V-SYS)と新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)に登録されたデータを活用し、医療従事者を対象とする先行接種が始まった2021年2月17日から高齢者の接種が開始される前の4月11日までの期間にワクチンを少なくとも1回接種した医療従事者をピックアップし、接種からCOVID-19と診断された日数を検討した。

 

・この期間に約110万人の医療者に1回目の接種が行われ、4月30日時点で2回目の接種が終了していたのは104万人だった。

この期間に報告された医療者のCOVID-19症例は281例。

このうちワクチン接種後28日以内に診断されたのは256例だった。

 

・2回目の接種後に診断された症例は47例(47例のうち、1回目接種後27日以内は23例、1回目接種後28日以降は24例)で、全体の16.7%だった。

47例のうち、COVID-19と報告された時点で無症状だったのは計19例(40.7%)だった。

 

・1回目接種日からどれくらいの期間でCOVID-19と報告されたかについて検討したところ、0~13日が181人、14~20日が41人、21~27日が34人、28日以降が25人だった。

1回目接種日から0~13日時点での報告をレファレンスとして各グループの報告比率を算出すると、14~20日は0.42、21~27日は0.39、28日以降は0.14となった。

 

・本報告書では、1回目の接種日から12日を前後にCOVID-19の報告率が低下していく傾向があると指摘している。

また、イスラエルからの報告では、1回目接種後から2回目接種までの期間におけるワクチン接種による感染報告数の減少率は46~60%とされており、日本におけるBNT162bの効果はイスラエルで確認された効果と同等である可能性があるとしている。

 

・これらの結果から現時点では、COVID-19に感染し、回復したからといって必ずしも中和抗体ができるとは限らないこと、中和抗体ができても1カ月程度で中和活性がなくなってしまう人が少なくないこと、ワクチン接種から2週間以上経過すると防御能は高まっていくが、免疫賦活の程度は背景因子によって違いがあること、中和活性が低下していく人も少なくないことなどが言えそうだ。