君の世界と私の世界

日経新聞のリレーエッセイで興味深い話が掲載されていました。
テーマは「遺伝多型」です。
要するに人によって感じ方が異なることがあるということが科学的に証明されている
ということです。
「蓼食う虫も好き好き」
仕事柄、長い間いろんなご夫婦をみているとどうしてこの二人が、と疑問に思うこと
があります。
この記事を読んですっかり納得してしまいました。

君の世界と私の世界

アンドロステノンという化合物がある。
なんとも不快な臭(にお)いで、私は生理的に受け付けない。
それもそのはず、この物質は男性の尿や汗に含まれている臭気成分なのだ。
ところが、先月『ネイチャー』を読んでいたら、意外な記事が目に飛び込んでき
た。
アンドロステノンの臭いは普遍的ではないというのだ。
人によっては無臭だったり、あるいは「蜂蜜やバニラのように甘い香」に感じら
れたりするという。
同じ物質がなぜこれほどまでに人によって異なった印象を与えるのだろうか。

デューク大学の松波宏明氏らの研究によれば、OR74Dというコードネーム
のついた遺伝子が原因だという。
OR74Dというコードネームのついた遺伝子が原因だという。
OR74Dは鼻腔内の嗅覚アンテナの一つである。
この遺伝子に「遺伝多型」にあるというのだ。

遺伝多型とは、人によって異なる遺伝子の集団があるというもので、ABO血液型
などはその典型例である。
アンドロステノンの場合、ある特定のOR74Dを持った人は不快に感じ、別の
タイプの遺伝子を持った人はよい香に感じるというわけだ。
 
こうした遺伝多型は、嗅覚だけはでなく、味を感じる味蕾(みらい)や光を感じる
網膜でも確認されている。
つまり自分にとって美味しい味や美しい色が、他人も同じように感じている保証は
ないわけだ。

哲学では「私の見ている赤色は、君にとても同じ赤か」という議論が古くからある。
同じ「赤」という単語でたまたま呼び合っているだけで、他人はまったく異なる
色彩に感じているかもしれない。
そんなことを疑いだしたらきりがないが、しかし、神経科学の実験データは「その
疑念は正しい」と説いているように私には思えるのだ。

脳研究者 池谷裕二
出典 日経新聞・夕刊 2007.10.3
版権 日経新聞


<遺伝子多型に興味のある方への参考サイト>
遺伝子多型
http://www.medgen.med.tohoku.ac.jp/asthma-atopy/polymorphism.htm
SNPのページ
http://members.at.infoseek.co.jp/bunseiri/
遺伝子多型と生活習慣病
http://proteome.tmig.or.jp/pjtdb/Kenkyu/Takei/index.html

<遺伝子研究とメダカの関係を知りたい方のための参考サイト>
光るメダカで生物の発生現象を解析する
生命科学の分野で世界に泳ぎ出すメダカ
http://www.sci.hokudai.ac.jp/science/science/H14_05/seibutu/medaka.htm

<アンドロステノンの参考サイト>
アンドロステノン
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AD%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%8E%E3%83%B3
成人男性の 60%、成人女性の 40% はアンドロステノンのにおいを感じることができ
ないが、初めてかいだ時に感じなかった場合でも繰り返し被曝することによって感
じるようになることもあるとされる。
哺乳類のフェロモンとして最初に同定された化合物である。オスブタの唾液に多く
含まれ、興奮状態のメスブタがこれをかぐと交尾姿勢をとる。オスブタの臭気に
おける活性成分であり、メスブタが人工授精を行うのに適した状態になっているか
どうかを計る薬剤として畜産家向けに市販されている。
ヒトに対してもフェロモンとして作用する可能性が提唱され、特に性的誘引物質と
して働くのではないかと想像されているが、そのような主張を裏付けるような科学的
データは乏しい。
<コメント>
私は腋臭(わきが)が臭うほうです。
思わず嗅いでみました。
アンドロステノンってこの臭いとは違うんですか?
とにかく一度嗅いで見ないことには・・・。
「臭い」と「匂い」・・・。


女性を不快にする男性の体臭の原因物質
http://www.wakiga.x0.com/nioi/nio004.html

Highlights: 生理:アンドロステノンを嗅ぐ
http://www.natureasia.com/japan/nature/updates/index.php?i=60386
(今回のエッセイの元文献)



読んでいただいて有難うございます。
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