食中毒「正しく予防を」

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外来には発熱、下痢、腹痛の患者さんが時々みえます。
周囲で胃腸かぜが流行していない時には、食中毒ではないかとまずは疑って
みます。
というのも、自分で「食中毒のようです」といって来院される方はほとんど
みえないからです。
こちらから食べたものを聞き出していきます。

多くの方は、食中毒で熱が出る場合のあることをご存知ありません。
また、当日食べたもののお話をされます。
食中毒の場合には黄色ブドウ球菌のように潜伏期間が数時間というのはむしろ
少ないため、数日前に食べたものまで思い出す必要があります。
当院では、食中毒が疑われた場合にはまずは白血球数を調べます。
それで大体、食中毒かどうかを見当をつけます。
しかしそれはあくまで細菌性食中毒の場合であって、ノロウイルスのようにウイ
ルス性の場合には白血球数は増えません。
そのあたりの注意は必要ですが、カキなどであたった場合には新しいカキ(ウイ
ルス性)か古いカキ(細菌性)かを、おおよそ区別することができるのです。


高温多湿の夏は特にご用心

食中毒は今や年中注意が必要だが、高温多湿の夏は特に要警戒。
近年はカンピロバクター菌や0157などの腸管出血性大腸菌が幅をきかせる。
ごく少量でも口に入ると発症し、2次汚染のリスクも高い厄介な存在だ。
正しく知って予防に徹したい。
                              

冷蔵・新鮮でも安心できず

カンピロバクター菌
「校外学習のバーベキューで中学生106人」(大阪)「飲食店の宴会料理で
20~30代の男女8人」(埼玉)「高校の調理実習で56人」(東京)・・・。
5月以降、各地でカンピロバクターによる食中毒が相次ぐ。
生焼けの肉や鶏肉サラダ、レバ刺し、炊き込みご飯の具材の鶏肉などが疑われて
いる。
 
厚生労働省によると、昨年は全国で1289件の食中毒があり約3万3500人
が苦しんだ。
件数ではカンピロバクターがその3割を占め、最も多い。
しかも年々増加傾向だ。
 
カンピロバクターは鶏、牛、豚などの腸管にすみ着いている。
鶏肉による発症が多いが、牛レバーが原因のケースも。
食中毒の増加が「生肉を食べる習慣が広がってきたこともあるのでは」と指摘
される理由だ。
 
厚労省研究班の調査では市販の冷蔵鶏肉の7割から検出されており、冷蔵庫に
入っていれば安心とはいかない。
「肉の鮮度がよければ大丈夫」という考えもこの菌には通用しない。
 
鶏を大量処理する現在の加工ラインでは、腸の中身による汚染や、毛穴の中に
入った菌が肉に移るリスクは避けられない。
 
鶏刺しや鶏のたたきなど、生食の習慣がある南九州は警戒を強める。
昨年、カンピロバクター食中毒が5件起きた宮崎県は緊急講習会を実施。
独自に衛生目標を作り、加工処理施設には腸が切れた鶏をラインから除くこと
の徹底、飲食店には大勢が食べる宴会メニューから外すよう啓発する。
県衛生管理課の担当者は「新鮮なものを加熱して食べてほしいが、長年の食文化
を否定するのも難しい。農場から食卓まで、少しでもリスクを減らすしかない」

生ものへの警戒感、薄れる

0157
0157で9人が死んだのは96年。
0157を含む腸管出血性大腸菌は感染力が強く、食中毒というより感染症
考えた方が適切なことが多い。
国立感染症研究所(東京都新宿区)の感染症報告制度でば、2007年は全国
から4606例の報告があり、今の報告制度になった1999年以降で過去
最多を記録した。

細菌第一部の寺嶋淳・第一室長は「出血性大腸炎から重症になると、溶血性
尿毒症症候群や脳炎になり命にかかわることもある」という。
潜伏期間は3~7日。
微量の菌でも感染する。
食品や感染者の便などを介して広がり人から人へと2次感染しやすい。
2007年には保育所や幼稚園での集団発生が11件あった。
 
過去に牛レバーが原因の事例があり、国は1998年に牛と馬について
「生食用食肉」として安全を確保するための衛生基準を定めた。
ただ、基準を満たす食肉処理施設は2006年でも全国に10カ所、生食用
レバーでは6カ所にとどまる。
 
東京都食品監視課の富樫哲也課長補佐は「レバ刺しを出す店を調査で回ると、
『提供をやめれば、鮮度のいい肉を扱う店という客の信用まで失う』と抵抗
される」。
低温流通の発達もあってか「生ものは注意して食べるという感覚が薄れてきた」。

加熱・手洗い・乾燥、地道に

家庭では
家庭での防衛には、まず加熱だ。
「抵抗力の弱い子どもや高齢者は生肉を食べないように」と寺嶋さん。
中心温度75度で1分以上加熱する。
焼き肉などで、生肉を扱ったトングで直接口に入れる食材を触っては
台無し。
別のはしで取り分ける。
 
カンピロバクターも0157も少量で食中毒を引き起こすため、周囲に広げない、
2次汚染対策も重要だ=イラスト。
生野菜の下ごしらえを終えてから肉を扱うなど、調理の段取りでもリスクは
下げられる。
 
花王の調査では、家の中で大腸菌群の多い場所は排水口のゴミ入れ、食器用
スポンジ、シンクの順だった。
「目に見える汚れと、菌による汚染は別物」とホームケア事業グループの飯島
誠司さん 。
「きれいに見えるまな板も、こまめに手入れを」
 
菌を取り除くのに塩素系漂白剤の場合は2分間。
一方、「除菌表示のある食器用洗剤で効果を得るなら20分間洗剤に漬け
ておく。
特徴を知った上で、使い分けたい。
 
日本食品衛生協会の薄井香織さんは「なにより 手を菌の運び屋にしないよう、
洗い残しやすい親指までしっかり手を洗うこと。台所で菌を増やさないように
乾燥させる。
地道な積み重ねしかない」という。

出典 朝日新聞・朝刊 2008.7.3
版権 朝日新聞社

<コメント>
文中に「厚生労働省によると、昨年は全国で1289件の食中毒があり・・・」
とあります。
当院だけでも年間20~30件(人数にするともっと多い)はあるのですから、
信じられない少なさです。
まことしやかな数字にはだまされないようにする必要があります。

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横山申生 「時計塔のある風景(ルーマニア
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こんな新聞記事も参考になります。

夏場に多い食中毒。中でも最近目立つのは、少ない菌数でも発症するカンピロ
バクター腸管出血性大腸菌(O157など)による食中毒で、肉の生食や加熱
不足が主な原因となっている。カンピロバクターやO157は食品などが汚染
されていれば、鮮度に関係なく食中毒を起こす可能性がある。最近は牛や鶏の
生肉に抵抗のない人が増えたが、子供や高齢者など抵抗力が弱い人では重症化する
危険もあるので注意が必要だ。

食中毒とは、食中毒の原因となる細菌やウイルスが付着したり、有毒・有害な
物質が含まれた食品を食べることによって、腹痛や下痢、嘔吐などの健康被害
起こること。
原因の半数以上は細菌によるもので、腸炎ビブリオサルモネラ、カンピロ
バクター、O157などが代表的なものだ。

かつて夏の食中毒といえば、魚介類などが原因の腸炎ビブリオが多かったが、
冷凍技術の発達や平成13年の食品衛生法改正で生食用魚介類に対する規格・
保存基準が制定されたことなどによって、以前に比べて発生は少なくなっている。

一方、近年増えているのが、鶏肉や牛レバーの刺し身、ユッケなどの肉の生食、
あるいはバーベキューでの肉の加熱不足などが原因で生じる、カンピロバクター
やO157による食中毒だ。カンピロバクターは鶏や牛などの腸管、O157は
牛の腸管などにいる細菌。厚生労働省によると、昨年1年間に報告のあった
食中毒のうち、カンピロバクターは416件、腸管出血性大腸菌は25件で、
細菌による食中毒の6割を占めていた。

東京都健康安全研究センター食品微生物研究科の甲斐明美科長は「O157に
よる食中毒が社会問題となったときにレバ刺しやユッケなど生肉を食べるのを
控えた人も、今はそれほど気にしないで食べているのでは。肉の生食による
食中毒のリスクは、当時も今も変わらないのですが・・・」と指摘する。

    × × ×

腸炎ビブリオは100万個以上の生きた菌を摂取しないと発症しないが、カンピロ
バクターやO157は100個程度の少量の菌でも発症する。鮮度がよければ
食中毒にならないと考えている人は多いが、少量でも発症するこれらの菌は肉の
鮮度と関係なく、汚染された食品や調理器具などから菌が体内に入れば食中毒を
起こす可能性がある。健康な鶏や牛も保有しており、事前に汚染を見極めるのは
難しい。

カンピロバクターは鶏肉が関与しているケースが多い。15年に都内で発生した
カンピロバクターによる食中毒の4分の3が鶏肉によるとみられ、そのほとんどが
刺し身など生肉を食べたケースだった。鶏を生で食べる習慣はかつては一部地域の
ものだったが、グルメブームの影響で今は全国に広まっており、飲食店のメニュー
でみかけることも多い。

甲斐科長は「刺し身だけでなく、さっと湯にくぐらせたものや、中まで火が通って
いない空揚げも食中毒になる心配がある。
とくに子供や高齢者など抵抗力の弱い人は重症化する可能性があるので、生食は
避け、食べるときは十分に加熱すること」と注意を呼びかける。

     × × ×

日本では集団発生の報告がまだ1件しかないリステリア菌による食中毒は、米国
では毎年2500人が重症となっている。
海外で報告が多い食中毒は、数年遅れで日本で流行するといわれる。とくに妊婦
が発症すると流産や早産の可能性もあり、妊娠中は感染源とされるナチュラ
チーズやスモークサーモンは避けた方がいいだろう。

食中毒の予防は、細菌を「つけない」「増やさない」「やっつける」の3原則
が基本。甲斐科長は「食中毒の多くは、調理や食事のときにちょっとした注意を
することで防ぐことができる。
肉を調理したら手や調理器具はしっかり洗う、食品は中心部までしっかり加熱する、
焼き肉のときの肉の取りばしは専用のものを使うなど、基本的な予防法を守って
ほしい」と話している。

出典 産経新聞 2008.7.1
版権 産経新聞

<参考サイト>
カンピロバクター食中毒予防について(Q&A)
http://www.mhlw.go.jp/qa/syokuhin/campylo/index.html
(「厚生労働省:食中毒・食品監視関連情報」のサイトです。くわしく書かれています。)

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