感染性腸炎(1)

激しい下痢 O111抗体検出

富山県内の女性(16)は、2011年4月、経験したことのない激しい腹痛と下痢に襲われた。

「最初は原因もわからず、どこかで悪いものを食べたんだろうと、軽く考えていました」と話す父(46)。
だが症状は翌日になっても続き、学校を休んで、自宅でトイレに何度も駆け込んだ。大便に血が混じり、やがて出てくるのは、ほとんど血ばかりになった。

近くの診療所を受診したところ、「血便が気になるので、大きな病院で調べてほしい」と言われ、病院の救急外来に駆け込んだ。

詳しい検査を受けた結果、医師から「細菌かウイルスに感染して大腸から出血している」と告げられ、急きょ入院することになった。

入院手続きを終えて帰宅した父親は、娘が3日前に食事をした焼き肉店で食中毒が発生したとのニュースを知った。
その後、娘の血液からも腸管出血性大腸菌「O111」の抗体が検出された。

腸管出血性大腸菌は、牛や鶏など家畜の腸内などに生息。
加工する過程で菌が付着した肉を、十分に加熱せずに食べた場合などに感染する。
菌が出す毒素(ベロ毒素)が、大腸内の粘膜を傷つけ、激しい腹痛や血便などの症状が表れる。

父親によると、娘は焼き肉店で牛の生肉のユッケを食べていた。
入院後も栄養や水分補給の点滴や、痛み止めの治療を受けたが、激しい腹痛と血便はなかなか治まらなかった。

腸管出血性大腸菌の治療について、旧厚生省研究班は1997年、適切な抗生物質を早期に投与された患者は重症化しにくいとする「手引」をまとめている。
東京都保健医療公社・荏原病院(東京・大田区感染症内科部長の角田隆文さんは「発症から3日以内なら抗生物質の飲み薬を服用することで菌の量を減らせ、回復も早い」と話す。

ただし「手引」では、抗生物質が菌を破壊した際に毒素があふれ、かえって増加したとの研究結果にも言及している。
抗生物質を使用するかどうかは、患者の状況などを踏まえた、主治医の判断に委ねられているという。

父親は自分でもインターネットで調べ、腸管出血性大腸菌の感染が重症化すると、命に関わる恐れがあることを知った。

「何とか、持ち直してほしい」。祈るような思いだった。



2011年4月、焼き肉チェーンでユッケを食べた客が、腸管出血性大腸菌(O111)による集団食中毒を発症。
富山県のまとめ(11年12月現在)で、富山、福井、石川、神奈川の4県で計181人の患者を出し、富山で4人、福井で1人の計5人が死亡した。

出典 YOMIURI ONLINE yomi.Dr. 2012.1.9
版権 読売新聞社


<私的コメント>
発熱、下痢、腹痛、嘔吐で医療機関を受診しても100%きちんと食中毒の診断を下されるとは限りません。
当院では必ず白血球を調べてウイルス性か細菌性かの鑑別をしています。
白血球が増加していれば細菌性の食中毒、たとえばカンピロバクターや病原性大腸菌、場合によっては黄色ブドウ球菌が想定され検便をします。
潜伏期間が微妙に異なり、食べたものと合わせれば大体起炎菌が想定出来ます。
「胃腸かぜ」として見逃されているケースが多くあるというのが現実なのです。


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