感染性腸炎(2)

毒素で脳症や呼吸困難も

焼き肉店でユッケを食べ、腸管出血性大腸菌(O(オー)111)に感染して2011年4月、緊急入院した富山県の女性(16)は、血尿が出て、腎臓の機能の低下もみられるようになった。
赤血球が減り、血小板の数も健康な人の基準値を大きく下回った。父親(46)は担当医から、「HUS(溶血性尿毒症症候群)」と説明を受けた。

腸管出血性大腸菌が吐き出すベロ毒素が、血液中の赤血球を破壊し、血管を傷つけて血小板の減少や腎機能の低下を招き、尿毒症を引き起こすのがHUSだ。
菌はO157が代表的で、O26など多くの種類がある。

HUSには、輸血や人工透析などによって貧血や腎不全の悪化を防ぎつつ、回復を待つ治療を行う。
だが毒素が脳や肺を攻撃すると、脳症や呼吸困難などを起こし、重い後遺症や命にかかわることもある。

女性は入院して3日後、病院の勧めで医療スタッフや設備が整った大きな病院に転院した。
血便と激しい腹痛は続いていた。

父親が医師から受けた説明によると、5月になると、呼吸の状態を示す血液中の酸素濃度が低下し、肺には血がたまっていた。
血小板が減って自然出血しやすくなり、肺の細かい血管が破れたためとみられた。

呼吸困難が続き、集中治療室(ICU)に移った。
人工呼吸器を付け、輸血が続けられた。
たくさんのチューブにつながれた娘の姿に、父親は涙が出そうになり、「もう覚悟しなければならないのかな」と思った。

急変に備えてそばの待機室で寝泊まりすることになったが、1日たつと、赤血球や血小板の低下が落ち着き、血中の酸素濃度も安定しはじめた。
翌日にはICUから一般病棟に戻り、その後は順調に回復。しだいに普通の食事もとれるようになった。

女性は5月下旬、1か月近くの入院生活を終え退院した。
その後は通院で、赤血球や血小板の数も徐々に回復し、10月には通院も不要となった。

今回の焼き肉チェーンの食中毒の被害者の中には、意識障害やけいれんを起こして亡くなった人、退院後も腎不全で人工透析を続けたり、運動機能の障害が残ったりと、後遺症に苦しむ人もいる。

父親は「牛の肉は生でも食べられると思っていたし、飲食店が出すものは安全だと信じていた。
娘のあの姿を見てからは、もう食べません」と語る。

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出典 読売新聞 2012.1.10
版権 読売新聞社

<私的コメント>
昨日も少しお話しましたが、食中毒が驚くほど多く医療機関でも見落とされています。
それ以前に、患者さんがすべて医療機関にかかっているとも思えません。
下痢や腹痛で医療機関を訪れる方は、ぞれだけ症状が強いと考えて診療側も慎重に診断をしてあげる必要があります。
他の医療機関で「胃腸かぜ」と診断され、その後当院を受診され食中毒と判明する症例が時々あります。
最近のケースでは、「病原大腸菌」と「カンピロバクター」が同じ患者さんで同時に検出されました。
数日前に焼肉店で火の通った焼き肉を食べた方です。


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