感染性腸炎(4)

生の鶏肉にも病原体

生の食肉は、腸管出血性大腸菌のほか、カンピロバクターの感染にも注意が必要だ。

カンピロバクターは鶏や牛などの腸内に生息している細菌だ。
解体処理の過程で汚染された生の鶏肉や牛レバーなどから感染する。
食中毒の原因病原体として、近年ではノロウイルスに次ぎ多い。

東京都内で2006年11月、専門学校生7人が、鶏の刺し身や鶏わさ、鶏のから揚げなどを飲食店で食べた後、3日の間に下痢や腹痛、発熱を訴えた。
保健所が、学生たちの便を調べたところ、全員からカンピロバクターが検出された。
店が通常出している鶏の刺し身などからも見つかった。

厚生労働省の食中毒菌汚染実態調査(10年度)によると、鶏のミンチ肉のカンピロバクターの汚染率は36%に上り、鶏たたきなど加工された半生の鶏肉は17%、生食用として販売されている牛レバーでも10%あった。

東京都食品安全情報評価委員会は09年に、20歳以上の1000人を対象に、生肉がどれぐらいの人に食べられているかの実態調査を行った。
その結果、3か月以内に食肉を生で食べた人は40%おり、よく食べているのは、牛肉のユッケ、鶏のたたきなどが多かった。

一方、食肉を生で食べることで食中毒が起こる可能性について、「知っていた」「食肉の種類によっては知っていた」と答えたのは75%で、「食肉の鮮度にかかわらず発生することがある」ことを、「初めて聞いた」と答えた人も44%いた。

カンピロバクターに感染しても通常は1週間程度で治る。
ただし、まれに感染後1~3週間で手足のまひや呼吸困難などが起きる「ギラン・バレー症候群」を発症する例も報告されており、死亡例もある。

特に抵抗力の弱い子どもが生肉を食べて、カンピロバクターに感染すると、重症化する恐れがある。

湯引きした鶏肉も、時間が短いと中まで熱が十分通っておらず、菌が検出されることがある。
鶏のつみれなど鍋物などに用いられるミンチ肉も菌に汚染されている恐れがあり、中までよく熱を通すことが大切だ。
菌を死滅させるには、中心部を75度以上で1分間以上加熱する必要がある。

専門学校生が06年に食中毒を起こした飲食店は、仕入れた鶏を店内で当日中にさばいており、「新鮮であれば細菌は少ない。鮮度には自信があり、自分の店は大丈夫」と誤解していた。

鮮度の問題ではない。
鶏の生肉には病原体が存在するのが当たり前と考え、食べないことが重要である。

出典 YOMIURI ONLINE yomi.Dr. 2012.1.12
版権 読売新聞社


<私的コメント>   2011.1.17 PM4追加
午前の診療で3人の急性の胃腸症状を訴える方が来院されました。
()内は白血球数です。
22歳女性(12200)、46歳男性(18000)、46歳女性(7400)。
22歳女性は3日前にコンビニでチキンナゲットを買って自宅で食べています。
一方、46歳男性は本日AM2時にコンビニでカレーを購入し電子レンジで加熱して貰って店前の駐車場で食べています。
白血球が多いことから細菌性腸炎、つまり食中毒が想定されます。
潜伏期が明らかに違うので、食べた食事の内容からは以下の菌が原因ではないでしょうか。
前者はカンピロバクターか病原大腸菌サルモネラ菌、後者では黄色ブドウ球菌セレウス菌,ウエルシュ菌など。
白血球が正常の46歳女性では当然のことながら細菌性腸炎は否定的です。
この症例ではノロウイルを含めたウイルス腸炎(すなわち「胃腸かぜ」)が原因として考えられます。
このように「胃腸かぜ」と紛らわしい「食中毒」は季節を問わず存在するのです。


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