点滴より経口補水療法

下痢や嘔吐の時、水分や電解質は、排泄物としてそのままがカラダの外に逃げて
いってしまいます。
また、発熱しているとき、水分は汗や皮膚からの蒸発(専門用語で不感蒸泄といいます)
によってどんどん失われていきます。
夏の熱中症も同様です。
これらの症状がひどいと、体の水分が足りなくなり脱水症状を起こしてしまいます。
病気のときに一番注意しなければいけないのが脱水にならないようにすることです。
ただ、風邪や食中毒による下痢や嘔吐がある場合には、経口摂取しても水分の吸収は
普通の状態と違って、低下しています。
口から胃腸に入った水分は、実はまだ体の外なのです(専門用語でサードスペースと
いいます)。
胃腸から吸収されて初めて体内に入ったことになります。
したがって場合によっては点滴が必要となります。
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子どもは、突然吐いたり下痢したりする急性胃腸炎で、脱水症状を起こしやすい。
これまでは医師の診察を受けると点滴されることが多かったが、最近では重症で
なければ経口補水療法で、という考えが広まりつつある。

子どもの嘔吐・下痢 → 中軽度の脱水に有効

「痛い思いせず家に帰せる」
鹿児島市に住む3歳の女児は5月のある日、早朝4時ごろから嘔吐を繰り返した。
顔色が悪く、体温も38.1度あった。
朝8時半の診療開始を待ちわびるように、母親に連
れられて同市のみなみクリニックを受診した。

南武嗣院長は急性胃腸炎で軽い脱水になっていると診断。
「必要なら点滴をします。まずはこれを試しましょう」。
経口補水液(ORS)を5分ごとに15ミリリットルずつ飲むように指示した。

院内の処置室で親が飲ませながら南院長が様子を見ていたら、計150ミリリットルの
ORSを飲み、顔色も良くなってきた。
1時間弱で帰宅することが出来た。

みなみクリニックでは2006年7月から本格的にORSを使い始めた。
南院長が海外の小児科医に診療の状況を聞いて「日本では点滴しすぎかな」と思ったの
がきっかけだ。

3歳から15歳の点滴患者は、経口補水導入前の1年
(2005年7月~2006年6月)が276人だったのに比べ、導入後(2006年
7月~2007年6月)は121人で、 約6割減った。

南院長は「小さな子どもへの点滴は痛いし針も刺しにくく、本人も親も医師も大変。
経口補水なら痛い思いをせずに帰ることが出来る」。  

子どもはロタウイルスなどによる急性胃腸炎の治療ガイドラインが最近、欧米で相次いで
発表されており、中程度までの脱水には経口補水が勧められている。
日本外来小児科学会で状況を調べた加地はるみ医師(加地医院、東京都八王子市)は
「日本でも経口補水療法を選ぶ医師が増えてきている」という。

経口補水は、点滴と違って器具や技術が不要。 
70年代に発展途上国で有効性と安全性が確認され、先進国に「逆輸入」された治療法だ。
日本では親の「点滴信仰」もあって普及が遅れたらしい。

点滴は一度に大量の水分が体に入るので心臓や腎臓に負担がかかり、まれに重い症状の
病気になる。
一方、経口補水なら腸が吸収を調節するのでその心配が少ないという。

ゆっくり少量ずつ、根気強く

世界保健機構(WHO)がガイドライン(2002)でO RSの成分を定めている。
水やお茶、果汁など、塩分が少ないものは不適。
普通のスポ-ツ飲料より塩分が多く、甘みは少ないのが特徴だ。
 
大塚製薬工場のOS - 1は2005年に「脱水状態に適している」として、病者用食品と
表示する許可を得た初めてのORS。
ポカリスエットと比べるとナトリウムイオン濃度は約2.4倍で、糖分濃度は約4割。
調剤薬局などで買える。

アクアライトORS(和光堂、2005年発売)、アクアソリ夕(味の素、2006年発売)
は赤ちゃん用品店などで買える一般の飲料だが、スポーツ飲料よりWHOガイドライン
成分が近い。
 
関西医大の金子一成教授(小児科)らは、動物実験で小腸から吸収される水分量を調べた。
OS - 1やアクアイトORSは、WHOガイドラインに沿って作ったORS(WHO・
ORS)を上回った。
一方、ナトリウム濃度がWHOガイドラインの約3割しかないスポーツ飲料では、吸収
された水分量はWHO・ORSの約5分の1だった。

「初めてのお子さんが最初に嘔吐や下痢を起こしたときはうまくいかないかもしれませんが、
次の機会からは、かかりつけ医と相談して家庭で経口補水を始めることができます」と
金子教授。
脱水症の程度の見分けには、親指のつめを押して離し、赤色に戻るまでの時間でみる方法
もある。

市販のORSを準備しておき、最初の嘔吐や下痢が始まったらすぐに飲ませ始める。
補乳瓶やコップなど子供が好きな道具を使うといい。慌てずゆっくりがコツだ。
 
嘔吐があるときは、1口5ミリリットルずつ5分ごとに
根気強く。
もし5ミリでも吐くようなら、15分から30分後に5ミリリットルを再び飲ませてみる。
2回目もだめなら30分後にもう1回挑戦してみよう。

だが6回やってだめだったり、別表のような症状がある
ときなどは、医師に診てもらう必要がある。
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出典 朝日新聞・朝刊 2008.6.8
版権 朝日新聞社

<関連サイト>
経口補水塩
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%8C%E5%8F%A3%E8%A3%9C%E6%B0%B4%E5%A1%A9
熱中症などの緊急時における簡便なORSの作り方として、水1リットルに対して砂糖小さじ4、
塩小さじ半分で作ることが出来る。
スティックシュガー2本、塩1つまみぐらいの量である。
このような物をLGSといい発展途上国ではコップ一杯の沸騰したお湯にひとつまみの塩と
一握りの砂糖を入れるということで普及している地域もある。

こうした簡便なLGSに重炭酸を加えることで、水の吸収効率はさらに高まるため、その
前駆物質としてクエン酸を加えると良い。
これは市販のスポーツドリンクの内容物に似ているが、ORSの方がナトリウム量が多い
組成となっている。
実際、乳幼児の脱水時にスポーツドリンクを与えると低ナトリウム血症から水中毒を
引き起こすことが知られている。
現在日本では、厚生労働省認可の個別評価型病者用食品としてORS用の飲料が発売されており、
調剤薬局や病院の売店等で販売されている。

医療メモ 電解質 ORS   家庭で作る  経口補液剤・市販スポーツ飲料の成分
http://blogs.yahoo.co.jp/suipelksa/51271023.html

経口補水塩(ORS)
http://hobab.fc2web.com/sub4-ORS.htm


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