胃がん治療 合わせ技

日本人の死亡原因のトップを占めるがんは、今や3人に1人が死亡する時代です。
がんの治療と研究は国家的プロジェクトとして、昨春「がん対策基本法」が施行され、
全国で横断的かつ高度ながん医療を目指す取り組みが始動しました。
その中で、進行した大腸がんは、副作用の少ない経口抗がん剤を一定期間投与して、
がん細胞を小さくしてから手術が行われるようになりました。
転移を起こしたり、再発した場合も、この抗がん剤を服用するのが標準となり、外来
での化学療法が出来るようになってきています。
さらには、最近では、韓国との共同研究もスタートして、日本の化学療法が世界の
スタンダードになる可能性も出てきました。
日本の消化器外科は世界のトップレベルにあり、化学療法も世界をリードする可能性
があります。

きょうは胃がん「術後」の化学療法をとりあげてみました。

3年後の生存率8割に

胃がんの標準的な治療法が変わりそうだ。
比較的進んだ胃がんで、手術後に抗がん剤治療をすると3年後の生存率が8割になり、
手術単独の場合の7割より向上する、という臨床試験結果を日本のグループが先ごろ、
米医学雑誌に発表した。
いま、この進行度に対し、胃がんの診療ガイドラインが「標準」と位置づけるのは手術単独。
しかし、この臨床試験の結果を受けてガイドラインが来年中にも変更される可能性が高い
という。

手術後に抗がん剤

名古屋市守山区の男性(71)は、TS-1(ティーエスワン)という抗がん剤を飲んで
いる。
この夏、胃がんの手術を名古屋大病院で受け、胃と周辺リンパ節を摘出した。

別の病院で心臓病の治療後の検査を受けた際に、「おなかがすいた時に胃が痛くなる」と
話した。
すぐに内視鏡検査。
胃がんです」と告げられた。
 
名大病院で詳しく調べると、大きく4段階に分けられるがんの進み具合(病期=ステージ)は
「�期」=
ふつう、この段階だと、手術だけで治療するのが標準的とされ、日本胃癌学会のガイドライン
にもそう記載されている。
 
しかし、男性は、手術後には抗がん剤治療を受けようと決心していた。
入院時に小寺泰弘講師(消化器外科)から借りた本に、最新の臨床研究が紹介されていた
からだ。
 
この研究の対象は、この男性のような進行度から、もう少し進んだ病期の胃がん
いまの標準的な治療法である「手術単独」の場合の3年生存率は70.1%だったのに対し、
術後にTS-1を飲んだ場合は80.1%だった。
 
この、10ポイントの差をどうみるか。
小寺さんは解説する。
「10人のうち7人はもともと抗がん剤を使わなくても治る抗がん剤で残りの3人のうち
1人が治るようになる。ただ、その1人がだれだかは分かりません」
 
飲み薬とは言っても、やはり抗がん剤なので重い副作用の恐れがある。
 
この男性の場合、いまは手が軽くしびれる程度ですんでいるが、飲み始めたころには吐き気
がして吐き気止めの薬も使った。
 
小寺さんは「全員飲むべきだ、とは言いません。
胃を摘出した人に消化器の症状が出るのはとてもつらい。
患者さんは、副作用のことも含めてきちんと説明を受けて理解し、その上で判断してほしい」
と話す。
イメージ 1

副作用の恐れ、投与慎重に

この臨床試験の中心的な役割を担った兵庫医大の笹子三津留教授(外科)は、「年齢のこと
もありますが、基本的に対象となる進行度のすべての愚者さんに説明する」ようになった。
「どうしても抗がん剤は嫌、という人もいますから無理強いはしません。それに�期だと、
使わなくても治る可能性が高いですし」
 
かつては胃がんの手術後、抗がん剤が当たり前のように使われていた時期もあった。

手術時に「すべて取った」と目で確かめても、再発することがある。
ごく小さながんが潜んでいて表に出てくるのだ。内臓をおおう腹膜にがんがばらまかれたよう
な腹膜播種ができたり、リンパ節や肝臓に見つかったりすることが多い。
 
そんな再発の心配から「使っておいた方がいいのでは」といった気持ちで抗がん剤が使われる
ことが少なくなかったためだ。それに「手術だけで後は何もしないのはかわいそうだ、という
意識が医師にあったのでしょう」と笹子さん。
 
ところが従来、こうした使い方に効果があるという科学的な証拠はなかった。
何度も研究が繰り返されたが、生存率に統計学的に意味のある差は見いだせなかった。
つまり、使っても使わなくても差はなく、副作用のことを考えると使わない方がいいこと
になる。
 
それが今回、「きっちりした臨床試験でデータが出せた」と笹子さん。
「患者さんも重要性を理解して参加してくれた」
 
とくに、腹膜播種やリンパ節再発が減り、それが生存率の向上につながった。
 
「裏付けができたので説明に自信がもてるし、説明を理解してくれると、患者さんも
きちんと薬を飲んでくれる。そのことも治療成績の向上に欠かせない」
 
胃がん治療に大きな意義ある臨床試験」と、埼玉医大の佐々木康綱教授(腫瘍内科)は
評価する。
 
「ただ、飲み薬だからといって医師ならだれでも処方できるかというとそうではない。
軽々には扱えず、知識と経験が欠かせない。注射の抗がん剤と同様、全身状態のいい患者
さんに限定して使うべきです」
 
この抗がん剤は、がんへの効果を強めるために血中濃度を高めるように作られている。
一方で下痢をはじめ消化器系の副作用を弱める薬も配合されている。
 
だが、時として白血球や血小板が減少する骨髄抑制といった副作用が強くなる恐れもある。
吐き気がひどくて飲めない人もいるという。
「腎臓の弱った患者さんには極めて重い副作用の出る恐れがあり、注意が要ります」と
佐々木さん。
 
処方前に患者の体調をチェックするのはもちろん、使用中は患者の様子、血液などを詳しく
検査し、「変化」を見逃さず、すぐに対応できる態勢が必要だ。
イメージ 2


出典 朝日新聞・朝刊 2007.12.23
版権 朝日新聞社

<コメント>
ご存知の方も多いと思いますが、ニューイングランド医学雑誌は、内容は勿論統計処理も
しっかりしていないと掲載されない一流紙です。
医者の間では、「この雑誌に載った内容なら」というぐらいに評価されています。

<参考ブログ>
胃がん手術後に対する抗がん剤治療について
http://blogs.yahoo.co.jp/try_2_live_4_u/2926874.html
(2005.5の記事で、ちょっと古いかも知れませんが参考になると思います)
<参考サイト>
TS-1
http://ts-1.taiho.co.jp/
ティーエスワンカプセル(TS-1)
http://ganjoho.ncc.go.jp/public/qa_links/qa/kouganzai/m016.html


<番外編>
日本人の寿命、過去最高=女性85.99歳、男性79.19歳-厚労省調査 
2007年の日本人の平均寿命は男性が79.19歳、女性が85.99歳で、ともに2年
連続で前年を上回り、過去最高となったことが、厚生労働省が31日公表した「簡易生命表
で分かった。
 
前年からの寿命の延びは男性が0.19歳、女性が0.18歳で、男女差は6.80歳に
縮まった。厚労省は「治療成績向上で、がんなど三大死因の死亡率が改善したことが大きな
要因。インフルエンザの大きな流行もなかった」としている。
 
同省が集めた各国・地域の最新データと比較すると、女性は23年連続で世界一を維持。
男性は06年の2位から3位に下がった
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2008073100623&j1
時事通信社 2008/07/31-16:0)

<自遊時間 その1>
ある日の新聞に「しぶきも黙る 恋多き女王」という見出しで、中国の「飛び込み女王」、
郭晶晶(クオチンチン)が紹介されていました。
名前が気になってしまいました。
北京オリンピックの中継で、アナウンサーが名前をどのように呼ぶのか今から楽しみです。

郭晶晶:期待の飛込選手
http://photo.searchina.ne.jp/special/view.cgi?d=photo_guojingjing&p=top
美女選手・郭晶晶、日本でセクシーショット掲載?
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2008&d=0229&f=national_0229_013.shtml
郭晶晶:中国NO.1のアスリート
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2007&d=0119&f=column_0119_003.shtml
「国宝級」美人アスリート・郭晶晶が妊娠、五輪選手チームから離脱へ!―中国
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080513-00000036-rcdc-ent
(あれっ、五輪には出ないんですか?)
http://jp.youtube.com/watch?v=ovXQCYwOWo0
http://jp.youtube.com/watch?v=z7eOrYLtfyc
公私とも注目集める女王の郭晶晶=「金」で現役締めくくるか-中国〔五輪・企画〕
ttp://www.jiji.com/jc/zc?k=200807/2008071800721
(あれっ、やっぱり出るんですか?)

<自遊時間 その2>
週刊誌を読んでいたら、こんな記事を見つけました。
「香典は○○財団へご寄付ください。 ○○財団」


読んでいただいて有難うございます。
コメントお待ちしています。
医療専門のブログは別にあります。
井蛙内科開業医/診療録(2)
(内科専門医向けのブログです)
http://wellfrog2.exblog.jp/
井蛙内科開業医/診療録 
http://wellfrog.exblog.jp/
(~H20.5.21)
葦の髄から循環器の世界をのぞく
http://blog.m3.com/reed/
(循環器専門医向けのブログです)