最新の関節リウマチ治療

関節リウマチ治療、「痛み抑える」から「進行止める」へ

関節リウマチの治療法が大きく変わろうとしている。
これまで痛みをとり進行を遅らせる対症療法が中心だったが、発症後すぐの段階から強めの薬を数カ月使って進行を止め、症状をほとんどなくすことが期待できるようになった。
ただ副作用リスクを伴い、種類が増えて治療の選択肢が広がった分、患者らが戸惑うケースも増えている。


#患者数は約70万人
関節リウマチは自己免疫疾患で、外敵から体を守るはずの免疫がなんらかの理由で異常に働き、関節中の滑膜が炎症を起こす。
関節に腫れや痛みが出てくる。
進行すると軟骨や骨を破壊し、関節の変形を起こすことも多い。
患者数は全国でおよそ70万人。女性に多く、男女比は1対4だ。
家事や育児、仕事をこなす30~50歳代の働き盛りで主に発症する。

ひと昔前まで、関節リウマチは治らない病気といわれ、痛みをとることが治療目標だった。
だが、慶応義塾大学医学部リウマチ内科の竹内勤教授は「最近は、薬を適切に使えば、多くの人で症状を抑えたまま安定した状態(寛解)まで持っていくことができるようになった」と指摘する。

治療に使うのが抗リウマチ薬「メトトレキサート」と遺伝子組み換え技術などで作られた生物学的製剤だ。
メトトレキサートはがん治療にも使うため、使用をためらう人もいるが、関節炎を抑える効果はとても高く、欧米では標準的治療薬となっている。
日本ではまだ一度に使える用量が少なく効果が出にくい場合がある。
日本リウマチ学会などは用量を引き上げるよう厚生労働省に要望を出しており、今年度中にも実現する見通し。


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生物学的製剤は7月にオレンシアが承認され、国内で5種類使えるようになった。
メトトレキサートだけでは効果が出にくい場合に併用するか、単独で使う。
特に血液検査で関節リウマチと関連の深い抗体が見つかった人は、生物学的製剤を使わないと骨の破壊が進みやすいとのデータもある。

こうした治療薬は発症初期の段階から投与するようになってきた。
発症してまもなく骨の破壊まで進んでしまうことが多いことがわかってきたからだ。
この時期に痛み止め中心の薬を使っていると症状が治まっているようにみえても、実は炎症が続き2年以内に骨の破壊まで進んでしまうという。
骨が壊れ、変形が始まると薬で元に戻すのは難しい。

竹内教授は「メトトレキサートと生物学的製剤などを組み合わせて治療を進め、骨の破壊を食い止める。治療開始からできるだけ早く寛解か、それに近い状態を目指すべきだ」と話す。


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#「平均寿命が短く」
関節リウマチは、直接命を脅かす病気ではない。
だが関節に変形などが起き、動きにくくなると体力が落ち、感染症にかかりやすくなる。
名古屋大学医学部整形外科の石黒直樹教授は「関節に障害があると平均寿命が短くなりやすい」と説明する。
平均14年間、600人強の患者を追跡した海外の研究では、一般の人に比べて生存率が低くなる傾向があったという。

ただ、強めの薬を積極的に使う治療には専門医の判断が欠かせない。
初期段階だと膠原病や変形性関節症といった似た症状のある病気と識別が難しいケースも多い。

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薬の副作用も考慮しなければならない。

「新しい薬を勧められて使ってみたけれど、今までと違って胸がむかむかして苦しい。どうしたらいいか」。
関節リウマチの患者会、日本リウマチ友の会(東京・千代田)には連日のように全国の患者から相談の電話がかかってくる。
同会の長谷川三枝子会長は「薬の使い方や効果に疑問を持つなど治療法に関する質問が増えている。治療法が大きく変わり、ついていけない患者も多いようだ」と指摘する。

メトトレキサートは切れ味がするどい分、間質性肺炎や肝障害などが0.5~1%の割合で起こる。
定期的に血液検査を受け、副作用の有無をチェックする。
生物学的製剤は使うと感染症にかかりやすくなる。
結核を患った人は再発する可能性がある。
高齢者は肺炎なども起こしやすい。
肺炎球菌ワクチンを事前に接種するなど主治医とよく相談して対策をとりながら使うとよい。
                                       (西村絵)
出典 日経新聞・夕刊 2010.10.1
版権 日経新聞





<自遊時間>
いよいよノーベル賞の受賞者の発表がきょうから続きます。
職業柄、きょう発表の「医学生理学賞」に興味がります。
今年は特に、コレステロール治療薬のスタチンの発見者の遠藤章先生とiPS細胞研究の山中伸弥先生に受賞の期待が高まっています。

山中伸弥
http://ja.wikipedia.org/wiki/山中伸弥
■○○病院整形外科で臨床研修医として勤務。
その時、重症になったリウマチの女性患者を担当し、患者の全身の関節が変形した姿を見てショックを受け、重症患者を救う手立てを研究するために研究者を志すようになる。
■日本の医学界に戻るが、その研究環境の酷さに絶望し、ノイローゼ・うつ病状態になる。
カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF) グラッドストーン研究所(Gladstone Institute)へ留学後、日本の医学界に戻るが、その研究環境の酷さに絶望し、ノイローゼ・うつ病状態になる。
■基礎研究を諦め、研究医より給料の良い臨床医へ戻ろうと半ば決意した中、公募で見つけた奈良先端科学技術大学院大学へ応募したところ採用に至り、アメリカ時代と似た研究環境の中で再び基礎研究を再開する。


科学者になる方法 第10回 京都大学 再生医科学研究所 教授 山中 伸弥 氏
http://scienceportal.jp/HotTopics/kagakusha/backnumber/10.html
■もともと整形外科の臨床医だった私が研究者に転身するきっかけの一つは、ある重症リウマチの女性患者さんを担当したことでした。
全身の関節が変形し、ベッドの傍らに置かれた写真にあるかつての面影をほとんど残していないその姿に、ショックを受けたのです。
■そして、基礎研究を行えば、こういう患者さんも救える治療につながるかもしれないと考えるようになりました。
現状の治療法には限界があるということも、痛いほどよくわかりました。
新たな治療法を求めて研究していくことは、患者さんを実際に診療するのと同じくらい、もしくはそれ以上に患者さんを助けることになるかもしれないと考えました。
■最初は薬理学の研究から始めましたが、やがて、薬の効果を観察するだけでは限界があると悟ります。
1990年代の初頭には、遺伝子操作マウスが普及しはじめていました。
そこで、大学院修了後は、雑誌の求人広告に応募してアメリカへ渡り、遺伝子操作マウスを扱う研究室に入りました。
■留学も終わりに近づいた頃に未知の遺伝子を見つけます。
そして、その遺伝子が、ES細胞(胚性幹細胞)の分化を左右する遺伝子であることが、ノックアウトマウスを使った実験によって偶然、確かめられました。
その遺伝子を破壊することで、ES細胞が増殖はつづけるけれど分化能力を失うことがわかったのです。
■それがきっかけで、私はES細胞の研究に興味を持つようになりました。
アメリカでヒトES細胞が培養され、医療に有効であるとわかった98年には、独自にES細胞にかかわるテーマを探し、本格的に研究をつづけていこうと決めました。
■研究者にとって一番大切なのは、強い好奇心と、いろいろな現象を不思議と考え、疑問点を自分の手で解決しようという意欲だと思います。







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