若者に忍び寄る味覚障害

中高年に多かった味覚障害が、若い世代にも広がっている。
偏った食生活、唾液が少なくなるドライマウス、精神的なストレスなど原因は様々だ。
食事が生活の楽しみの一つという人は多く、味が分からなくなるのはつらい。
異常を感じたら、症状がひどくなる前に専門医に相談しよう。

味がしない…

横浜市に住む大学院生、Oさん(25、男性)は2年ほど前から味覚に異常を感じ始めた。
「コーヒーに入れる砂糖の量が増えた」のが最初の自覚症状。
甘みを感じにくくなり、その後、塩味も徐々にわからなくなった。
「薄味の和食はほとんど味がしない」といい、次第に食欲もなくなってしまったという。

味覚障害はかつては中高年の女性に多かったが、このところは若い患者も増えてきている。
「患者総数も増えており、もはや国民病」と警鐘する医師さえいる。

2003年の日本口腔・咽頭科学会の調査によれば、毎年24万人の味覚障害患者が発生しているという。

若者の味覚障害は主に、偏った食生活が原因と考えられる。
舌の上にあり味を感じる働きを持つ「味細胞」を保つには、微量金属の亜鉛が必須。
不足すると、味細胞の機能が落ちて味を感じにくくなる。

また、ファストフードやインスタント食品には、亜鉛に結合して吸収を妨げる食品添加物のポリリン酸ナトリウムやフィチン酸などが含まれるものも多い。

Oさんも、一番の原因と疑われたのは亜鉛不足だった。
一人暮らしでファストフードなどを食べる機会が多かったという。
さらに、精神科で処方されていた抗うつ剤の副作用でも味覚障害が起きていた。

抗うつ剤のほかにも、高血圧薬や抗生物質などの中には副作用で味覚障害を起こすものがある。

Oさんは医師の診察で亜鉛サプリメントを処方された。
食生活を改め、抗うつ剤味覚障害が起きにくいものに変更。
初めの数日は抗うつ剤の変更による抑うつ症状に苦しんだものの、今では改善に向かっている。

味覚障害の原因は亜鉛不足と薬の副作用が代表的だが、ほかにもある。
唾液が少なくなり口の中が乾く「ドライマウス」や、舌の上にたまり口臭のもとにもなる「舌苔(ぜったい)」は、味を感じにくくする要因になる。
精神的なストレスで発症する場合や、歯科治療で歯にかぶせた金属が原因になる場合もある。

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早期発見が大事
実際には複数の要因が積み重なって味覚障害を発症することが多い。
そのためには、まず原因を明らかにしていくことが大事だ。

医師は診察にあたって、食生活などの生活習慣や、服用している薬の種類、ストレスの状況などを詳しく聞いていく必要がある。

検査キットを使った味覚検査や、血中の亜鉛濃度の測定、口の中がきれいかどうかのチェックも実施する。
問診と検査の結果を総合し、食生活へのアドバイス亜鉛製剤の処方、服用中の薬の変更など、治療方針を患者に応じて決める。

重度の味覚障害になると、「何を食べても消しゴムをかんでいるよう」と訴えるほど、味が全く分からなくなる場合もある。
進行した味覚障害は、元の状態までは戻らない場合が多い。

異常を感じたら、一度専門医の診察を受けるようにする。
近くに味覚の専門医がいなければ、口腔外科や耳鼻咽喉科、歯科で相談すれば紹介してもらえる。

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味覚障害を予防するには、普段の生活での心がけが大切だ。
基本的なことだが、好き嫌いなく何でも食べることが一番の予防法。

口の中を清潔に保つことも大切だ。
口の中や歯がきれいな人は、味覚障害にもなりにくい。
ただ、舌苔の処理は注意がいる。
味覚障害の原因になるとはいえ、間違った方法だとかえって味細胞を傷めてしまう。
専用の舌ブラシなどを使い、時々掃除する程度にとどめよう。
                                (柏原康宏)
出典 日経新聞・夕刊 2010.11.19
版権 日経新聞


<番外編>
放射線被曝により2次癌(がん)リスクが増大
放射線に被曝することにより、癌(がん)を経験した患者が新たに別の癌、いわゆる2次癌の発症リスクが増大することが、新しい研究で明らかにされた。
 
これまで放射線被曝が癌の原因となることはわかっていたが、複数の癌を発症するリスクが増大するかどうかは解明されていなかった。
米国と日本の研究グループは、広島および長崎で被爆した人で、1次(原発性)癌を発症した1万人強のデータを分析。
その結果、「放射線被曝により、1次癌と2次癌のリスクがほぼ同程度増大することがわかった」と、研究著者である米フレッド・ハッチンソンFred Hutchinson癌研究センター(シアトル)のChristopher Li博士は述べている。

放射線に被曝して癌を発症した人は、2次癌を発症するリスクも高く、そのリスクは男女とも固形癌、白血病のいずれも同程度であった」とLi氏は述べている。
特に、白血病および肺癌、大腸癌、乳癌、甲状腺癌、膀胱癌など、放射線に対する感受性の高い癌では、放射線被曝と2次癌との関連が強く認められた。今回の研究は医学誌「Cancer Research(癌研究)」9月15日号に掲載された。

「この知見から、放射線被曝して癌を経験した患者は、2次癌がないかを慎重に監視し続ける必要があることが示される」とLi氏は述べている。
同氏はまた、日本の放射線影響研究所(広島)の研究チームの協力に対して「膨大な文献を通して原爆の悲劇を科学の進歩へと変換し、全世界の放射線防御に関する基準と方針に役立てている」として、感謝の意を表している。

http://health.nikkei.co.jp/hsn/hl.cfm?i=20100924hk000hk
出典 Health Day News 2010.9.15
版権 Health Day

<私的コメント>
昨夜のニュース番組でマイコプラズマ肺炎が流行している、という報道がありました。
ある開業医の先生が解説していたのですが、診察室の背景に胸部CT写真がかけてありました。
きっとCTの撮影が出来る医療機関ということなのでしょう。
マイコプラズマ肺炎の診断は胸部単純レントゲン写真で簡単に判ります。
極端に言ってしまえば、レントゲンを撮らなくても臨床経過や採血(マイコプラズマ抗体の迅速検査)で診断がつきます。
私は長年開業医をしていますが、その場でCTが必要だと思ったことは殆どありません。
CTの撮影装置を置いた開業医は当然のことながら高価な医療機器を購入した限りは採算性を考えます。
そのため、不必要と思われる検査も行ってしまう傾向にあります。
これは開業医に限らず病院も同じで、是非知っておいて貰いたいことです。

ご存知のようにCTによる被曝は単純CTの被曝の何十倍、何百倍になります。
異常が見つかっても紹介先の病院で再度CT検査は撮り直しになります。
(開業医のCTやMRIの性能では勤務医は満足しないことが多い)
こうやって日本の医療は”被曝大国”になっているのです。

医療は、患者さんに対して「最小の肉体的、経済的負担で最大の効果」を目指すべきです。


他に
井蛙内科開業医/診療録(4)
http://wellfrog4.exblog.jp/
(H21.10.16~)
井蛙内科開業医/診療録(3)
http://wellfrog3.exblog.jp/
(H20.12.11~)
井蛙内科開業医/診療録(2)
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(H19.8.3~)
(いずれも内科専門医向けのブログです)
「井蛙」内科メモ帖 
http://harrison-cecil.blog.so-net.ne.jp/
葦の髄から循環器の世界をのぞく
http://blog.m3.com/reed/
(循環器専門医向けのブログです)
「葦の髄」メモ帖
http://yaplog.jp/hurst/
(「葦の髄から循環器の世界をのぞく」のイラスト版です)
があります。