脳卒中の再発予防には依然アスピリンがベスト

きょうは、ちょっと難しい内容かも知れません。
しかし、古くて新しい薬のアスピリンの威力を知るいい勉強になりますよ。


以下引用。

脳卒中を経験している患者の再発予防において、動物を用いた試験で有望性が示された新薬terutrobanテルトロバンには、アスピリンに比べ優位性が認められないことが新しい研究(大規模臨床試験)で明らかにされた。
この研究は早期に中止されている。
<私的コメント>
「優位性が認められない」というのは読んでじの如しで、「優れているとはいえない」という意味の専門用語です。
「同等である」ということを専門用語では、「非劣性が証明された」と言います。

動物を用いた過去の研究では、テルトロバンによる血栓予防効果がアスピリンと同等であることが示されており、ヒトの心血管系に対する効果について関心がもたれていた。
フランス、ラリボアジエLariboisiere病院(パリ)のMarie-Germaine Bousser博士らによる今回の研究では、血管閉塞による虚血性脳卒中を起こした患者を対象に、同薬とアスピリンを比較。
1万9000人を超える被験者の約半数をテルトロバン群、残りをアスピリン群に割り付けた。

平均28カ月間の追跡の結果、アスピリン群に比べ、テルトロバン群に優位性が見られないことがわかった。
「世界的にみれば、その有効性、忍容性およびコストの観点から、脳卒中再発予防のための抗血小板薬としては依然としてアスピリンがゴールドスタンダードである」と研究グループは述べている。
医学誌「Lancet(ランセット)」オンライン版に5月25日号掲載された今回の研究は、ドイツ、ハンブルグで開催された欧州脳卒中学会(ESC)でも発表された。

ロングアイランド・ジューイッシュLong Island Jewish・メディカルセンター(ニューヨーク州)のRichard B. Libman博士もこれに同意しており、「脳卒中予防の効果においてテルトロバンとアスピリンの間に差がないことから、アスピリンは依然として世界的に広く入手でき、安価な治療法である」と述べ、「新薬が“古きよき”アスピリンに取り変わるには、アスピリンよりも優れたものでなくてはならない」と指摘している。

一方、台湾の長庚(Chang Gung)大学医学部および米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)の研究者らは、アスピリン投与中に脳卒中を起こした患者を、新薬または用量を増加したアスピリンのいずれかに無作為に割り付ける試験を実施すれば、この問題について洞察を得られる可能性があると同誌オンライン版の解説(Comment)で述べている。
<私的コメント>
これを専門用語では「二次予防」といいます。
多くの薬剤の有効性の判定には、一次予防(病気を起こさないようにする)より二次予防(病気を起こした人に再発が起こらないようにする)の方が良い結果が出ることの方が多いのです。
これは何故でしょうか。
本来効果が出やすい症例に絞り込まれているためではないかと私なりに考えています。


<原文>
Study Finds Aspirin Still Best at Preventing 2nd Stroke
More testing may reveal helpful role for drug alternative, others say
http://consumer.healthday.com/Article.asp?AID=653245

出典 Health Day News 2011.5.25
版権 Health Day (ヘルスデージャパン)

<私的コメント>
きょうは専門的なちょっと難しい話題を取り上げました。
アスピリンは100年以上前に開発された薬剤です。
現在も新しい抗血小板薬が開発されています。
循環器領域のステント植え込み術後では、アスピリンと新しく開発された抗血小板薬の併用投与が一般的です。
それは作用機序が異なるためいっそうの効果が期待出来るからです。(相乗効果)
アスピリンはごく安価である一方、新薬は薬価が高いことがネックです。
薬価差ほどの効果の違いがないだけではなく、アスピリンの方が効果があるとすれば皮肉なことですね。
最後にもう一つ。
抗血小板剤は、しばしば胃などの消化管からの大出血の原因になります。
したがって胃を保護する薬剤(たとえば胃酸の分泌を強力に抑えるPPIなど)を併用するのが原則です。
ただし、最近では抗血小板剤とPPIの併用による薬同士の干渉(薬剤相互作用といいます)が問題ともなっています。



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