耳鳴り、薬で軽減

耳鳴り、薬で軽減、心静め順応  難しい完治 音に慣れる治療法も

静かな場所にいると、「キーン」や「ジーン」という音が聞こえる耳鳴り。
絶えず鳴り響くようになると、仕事が手につなくなったり寝付きが悪くなったりする。
音を完全に無くす治療法はまだないが、薬で症状を軽くし、カウンセリングなどを通じて支障なく生活できるようにする方法が広がり始めている。

「音は完全には消えません。できるだけ意識しないで生活してください」

耳鳴りの患者が耳鼻科を訪れ、こんな診断を受けることが多いという。
まれに脳出血など重大な病気に伴って発症する例もあるが、ほとんどが自覚症状だけで生命に関わることはなく、半ば放置されるような状況が続いてきた。

耳鳴りの一般的な症状は、周辺では発生していない音が自分にだけ耳の奥から聞こえてくる。
音の種類は、周波数が125ヘルツの低い音から8000ヘルツの高い音まで人により様々だ。

イメージ 1



詳しい原因は不明
実態ははっきりしていない。
大音響を聞いたり不眠が続いたりした後、一時的に聞こえても、しばらくすると自然に消滅する場合がある。
鳴っていても気にならない人がいれば、小さな音でも心配になる人がいる。
「症状を自覚している人は中高年層を中心に国内で1000万人」との推計はあるが、正確な患者数は不明だ。

作曲家のベートーベンやスメタナ、画家のゴッホが耳鳴りに悩まされていた。
スメタナはバイオリンで耳鳴りを表現する曲を作ったほど。
作家、倉田百三も耳鳴りの悩みを作品に残している。

なぜ耳鳴りが起きるのか、詳しい原因は分かっていない。
音は、空気の振動で外耳から中耳に伝わり、内耳で電気信号に変換されて神経を通して脳に伝わる。
その経路のどこかに異常が起きて発症すると考えられている。

内耳で起きる耳鳴りが9割近くを占めて一番多い。
聴覚神経が、音を聞いていないにもかかわらず興奮した状態に陥り、脳に信号を伝えてしまう。
慢性化すると、信号の伝わる回路が固定化して治りにくくなるという。


ステロイド剤注射
かつては、ビタミン剤や血液の循環をよくする薬を処方し、睡眠を十分とるように勧める治療法しかなかった。
2000年ごろから、気にならない程度にまで耳鳴りを軽減し、日常生活に支障がないよう順応させる方法が主流になりつつある。

飲み薬や注射で効果がでない患者に対し、鼓膜の内側にある中耳くうにステロイド剤を0.5ccほど注射する方法がある。
これで約6割の患者が、生活に困らない程度にまで症状を抑え込めるという。
頑固な耳鳴りにのみ、内耳くうに麻酔剤を注射する方法を採用する。
この方法は、目まいなどの副作用があるため入院が必要だ。

本格的な治療薬を開発する動きも出てきた。
キョーリンは09年、耳鳴り治療薬を開発中の独メルツ社と提携して日本で臨床試験を準備中だ。
「耳鳴りは治療の満足度の低い分野。患者の苦痛緩和に役立つ薬を目指す」(キョーリン)という。

一方、耳鳴りを完全には消せないことを前提に、音に慣れさせる方法が登場した。
ラジオの雑音に似た音を医師と相談しながら調節し、補聴器と同じような機器を耳に取り付けて流す。シーメンスヒアリング・インスツルメンツ(相模原市)が03年に国内で発売した。
1日6時間以上、短い場合で数カ月、長い場合は2年間ほど使用する。

意識しないようにするのはなかなか難しい。
しかし、脳は何かに集中したとき、雑音を遮断し、自分の名前を呼びかけられたり危険を知らせたりする音には再び注意を払う機能をそなえる。
粘り強い取り組みが必要で、不安を募らせず、いらいらしないことが大切だ。

この治療法には臨床心理の専門家の協力が欠かせない。
体制の整った耳鼻科はまだ少ないが、慶応義塾大学病院や名古屋市立大学病院などが取り入れている。
                               (編集委員 永田好生)
出典 日経新聞・朝刊 2011.6.5(一部改変)
版権 日経新聞


他に
井蛙内科開業医/診療録(4)
http://wellfrog4.exblog.jp/
(H21.10.16~)
井蛙内科開業医/診療録(3)
http://wellfrog3.exblog.jp/
(H20.12.11~)
井蛙内科開業医/診療録(2)
http://wellfrog2.exblog.jp/
(H20.5.22~)
井蛙内科開業医/診療録 
http://wellfrog.exblog.jp/
(H19.8.3~)
(いずれも内科専門医向けのブログです)
「井蛙」内科メモ帖 
http://harrison-cecil.blog.so-net.ne.jp/
葦の髄から循環器の世界をのぞく
http://blog.m3.com/reed/
(循環器専門医向けのブログです)
「葦の髄」メモ帖
http://yaplog.jp/hurst/
(「葦の髄から循環器の世界をのぞく」のイラスト版です)
があります。