ビタミンDを上手に摂取

生活習慣病の予防も ビタミンDを上手に摂取

骨の成長に欠かせない栄養成分として知られているビタミンDが、体内での骨の代謝以外にも、生活習慣病の予防など重要な働きを果たしていることが分かってきた。
ビタミンDの新たな情報とビタミンDが不足しない生活習慣などについて専門家の話を聞いた。

ビタミンDは、1920年代に欠乏すると骨の病気をもたらすビタミンとして発見された。
食物に含まれるほか、日光の紫外線を浴びると、皮膚内でもつくられる。

ビタミンDについて、研究が進む契機になったのは、80年代に米国で行われた調査。
日照量の少ない北部地域では大腸がん(結腸がん)の死亡率が高いことが明らかになった。

紫外線により皮膚で作られたビタミンDが大腸がんのリスクを低下させる可能性があるため、世界中でビタミンDの健康効果や作用のメカニズムなどについての研究が進んだ。

例えば、国立国際医療研究センター国際臨床研究センター(東京都新宿区)の溝上哲也疫学予防研究部長は、2000年から国内の調査に取り組んでいる。
日本各地の年間平均日照時間と大腸がんによる死亡率を調べた結果、東北地方など日照率が低い地域ほど大腸がんのリスクが高まることを突き止めた。

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溝上部長は「世界中のこうした調査をまとめた報告書が07年に発表された。がんの予防効果についてはカルシウムの効果がほぼ確実とされ、カルシウムの吸収を助けるビタミンDについても、効果がありそうだと評価された」と話す。

5月に開催された日本抗加齢医学会総会ではビタミンDのアンチエイジング効果が注目された。
国立長寿医療研究センター病院(愛知県大府市)の細井孝之臨床研究推進部長によると、ビタミンDはホルモンとして身体のさまざまな組織で重要な働きをしている。
骨質を保つ効果、運動能力を維持し転倒を予防する効果、糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病を予防する効果など、高齢者の健康維持のためにも重要な成分であることがわかってきた。

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強化牛乳も開発
健康維持に重要なビタミンDが不足しないようにするには、どうしたらいいのか。
これまで日本人はビタミンDを豊富に含む魚を食べる機会が多いため、不足することは少ないと考えられてきた。
偏食せず食事をしっかり取っていれば、積極的な日光浴などは考えなくてもいいというわけだ。

しかし、血中のビタミンD濃度を測定する技術が普及した現在では、ビタミンD不足の人が意外に多いことも分かってきた。
国立長寿医療研究センター病院の原田敦副院長らが昨年発表した調査結果によると、介護施設で暮らす女性高齢者の8割は、ビタミンDの血中濃度が低すぎた。

介護施設で暮らす人は運動能力が落ちているため屋外で日光を浴びる機会が少ないことも理由の一つと考えられる。

血中のビタミンD濃度を保つには、食事と日光浴の両方を上手に利用することが大切だ。
溝上部長は「皮膚が作り出すビタミンDの量は多く、日光浴の重要性も見直したい」と話す。

晴れた日に上着やズボンの裾を少しめくって肌を露出させ、10~20分ほど日光に当てるだけでも十分なビタミンDが作られる。
色が白く日焼けしやすい人ほど効果的。
「肌が赤くならない程度なら、紫外線による皮膚がんや肌荒れなどを心配する必要もない」と溝上部長は語る。

日に当たる機会が少ない人や、日照時間の短い冬季は、食事に気を配りたい。
ビタミンDは、魚の脂肪や肝臓、キノコ類などに豊富に含まれる。脂ののったサケやカジキ、サバを食事に取り入れるほか、日常的な総菜に干しシイタケなどを使うのもいい。

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また、最近ではビタミンDが強化された牛乳なども開発されている。
ビタミンDが不足しがちな高齢者や妊婦、授乳婦などは、主治医とよく相談した上で利用を検討したい。

毎日、20分ほど散歩したり、魚やキノコ類を積極的に食べたりすること。健康維持によいとされてきた生活は、じつは、十分なビタミンD量を保つためにも効果的だといえる。
(ライター 荒川 直樹)

妊婦は一般人より多めに
ビタミンDは皮膚でも作られるため、食事で取ることが必要な推奨量は定められていないが、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」(2010年版)では、良好な栄養状態を維持するのに十分な量(目安量)が設けられている。
それによると一般成人では1日あたり5.5マイクログラムで、妊婦では、それに1.5マイクログラムをプラスするのが目安だ。

この量について溝上部長は、「過去の骨の病気の予防を中心に設定されたもので、専門家の多くは、がんのリスクの低下や生活習慣病の予防など健康管理を目的とするならば、もっと多い量が必要と考えている」と話す。

新たな目安量を決めるためには、科学的な研究を積みかさねる必要があるが、少なくとも現状の目安より不足しないように気をつけたい。



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1日分のビタミンDをとるのに必要な干しシイタケ、生ザケ(皿の上)、鶏卵の量。魚が優れている

出典 日経プラスワン 2010.11.6.11
版権 日経新聞



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