アルツハイマー 新治療薬が続々

アルツハイマー 新治療薬が続々… 神経伝達制御 進行を遅く

アルツハイマー認知症の治療薬3種が今年、相次いで発売されている。それぞれどのような特徴があるのだろうか?(岩永直子)

「先生、目が覚めた感じがするんです」

重度のアルツハイマー認知症を病む愛知県の女性(84)は今月1日、主治医にこう報告した。
6月に発売された新薬「メマリー(一般名・メマンチン塩酸塩)」を、これまで飲んでいた「アリセプト(同・ドネペジル塩酸塩)」に追加して飲み始めて3週間。表情が消え、身なりに構わなくなっていたのが、洋服選びを楽しむようになった。

6月だけで女性も含む625人にメマリーを処方した名古屋フォレストクリニック院長の河野和彦さんは、「これまで使っている薬と併用できるので、今より状態が悪化する心配がなく処方しやすい。めまいだけでなく、興奮の副作用も意外に多いが、レビー小体型など別の認知症にも効く可能性がある」と期待する。

米国の臨床試験では、アリセプトだけを処方した群では、記憶力や時間・場所を認識する能力などを示す認知機能の点数が、24週後に当初より下がったのに比べ、メマリーを併用した群では飲み始めた時よりも高い点数を維持していた。

認知症患者の半数を占めるアルツハイマー型は、特殊なたんぱく質神経細胞を壊し、脳が萎縮していく病気だ。
記憶にかかわる神経伝達物質の一つ、アセチルコリンが減少するのが特徴でもある。

これまで唯一の治療薬だったアリセプトは、このアセチルコリンを分解する酵素の働きを抑え、症状の進行を遅らせる。

新たに発売された3種の薬のうち2種は、基本的にアリセプトと同じ作用を持つが、メマリーだけは違う。

人が記憶や学習をする時には、神経細胞から別の神経伝達物質グルタミン酸」が出る。
これが、神経細胞の受容体を刺激してふたを開け、カルシウムイオン(神経伝達物質)が流れ込むことで情報が伝達される。

アルツハイマー型では異常に増えたグルタミン酸が受容体を常に刺激し、カルシウムイオンが過剰に流れ込む。雑音が多く、正しく情報が伝わらなくなる。

メマリーはふた代わりに受容体をふさぎ、必要な時だけ開けて、神経伝達をコントロールする。
神経細胞自体が傷つくのも防止。
ただ、めまいの副作用が強いため、元からめまいがある人は処方に注意が必要だ。

「レミニール(同・ガランタミン)」、「イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ(同・リバスチグミン)」は基本的にアリセプトと同じ作用を持つため、互いに併用はできない。
ただ、それぞれアリセプトとは違う効能も加わっているので、アリセプトが効かなかった人も、切り替えて効く可能性もあるという。

レミニールは、長期的な効果を見ると、アリセプトより認知機能の低下が抑えられたという研究報告もある。
ただ、1日2回に分けて飲まなければならず、投薬管理をする家族に負担になるという声もある。

イクセロンとリバスタッチのパッチは貼り薬なのが新しい。
成分がゆっくり浸透するので、吐き気などの副作用が軽減できる。
日付を書いて貼って投薬忘れも防げるので、管理する家族の負担は軽くなるとされる。

ただ、かゆみや赤くなるなどの副作用が多い。
背中などはがされない場所に貼り、保湿剤などでかぶれを予防する工夫も必要になる。

いずれの薬も、治療しなければ1、2年で進む症状の悪化のスピードを、3年ぐらいに遅らせる程度の効果があると言われている。

首都大学東京教授の繁田雅弘さん(精神医学)は、「アリセプトが効かなければ、治療を断念せざるを得なかった患者にとって、治療の選択肢が増えることは朗報。ただ、いずれも病気そのものを治す薬ではないので、日常生活への支援が大切だ」と話す。

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出典 YOMIURI ONLINE ypmi.Dr. 2011.7.14
版権 読売新聞社

<私的コメント>
昨日も某大学教授にアリセプトへのメマリーの追加投与を勧められました。
薬価も高いためアリセプトからメマリーへの変更はどうなんだろうか、とつい考えてしまいます。
アリセプトは消化器系の副作用も多く、3mgを2週間処方してから5mgに増量することになっています。
最近では10mg錠も発売されて、メーカーもこちらを推奨していました。
しかし、薬価や効果や副作用の問題もあり、どれだけの医師が処方していtか、あるいはしているのか疑問です。

さて、記事の最初の河野院長。
6月だけで625人にメマリーを処方というのは驚きです。
アリセプトを処方している患者さんはもっとすごいはずです。
こんなに数多くの認知症の患者さんを診ていたら、私ならどうにかなってしまいそうです。



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2011.7.18撮影 長野県・蓼科 標高1650m
今となっては真夏の雲が懐かしい?


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