多少の不衛生は健康によい

米国疾病管理予防センター(CDC)によると、良好な衛生状態を保つことにより多数の生命が救われ、人々が感染症から守られてきた。
しかし、あまりに清潔にこだわりすぎると、別の疾患に罹りやすくなるとの懸念が浮上してきている。

この「衛生仮説(hygiene hypothesis)」とは、細菌、ウイルス、寄生虫への曝露が減少すると、免疫システムが正常に反応する能力が損なわれるという考えである。
ロンドン大学(UCL)臨床微生物センター教授のGraham A.W. Rook氏によると、この衛生仮説は以下のような疾患の原因あるいは増悪因子として特定されているという:

重症アレルギー反応。
炎症性腸疾患(IBD)、クローン病などの消化管障害。
1型糖尿病、多発性硬化症(MS)などの自己免疫疾患。

 
いずれも極めて強いエビデンス(科学的根拠が)あり、「農場での生活やイヌを飼っているケース、大家族で一番年下の子供として生まれた場合には、このような疾患に罹患する比率が低いことが容易に示される」とRook氏は述べている。
<私的コメント>
「一番年下の子供として生まれた場合」に不衛生になるという発想自体が興味深い。
しかし、この仮説が正しいとして不衛生な環境による弊害をメリットが凌駕するかどうか、が問題です。


Rook氏は「人類はその誕生直後から、さまざまな微生物とともに過ごしており、人体はそれに適応し、免疫システムの訓練手段とするようになった。進化の過程で、微生物は免疫システムの耐性を活性化させ、免疫システムがむやみやたらに抗原を攻撃することを抑制する役割を担うようになった」と説明する。

ウィスコンシン大学ミルウォーキー)准教授のMitchell H. Grayson氏は、「この衛生仮説はアレルギー性疾患や喘息の増加に最も強く関連している」と述べている。
環境中の細菌が抗原への免疫反応を穏やかにするよう教える働きをするが、そのような細菌なしではよりアレルギー性疾患になりやすくなると考えられるという。

Rook氏によると、他の研究で寄生虫感染が多発性硬化症クローン病などの治療に衛生仮説として有用であることが示されているという。
例えばアルゼンチンの研究グループは、腸内寄生虫の存在が多発性硬化症の進行を緩和することを示した。
追跡研究では、寄生虫感染を治療すると多発性硬化症の再発が認められている。
アイオワ大学によるクローン病の研究でも同様の結果が得られており、腸内寄生虫が腸障害を引き起こす自己免疫反応の制御に役立つことが示されている。

一方、衛生仮説を言い訳にして清潔さをおろそかにすると、赤痢コレラの急増をもたらすとの懸念もある。
「公衆衛生は人類の寿命を延ばした唯一最大の改善点であり、今よりも不潔な生活をすることは推奨できない」とGrayson氏は述べている。
しかし、Rook氏は「少々の汚れが害になることはない。子供が手に泥をつけて戻ってきても悪いことではなく、食べ物をつまむ前に手を洗わせる必要はない」と述べている。
<私的コメント>
「食べ物をつまむ前に手を洗わせる必要はない」
私達、子どもを持つ親達は間違ったことをしていたのでしょうか。
実際に、そうとも思えないところが難しいところです。

概していえば、良好な衛生状態を維持しつつ、衛生仮説の全貌が把握できるまで待つのが賢明であるという。
Rook氏は「現在、細菌や寄生虫が免疫システム反応を節度あるものにさせる機序を解明するための大規模研究が進行中で、衛生維持の利点を保ちつつ、微生物環境のよい部分を取り入れる方法の解明が必要である」としている。

出典 Health Day News 2011.9.15
版権 Health Day


<私的コメント>
今回の記事でどなたもが思い浮かぶのが寄生虫学者の藤田紘一郎先生です。
藤田先生は、花粉症の原因を寄生虫を撲滅しすぎたためとする説を広められました。
自身の研究の一環として、自らの腸内に15年間6代にわたり条虫(サナダムシ)を飼っていたことで知られています。
花粉症についての寄生虫説はどこまで信じられているかはわかりません。
しかし、花粉症に関する私の説は大概の女性患者さんに納得して貰っています。
「花粉症になる人は鼻筋の通った美人に多い」

藤田紘一郎先生 関連サイト>
藤田紘一郎
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%97%A4%E7%94%B0%E7%B4%98%E4%B8%80%E9%83%8E
役に立つ寄生虫 藤田 紘一郎 氏
http://www.athome-academy.jp/archive/biology/0000000261_all.html
医学博士 藤田 紘一郎氏(前編)寄生虫、菌との適度な共生社会が人体と ...
http://eco.nikkeibp.co.jp/style/eco/interview/080208_fujita01/
人と回虫とウイルスの深い仲
http://www.mitene.or.jp/~ryuzo/chotto/22fujita.htm
幻影随想: カイチュウ博士こと藤田紘一郎センセが、水商売だけでなく ...
http://blackshadow.seesaa.net/article/102037645.html
藤田紘一郎『血液型の科学』 - SFにすら残る科学性・論理性をも超越した「啓蒙書」 (その1)
http://higashiooi-machio.cocolog-nifty.com/blog/2010/02/sf-37d0.html
藤田紘一郎
http://www.j-n.co.jp/kyouiku/link/michi/23/no23.html


<自遊時間>
昨朝、NHKのTV番組で日本画家の堀文子さんを取り上げていました。
ご覧になられた方も多かったのではないでしょうか。

ダビガトランはワルファリンと同等に危険な薬
http://blog.m3.com/reed/20110920/1
(<自遊時間>)

日本画家『堀 文子』さんの生き方
イメージ 1

「生きて死ぬ智慧」文・柳澤桂子 画・堀文子  
http://plaza.rakuten.co.jp/cabiria/diary/200710140000/



他に
井蛙内科開業医/診療録(4)
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