糖尿病の薬(3)がんのリスク見極め服用

「この薬を飲み続けても、がんにはなりませんか」

東京都江東区の糖尿病患者、Tさん(79)は今年7月、主治医で糖尿病専門医のF内科(同区)院長、F先生にこう尋ねた。
「この薬」とは「アクトス」(一般名・ピオグリタゾン塩酸塩)。
血糖値を下げるホルモン、「インスリン」の効き目をよくする働きがある。代表的な糖尿病治療薬だ。

Tさんは約20年前に本格的に糖尿病の治療を始め、1日2回、インスリン注射を打つなどして治療を続けている。
だが、血糖値は思うように下がらなかった。
そこで昨年3月、アクトスを新たに服用すると、過去1~2か月の平均的な血糖値を反映するヘモグロビンA1cは、7・6%(基準値4・3~5・8%)から6%台前半に下がった。

「血糖値が下がってうれしい。でも今年6月、『アクトスを飲み続けると膀胱がんの発症率が高まる』という新聞記事を目にし、心配になりました」

記事には、フランスで6月から新規の糖尿病患者にアクトスの処方を禁止したと書かれていた。
同国で、「アクトスを服用し続けると膀胱がんの発症率が高まる」という研究報告が公表され、その結果を受けての措置だった。

Tさんから相談を受けたF先生は、膀胱がんの発症の有無を調べる尿検査を行った。
その結果、がん細胞は確認されず、F先生にアクトスを飲み続けるよう勧めた。
Tさんは「服用し続けても今のところ大丈夫だとわかり、安心しました」と話す。

アクトスの服用に関しては6月、米食品医薬品局(FDA)や日本の厚生労働省も膀胱がん患者への処方は避け、過去に膀胱がんを患った経験がある患者には慎重に判断することを医療機関に求めた。
製造・販売を手がける武田薬品工業も服用の注意事項などを記した添付文書を改訂した。

ただ、F先生は「アクトスは血糖値を下げる効果が高く、服薬をやめて血糖値が上がると心筋梗塞脳梗塞を起こす危険が高まる。患者さんは勝手な判断で服薬を中止しないでほしい」と訴える。

F先生には6月以降、患者からアクトスの服用に関する相談が相次いでいる。
心配する患者には、尿検査を実施し、膀胱がんを発症していないかどうかを調べ、問題ない人には服用を続けるよう話している。

F先生は「心筋梗塞脳梗塞と膀胱がんとどちらの危険性が高いかを冷静に見極めることが大切。年1回程度、膀胱がんの検査を受けながら服薬を続けるのが望ましい」と指摘する。

出典 YOMIURI ONLINE yomi.Dr. 2011.10.5(一部改変)
版権 読売新聞社

<私的コメント>
最近の新聞記事では医師のことをF「さん」と表現します。
「この記事でもTさんから相談を受けたFさんは」となっています。
こういった場合、どちらが患者さんか混乱してしまいます。
私達医師は医師になった途端から、お互いに「先生」をつけて呼び合います。
これはお互いに、「先生」としての社会的立場を保って行動するように、といった暗黙の信号かも知れません。
学校の先生や国会議員(後者はちょっと抵抗があります。聖職ではないからです。)も同様です。
医師を先生と呼べ、といっているわけではありません。
しかし、「さん」で呼ばれて患者さんは「○○様」と呼ぶ風潮はどうなのでしょうか。
私には大いに抵抗があります。

F「様」から相談を受けたF「さん」?

さて、「膀胱がん」の件です。
記事の中で「尿検査」で膀胱がんを調べる、といったことが書かれています。
便潜血反応と同じで、こういった検査では陰性の場合には「がん」が見落とされてしまいます。

せめて腹部エコーぐらいはするべきではないでしょうか。



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