咳喘息(せきぜんそく)油断しないで

せきぜんそく油断しないで、2カ月続くなら検査を

せきぜんそくの患者が増えている。
せきが2カ月以上も長引く場合は、この病気の疑いがあり、治療しないとそのうちの約3割がぜんそくに進む。
アレルギーとの関連が指摘されているが、季節の変わり目などに引いた風邪がきっかけになることも多く注意したい。

関西地方に住む30代の女性Kさんは数年前、夏から秋への季節の変わり目に風邪をひいた。
しばらくして風邪は治ったものの、せきが2カ月たってもなかなか止まらない。
近所のクリニックでせき止め薬を処方されたが、ついには夜にひどくせき込んで寝れなくなるほど悪化した。
不安になりインターネットで調べて専門医にかかると、せきぜんそくと診断された。


風邪と思いがち
この病気の症状は2カ月以上も長引くせき。
ぜんそく特有の「ゼイゼイ」「ヒューヒュー」という異常な呼吸音はなく、せきだけ続くので単に風邪が長引いていると思ってしまいがち。
しかし、ぜんそくと健康な状態の中間のような状態で、気管支は炎症で通常より少し狭くなっている。
そのまま放っておけば、せきぜんそくの患者のうち約3割はぜんそくに移行するといわれる。

風邪などウイルス性の感染症が原因で起こるせきの多くは3週間以内で治まる。
症状も少しずつ良くなるのが一般的だ。
大阪市立大学の平田一人教授は「逆に悪化した場合は要注意。2カ月ほどせきが続いた患者の約半数はせきぜんそくにかかっている」と指摘する。

イメージ 1



患者の平均は40代だが、高齢者や若者でも発症する。
女性が比較的多い。
女性は自律神経やホルモンのバランスの影響が出やすく、夜から朝方にかけて激しいせきが出る例もあるという。
京都大学の新実彰男准教授は「せきぜんそくと診断がつく人の3~4割は寝られないくらいひどい」と話す。

病気の原因は今のところはっきり分かっていない。
ただ患者の中にはハウスダストやダニ、花粉、ペットの毛などの物質にアレルギー反応を起こす例が多い。
季節も関係しているようだ。
患者が増えやすいのは、スギ花粉が飛び始める春や梅雨、風邪を引きやすくなる冬など。
季節の変わり目に風邪をひき、せきが長引いてせきぜんそくになるケースが多い。

国内では正確な統計はまだないが、患者数は年々増えているようだ。
京大病院呼吸器内科の調査によると、慢性的なせきに悩まされる患者の半数がこの病気だった。
ぜんそく患者は国内に約500万人いるといわれ、予備軍のせきぜんそくもかなりの数に上ると専門家はみている。

イメージ 2



他人には感染せず
正確な診断にはまず問診。
せきだけでたんは出ないか、朝方や夜間にせきが出やすいか、アレルギー性の病気を持っているかなどを確認する。
家族など周りの人にも同じ症状があるかを調べ、百日ぜきなど感染症とも区別する。
せきぜんそく感染症ではないので、人にうつることはないという。

エックス線やコンピューター断層撮影装置(CT)などによる胸の検査も重要。
肺炎や肺がんなどが隠れているケースもあるからだ。
気道の収縮の仕方から患者か判定できる場合もあるという。
診断にはぜんそく治療に使われる気管支を広げる薬を投与する手法も有効だ。
この薬が効けば、せきぜんそくと絞り込める。
日本呼吸器学会のガイドラインでは、異常な呼吸音を伴わないせきが8週間以上続いたり、気管支拡張薬が効いたりした場合を簡易診断の基準としている。

ただし自己判断は禁物。
せきが出る程度ならばかかりつけのクリニックでもよいが、それでも症状がよくならずせきが続く場合は専門医を受診するのが確実だ。

治療法はぜんそくと同様に、口から吸い込む吸入ステロイド薬や気管支拡張薬などを使う。
1週間くらい服用するだけでせきが止まるケースもあるが、「せきが止まっても完全に治ったわけではない」と神戸大学の西村善博准教授は訴える。

気道の炎症は1~2週間では治まらず、薬の服用を止めると再び悪化することになる。
何度も繰り返していると気道の収縮が進んで、悪化しやすくなる。「せきが止まっても、きちんと病院に通って治療を継続することが大切だ」(西村准教授)

日本呼吸器学会は現在、ガイドラインの改定作業を進めており、来春にもまとまる見通し。
治療の基本は変わらないが、治療すべき期間を従来より明確化する方向だ。
作業にかかわる新実准教授は「治療は1~2年続けてほしい」と話している。

せきぜんそくを確実に予防するのは難しいが、打つ手がまったくないわけではない。
ハウスダストやダニなど身の回りにあるアレルギー原因物質を取り除くほか、感染症や風邪にならないよう手洗いやうがいなどを励行しよう。
適度な運動で体調を整えることも意識してほしい。

出典 日経新聞・夕刊 2011.10.7
版権 日経新聞


<私的コメント>
文中に「専門医を受診するのが確実だ」とあります。
しかし、こういった専門家と称する先生方の診察を受ける場合には気をつけなければならないことがあります。
それは、自分の得意分野に診断を誘導する先生があるからです。
咳喘息のような確定診断が比較的「あいまい」な疾患では、専門家が「咳喘息」と診断する確率が高くなります。
しかし、本当は違っている場合もあるのです。
喘息、咳喘息、狭心症などは診察室での診察の際には症状が出ていないことがほとんどです。
逆に、ていねいな問診が重要になります。
問診だけで8割以上診断がつくはずです。
最初から「咳喘息」という診断名を用意している先生もいます。
私の経験からは、簡単にこの診断名を「乱発」する専門医も「要注意」です。

診察をしていると、かぜを引いた後に咳や痰などの不快感だけが残って長引く(少なくとも8週間以上)患者さんをしばしば経験します。
こういった咳を、専門的には「慢性咳嗽」といい、胸部レントゲン写真や肺機能検査には異常がありません。

この「慢性咳嗽」の原因には以下のようにたくさんの原因があるのです。
■ 咳喘息
アトピー咳嗽(咳喘息と異なり、中枢気道に異常を認める。咳喘息のように、気管支喘息に移行することはないため長期的治療は不要)
■ 副鼻腔気管支症候群 (気管支拡張症・副鼻腔炎
■ 風邪症候群後遷延性咳嗽
■ 非定型肺炎後の慢性咳嗽 (マイコプラズマクラミジア肺炎あるいは気管支炎)
■ 胃食道逆流
■ タバコ気管支炎
■ 降圧剤の使用 (ACE阻害剤、β受容体遮断薬)
心因性咳嗽
喉頭アレルギー (下気道ではありませんが)
■ その他

「咳喘息」について少しまとめてみました。
●原則的に乾性咳嗽(痰のからまない乾いた咳)です。
●咳嗽のでる時間帯はほとんど夜間(特に、就寝時、夜中から早朝、起床時などに多い)。
●咳嗽の誘因として冷気や暖気の吸入時、受動喫煙、線香の煙、香水・化粧品、会話、電話、運動などがあります。
●喘鳴(ヒーヒー、ゼーゼーなど)や呼吸困難発作は認めません。
●多くにアトピー疾患(気管支喘息アレルギー性鼻炎アトピー性皮膚 炎、蕁麻疹)の家族歴が認められます。
●長期管理が必要です。
咳喘息患者さんの約30%が3年くらいで 気管支喘息に移行するといわれています。
したがって吸入ステロイド剤の早期導入、長期管理が必要となります。