たんのサイン、見逃さない

たんのサイン、見逃さない 日本呼吸器学会が診療指針

ねばねばしてのどに絡みつくたんは、口から肺への空気の通り道「気道」の異常を知らせるサインだ。
4月には、世界初となるたんの診療指針ができた。
せきの症状とともに、呼吸器の病気の治療や患者の生活の質(QOL)の向上につなげることが重要だ。

気道の異常の表れ
横浜市の男性(62)は40代後半の頃、喫煙などが原因で肺の組織が壊れる肺気腫と診断された。
息苦しさに加え、粘り気が強く吐き出しづらいたんに長年、悩まされてきた。

かかりつけ医の紹介で7年ほど前、横浜市立大病院を受診。
症状が進み、呼吸機能に異常がある慢性閉塞性肺疾患COPD)とぜんそくが合併した状態だった。
自宅で毎日、呼吸機能を簡易的な機器で測り、せきやたん、息苦しさなどの症状を記録。
症状や数値が悪化すると、主治医の事前指示の通りに薬の種類や量を自分で微調整した。
診察時には、記録を持参した。
たんが黄色や緑色になり細菌感染が疑われるときは、早めに抗菌薬を使い、症状の悪化を防いだ。
次第にたんの量が減り、今は息苦しさを感じることはほとんどなくなった。
 
主治医の金子猛・横浜市立大教授(呼吸器病学)は「たんは気道を映す鏡で健康のバロメーター。たんが出るのは気道に何か問題があるということ」と話す。
 
気道の表面は線毛が生え、粘液で覆われている。
気道に入り込んだ異物を粘液が絡め取り、線毛がベルトコンベヤーのベルトのようにのどの方に運び出す。普段は少量でのみ込むなどして気づかないが、増えるとたんとなる。
線毛の働きが低下したり、粘液が過剰に分泌されたりすると、せきと一緒に排出される。
 
たんは患者の負担なく採取でき、気道の病気を推測し、感染症の原因菌を特定できる。
気管支ぜんそくCOPDではたんが続くと、呼吸機能の低下や病気が悪化しやすいことが分かっている。
 
たんの症状を診断や治療に役立てるため、日本呼吸器学会は4月、従来のせきの診療ガイドラインにたんに関する記述を加えて改訂。
たんの特徴や分類、原因となる病気や治療薬の使い方をまとめた。
黄色や緑色などのたんは、細菌感染が考えられる。
血が混じる時は、せきで気道に傷ができたことが原因のことが多いが、肺がんや結核のこともあるので注意が必要だ。
 
改訂を担当した金子さんによると、たんのガイドラインは世界初だという。
「たんは、呼吸器の病気の診断や治療に役立つ情報の宝庫。まだ診療現場では十分活用されていないが、たんをターゲットに治療をすることで、症状や患者のQOLの改善などが期待できる」と話す。

色・粘り気は?続けば受診を
「せきやたん」は、厚生労働省国民生活基礎調査(2016年)では、男性で3番目に多い症状だ。
身近だが注目されないことも多い。
どんな点に注意したらいいのか。
 
金子さんは「たんを吐き出したら、ティッシュに包んで捨てる前に色や特徴をよく見て、主治医に伝えてほしい」と言う。
透明か白っぽいのか、黄色いのか。粘り気は強いのか・・・。
検査などでは、朝起きてすぐに吐き出したものを取る。
小さな子どもは、大人と違ってたんをうまく吐き出せず、のみ込んでしまうこともあるが、通常は悪影響はないという。
 
東京慈恵会医科大学第三病院の勝沼俊雄教授(小児科)は「受診するかの見極めには、症状の期間と程度が重要だ」とする。
数日程度なら風邪などが多いが、3週間~1カ月ほどせきやたんが続くときは、早めに医療機関を受診した方がいいという。
 
子どもでは、体温や睡眠の状態などが症状の程度をみる目安となる。
たんやせきがひどくて夜眠れないときは、肺炎やぜんそくなどを起こしている可能性もある。
長引く原因には、百日ぜきや結核などの感染症、胃食道逆流症、ストレス性のものなど様々な病気が考えられる。
 
せきやたんの症状を和らげる対症療法だけでなく、根本的な原因を特定したうえで、治療方針をたてることが重要だという。
まだ根拠が乏しい分野で「今後も医学的根拠を集めることが必要だ」と話す。

たんの特徴からわかる病気の例
さらさら、透明
ARDS(急性呼吸窮迫症候群)、肺水腫など
ねばねば、どろどろ(粘液性)
気管支炎、COPD、気管支ぜんそくなど
黄色や緑色など(膿性)
気道感染症、肺炎、COPDの増悪、気管支ぜんそく発作など
血が混じっている
  気道感染症や気管支ぜんそくなど。
肺がんや結核のことも

参考・引用一部改変
朝日新聞019.7.10


<関連サイト>
たんができるしくみ
https://aobazuku.wordpress.com/2019/07/15/たんができるしくみ/