小児喘息

小児喘息(ぜんそく)は国内に100万人の患者がいるといわれる。
3歳くらいまでに発症する例が多い。風邪の原因ウイルスやホコリなどが気管支に作用し、呼吸が苦しく、せきが止まらなくなる。
薬の使用と清潔な環境を心がけることが大切だという。

1歳6カ月の男児Aちゃんは風邪を引き、せきにくしゃみ、鼻水、微熱が出た。
両親はしばらく様子をみていたが次第にせきがひどくなった。
数日後の深夜、呼吸のたびにヒューヒューという音がした。
息苦しくて目を覚ましたらしく、急いで病院に連れて行った。
診察した医師から「喘息で発作を起こした可能性が高い」といわれ、そのまま入院した。

炎症で気道狭まる
喘息患者は気管支が過敏で激しい炎症を起こしやすい。
気管支の気道が刺激によって非常に狭くなり、呼吸が苦しくなる発作を起こす。
代表的な刺激は風邪のウイルスやホコリ、ダニなどだ。

発作が起きるメカニズムはいろいろ考えられる。
気管支の粘膜にある炎症細胞がホコリなどに反応し、平滑筋を収縮させる物質を出したり粘膜のむくみを起こしたりして気道が狭まり、発作につながるとの見方が有力だ。

また、患者は気管支の上皮細胞で風邪のウイルスが増殖しやすいことが分かってきた。
この上皮細胞は症状の重い患者ほど傷ついており、それで様々な刺激に弱いのではないかとの考えもあるという。

収縮、むくみ、痰(たん)の増加などで気道が狭くなると、息をするたびに笛のようなヒューヒュー、ゼーゼーといった「喘鳴(ぜんめい)」と呼ばれる音がする。
息をしっかり吐き出せず、少し吸っては長く吐く。
エックス線で撮影をすると肺が空気で膨らんでいるのが分かる。ただ、乳幼児などは喘鳴が聞こえないこともある。

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小児喘息の患者は7~8割が3歳くらいまでに発症する。
呼吸が苦しいので、鎖骨と首の間や胸骨と首の間がへこむ「陥没呼吸」がみられる。
せきや陥没呼吸が認められれば喘息の可能性がある。
発作は夜から明け方にかけて起きることが多い。

喘息の診断では様々な検査や問診の結果を総合して判断する。
比較的簡単な検査が気道可逆性テストだ。気管支拡張作用があり喘息発作の治療などに用いる「ベータ刺激薬」を吸わせて数分で症状が改善すれば喘息の可能性が高い。
症状が改善しなければ別のトラブルが疑われる。

例えば異物の誤飲。硬貨を飲み込み気管支に到達するとせきをしたりゼーゼーと音がしたりする。
気管支におできができていても気道が狭まる。
食べたものが逆流して気管支の方に回る胃食道逆流現象でも喘息の発作のような症状を示す。
Aちゃんのように入院するのは喘息かどうかを見極めて的確に治療するためだ。

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完治しにくい病気
喘息の主な治療薬にはベータ刺激薬のほかに抗炎症薬がある。
抗炎症薬は慢性的な気道の炎症を改善する薬で、「ロイコトリエン受容体拮抗薬」や「吸入ステロイド薬」などがある。

入院したAちゃんは数日で症状が安定した。
検査の結果、喘息以外で喘鳴がする病気は認められなかった。
ただ、アトピー性皮膚炎のほかにアレルギーがあることが分かった。
担当医は両親に「60%程度の確率で喘息と考えられる」と説明。
退院後は抗炎症薬をしばらく服用して様子をみることになった。担当医からは、室内を清潔に保つようアドバイスがあった。

家のダニを10分の1に減らすと発作の起こりやすさは約3分の1に下がるという。
ダニは布団に多く、縦50センチの範囲を掃除機で20秒かけて何度も往復吸引するとよい。
「布団1枚を吸引するには数分かかるが、掛け布団も敷布団も週1回やればダニが10分の1に減る」と勝沼准教授は語る。

たばこの煙にも気をつけたい。
家族が喫煙した際に患者が受動喫煙するとせきが出やすくなる。
吸入ステロイド薬の効き目も弱まってしまう。
ペットの毛やふけなども注意が必要だが、ペットは情緒を育てる面もある。
工夫すれば飼い続けられる場合も少なくない。

Aちゃんは経過が順調で、抗炎症薬の使用は約4カ月で終わった。
しかし担当医には喘息が治ったわけではないといわれた。
大人になった後も喘息の症状を抱えている人は少なくない。

喘息は依然として完治しにくい病気だが、薬は進歩している。
多少苦しくなる軽い喘息症状が年に数回程度あるものの、薬を短期間用いれば仕事や生活に支障を与えないレベルにまで改善させることが容易になった。 (編集委員 鹿児島昌樹)

出典 日経新聞・朝刊 2012.2.10
版権 日経新聞